麺の上の具材は、卵、にしん、九条ネギ、天かす…シンプルでありながら、味わい深く魅せてくれるのは、熟練した職人の手の動きがあってこそ。今回は、京都の麺の中から「地味」で「滋味」な定番の味を探しました!味はもちろん、扇絵を鑑賞するように、どんぶりの中の景色も楽しんでみてください。
祇園 権兵衛の「けいらん」
「やわらかい京都のうどんは、だしがあってのもの。だしにからみやすい舌触りを考えます」と4代目店主・味舌輝明(ましたてるあき)さん。あんかけ玉子とじ「けいらん」においては、「玉子があんの中に散るさまが湯葉のように見えると腕がいいって言われるのよ」と大女将。祇園の“食堂”として食のうるさがたを90年以上支えてきたこの店には、麺哲学が満載です。玉子の散らし方/寄せ方には独特な作法があり、「卵の味を残すようにおおまかに、です」と店主。おだしにひたる白身の淡味、これがわかるようになったら京都通になれるのかも?
◆祇園 権兵衛(ぎおん ごんべえ)
住所 京都府京都市東山区祇園町北側254
常盤の「ハイカラ」
関西でハイカラといえば揚げ玉の入るうどん。九条ねぎが入るのは京都の地域性としても、そこに焼きかまぼこ(慶応年間創業の専門店・大栄製)と粉山椒(七味家製)が加わるとさすが祇園に3代続く店。名物の価値があります。店主・山田淳さんによれば「そんな大層なことはなくて。この店で安くておいしいものは?と聞かれてハイカラをすすめていたら名物になったみたいです」。自家製の平打ちのうどんはゆがくのに時間がかからず、だしにからみやすいそうで、これもおいしさの一要素。力強いだしがシンプルなおうどんを支えます。
◆常盤(ときわ)
住所 京都府京都市東山区新橋通橋本町412
そば処みやこの「にしんそば」
生魚の代わりの栄養源だった身欠きにしんとそばの“出合いもん”は京都発祥。にしんの甘露煮をつくらせたら京都一、の評判は本当でした。3代目を継ぐ永田善久さんは初代の妻、永田さんのおばあちゃんの炊き方を守っているそう。米のとぎ汁で朝と晩、10日かけてにしんを戻すことで身はふっくら、極上の甘露煮ができあがります。そば粉は北海道産の石臼挽きを使用。「そばは江戸前風、だしは京都の味でいいとこ取りです」。にしんの脂がジュワッとしみ出たそばつゆがなんとも美味な逸品。
◆そば処みやこ
住所 京都府京都市中京区西洞院通蛸薬師下ル古西町429
やっこの「キーシマ」
中華麺に和だしのつゆ。「ねぎをのせておそばの感覚でどうぞ。最初はそのままの味で、次に七味、最後に山椒でもそれはお好みで」。自家製の麺は細麺ながらモチモチとした食感があり、まったりとしただしに合う。「うちのおだしは甘みが強い。これがさっぱりした味では麺が負けてしまうのだと思います」と3代目店主・川畑宗生さんの妻、法子さん。店の始まりは昭和5(1930)年。「キーシマ」は黄色いそばの呼び名が変じたもので、まかないから始まったとか。残したい京都の食遺産ここにあり。
◆やっこ
住所 京都府京都市中京区夷川通室町東入ル冷泉町76