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Culture

2023.10.12

最新テクノロジー×伝統工芸! キヤノン「綴プロジェクト」作品展、至宝の8作品が一堂に

最新のイメージング技術と伝統工芸を融合し、日本の「至高の美」を遺す——。

東京・港区の「キヤノンギャラリーS(品川)」で10月11日から11月16日にかけて開催される作品展「高精細複製品で綴る日本の美」は、キヤノンの最新イメージング技術を伝統工芸と融合させて生み出した、我が国が世界に誇る貴重な文化財の「高精細複製品」が一堂に会する展覧会です。

作品展の背景となっているのは、キヤノンならびに特定非営利活動法人 京都文化協会が2007年にスタートさせた「綴(つづり)プロジェクト」(正式名称:文化財未来継承プロジェクト)です。同プロジェクトがどのような取り組みなのか、さらに、最新技術と伝統工芸の技を融合させることで何が生まれるのか。「綴プロジェクト」の狙いに迫ります。

最新技術・匠の技で再現する、比類なき日本の美

「綴プロジェクト」とは、日本古来の貴重な文化財の高精細複製品を制作し、その複製品を有効活用することで多くの人に作品鑑賞の機会を提供するもの。

日本古来の貴重な文化財には、歴史の中で海外に渡ったものや国宝として大切に保管されているものなど、鑑賞の機会が限られている作品が多数あります。たとえば奇想の絵師、曽我蕭白(そがしょうはく)「雲龍図」。襖絵として制作された大迫力の龍は現在、アメリカ・ボストン美術館で保管・展示されています。あるいは、長谷川等伯(はせがわとうはく)の代表作であり、近世日本水墨画の最高傑作とされる国宝「松林図屏風」。東京国立博物館に所蔵されていますが、作品保存の観点から、近年では展示期間が正月などの数週間に限定されています。

こうした貴重な文化財をより多くの人が間近に鑑賞でき、さらに学校教育の場などでも活用できるよう、限りなくオリジナルに近いものとして制作されたのが、同プロジェクトの「高精細複製品」なのです。デジタルアーカイブを残すだけでなく、日本古来の貴重な文化財と接する機会を広く提供することで日本文化の再認識を促しています。

「綴プロジェクト」作品ができるまで

綴プロジェクトの高精細複製品は、単に作品を撮影・復元したコピーではありません。キヤノン独自のデジタルイメージング技術と、京都の伝統工芸の技が融合することによって生まれた、原本と見分けがつかないと言われるほど、精巧につくられた複製品です。

その制作過程をご紹介しましょう。まずは対象となる文化財を、同社の最新デジタルカメラと専用に開発した制御システムを用いて、微細な動きまで自動で制御しながら多分割撮影します。多分割撮影したデータをデジタル合成する際、レンズ収差による「ひずみ・ゆがみ」などの補正も施されます。そのうえで、照明の違いによって生じる色の見え方を、独自開発の画像処理技術によって補正し、忠実な色再現を実現しています。

さらに、プリント技術にも同社の最新テクノロジーが採用されています。水墨画の繊細な濃淡、陰影が生み出す立体感、経年変化による文化財の微妙な風合い、質感は12色の顔料インクシステムを採用した大判プリンター「imagePROGRAF」で出力し、実物と遜色なく再現。これまで難しいとされていた和紙や絹本への出力も、それぞれ独自開発した紙や絹本を使用することで可能となりました。

一方、綴プロジェクトの最大の特徴は、ここからの工程にあります。金箔・金泥の再現です。この工程は、京都・西陣の伝統工芸士が手掛けています。単に印刷した複製品に金箔・金泥を施すのではなく、「古色」と呼ばれる経年変化や風合いを再現する表現技法によって、作品の持つ「年代」までも忠実に再現しているのです。金箔は、文化財の制作年代や産地によっても差異があるため、それぞれ緻密に検証したうえで、複数の種類が使い分けられます。

最後は表装。西洋の絵画とは異なり、日本の近世美術はその多くが襖絵や屏風絵などとして描かれました。表装には京都で古くから文化財修復などに携わってきた伝統工芸士が携わり、表具師の伝統技法を用いて制作当時の襖や屏風に設(しつら)えられています。

作品展で観られる至高の美、8点がズラリ

綴プロジェクト作品展「高精細複製品で綴る日本の美」(会期:10月11日~11月16日)では、こうしたプロセスを経て制作された高精細複製品のうち、教科書などで一度は目にしたことのある有名な作品8点が展示されます。日本が世界に誇る美の極致の数々を、まさに間近に鑑賞することができます。展示作品をそれぞれご紹介しましょう。

国宝「風神雷神図屏風」

原本:俵屋宗達(たわらやそうたつ)筆、大本山建仁寺 所蔵
生没年不詳の謎の絵師・俵屋宗達。江戸初期、本阿弥光悦(ほんあみこうえつ)の指導によって、やまと絵屏風の伝統的意匠に革新をもたらした人物。尾形光琳(おがたこうりん)、酒井抱一(さかいほういつ)も、宗達の「風神雷神図屏風」を模倣した作品を制作している。貼りつめられた金箔は、描かれる物象の形を際立たせるばかりでなく、特にこの屏風においては無限の奥行きをも感じさせる。かたちと色彩が唯一無二の調和をもたらしつつ、この世のものとは思えない遊戯の世界を表現している。宗達の芸術の真骨頂とも言える作品を、高精細複製品は見事に再現している。

国宝「松林図屏風」

原本:長谷川等伯 筆、東京国立博物館 所蔵(プロジェクションマッピング実施)(画像上が右隻、下が左隻)
桃山時代の画壇を狩野永徳(かのうえいとく)とともに席巻した、長谷川等伯の代表作。室町水墨画の伝統を、高揚する桃山文化の精神に重ね合わせ、靄に包まれながら見え隠れする松林の風情を一気呵成に描きつつ、禅の境地とも、侘びの境地とも受容される閑けさと奥深さを感じさせる。作品展では、作品の世界観を表現した映像を投影するプロジェクションマッピングを実施する。

重要文化財「竹に虎図襖」

原本:狩野山楽・山雪(かのうさんらく・さんせつ)筆、臨済宗妙心寺派 天球院 所蔵
狩野山楽は、師・永徳を継ぐ狩野派の中心人物として「紅梅図襖」などに腕をふるった人物。養子である山雪との合作は複数あるが、この「竹に虎図襖」もその一つ。妙心寺の塔頭である天球院の方丈に描かれた障壁画のうち、仏事が執り行われる室中に描かれたもので、絶妙な配置で描かれる青々とした竹と虎とのリズムは、見るものを飽きさせない。

重要文化財「風神雷神図屏風・夏秋草図屏風」


原本:尾形光琳/酒井抱一 筆、東京国立博物館 所蔵
俵屋宗達の没後15年を経た万治元(1658)年、京都の呉服商に生まれた尾形光琳。宗達が残した「風神雷神図」を模写し、さらにその光琳の死後半世紀以上を経て、酒井抱一は光琳の模写の裏面に、自らの代表作を描きつけた。後に「琳派」と称される3人が生きた時代は重ならないが、この両面屏風からは一つの作品を通じて彼らが互いに深く理解し合い、さらなる高みを目指そうとした心意気までもが想像されるよう。現在原本は表裏が別々になっているが、本来の形と同じ表裏を一体にして複製。本作品は、 国立文化財機構とキヤノン株式会社による「高精細複製品を用いた日本の文化財のための共同研究プロジェクト」により制作された。

「樹花鳥獣図屏風」


原本:伊藤若冲(いとうじゃくちゅう)筆、静岡県立美術館 所蔵
江戸中期の京都で、ひとり独創的な絵を描き続けた画家、伊藤若冲。「奇想の絵師」と呼ばれ、再評価されるようになったのは、20世紀に入ってからだった。彼の作品の中でもとりわけ特徴的なこの作品は、右隻(画像上)が白象を中心に置く「獣尽くし」、左隻(画像下)が鳳凰を囲む「鳥尽くし」で、空想上の生き物を含めてさまざまな鳥獣が水辺に群れ集うという、彼の「奇想ぶり」が存分に発揮されている。高精細複製品は、「升目描き」や「モザイク画法」と呼ばれる若冲の手法も手に取るように鑑賞できる。

「雲龍図」


原本:曽我蕭白 筆、ボストン美術館 所蔵(All photographs © 2015 Museum of Fine Arts, Boston. Reproduced with permission.)
伊藤若冲と同じく、江戸中期に京都の商家に生まれた曾我蕭白。当時廃れつつあった、桃山時代の曽我派の継承者を自任したその画風は、室町・桃山の水墨画法に加え、中国の文人画家の作風にもおそらくインスピレーションを得ながら、独自の道を歩んでいった。本作は縦165cm、横10mにもおよび、1911年に襖から剥がされた状態でアメリカ・ボストン美術館に収蔵され、近年の修復作業により本来の襖に近い形態に仕立て直さている。

「見返り美人図」

原本:菱川師宣(ひしかわもろのぶ)筆、東京国立博物館 所蔵
江戸初期に上方で流行した風俗画が、その後寛文年間(1661~1673年)ごろに江戸で流行するようになり、その中心地を移していった背景には、菱川師宣の活躍がある。挿絵画家として活動し、肉筆の美人風俗画に優れた手腕を発揮するようになった彼は、「美人画」のスタイルの典型をつくりだした。「憂き世」から「浮き世」へと変化した時代の中で、自らを「浮世絵師」と名乗った彼によって、後に世界を席巻する「浮世絵」は創始され、この作品はその極北となった。本作品は、 国立文化財機構とキヤノン株式会社による「高精細複製品を用いた日本の文化財のための共同研究プロジェクト」により制作された。

「江戸風俗図屏風」


原本:菱川師宣 筆、スミソニアン国立アジア美術館 所蔵(Freer Gallery of Art, Smithsonian Institution, Washington, DC: Gift of Charles Lang Freer, F1906.266 F1906.267)
浮世絵の創始者・菱川師宣は屏風にも多彩な絵を描いた。明治期に米国へ渡ったこの屏風は、右隻(画像上)には秋の風景、左隻(画像下)には春の風景が描かれる。資料的価値も高く、浅草や上野の様子などを通して、当時の江戸庶民の風俗、生活の一端を仔細に観ることができる。師宣が社会をどのような心情で眺めていたのか、市井の人々に対する彼の細やかで温かな視点から、思い量ることができるだろう。

綴プロジェクト作品展「高精細複製品で綴る日本の美」詳細


・会期 2023年10月11日(水)~11月16日(木)
・開館時間 10時~17時30分 ※日曜・祝日休館
・会場 キヤノンギャラリー S(住所:東京都港区港南2-16-6 キヤノン S タワー1階)

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和樂web編集部

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