Culture

2023.12.30

古典文学の名作に挑んだ日々。林真理子さんが語る、林版『平家物語』誕生秘話!

作家としてデビューして42年! 発表した作品は200作を超え、林真理子さんはずっと途切れることなく、第一線の人気作家として活躍を続けています。多忙を極める日々の中で上梓した最新刊は、日本古典文学の名作を小説として再構築した〝林版〟『平家物語』です。
恋愛小説、歴史小説、社会派小説、古典文学、そしてエッセイ。林さんの、多岐にわたる作品群をひもといてみれば、林さんがどれほど広く、深く、世界と時代を見つめているかをあらためて知り、感じ入ります。最新刊『平家物語』への林さんの思いを教えていただきました。

きもの、歌舞伎、和歌…
日本美を楽しむ人生から生まれた、林版『平家物語』

平安時代末期の戦乱の世を舞台に、平清盛を中心とした平家一門の栄華と滅亡を描いた日本古典文学の名作『平家物語』。平家や源氏の武士や貴族など、平安末期の実在した人物が登場する史実に基づく軍記物語を、林さんは、小説として再構築し、最新刊『平家物語』は誕生しました。

物語が成立したとされる鎌倉時代から、語り継がれ、読み継がれ、同時に文学、演劇、美術作品などに多大な影響を与えてきた『平家物語』には「日本の美のすべてが詰まっています」と語る林さん。
「小説を書くにあたり、平家が滅亡した壇ノ浦(山口県下関市)に行って取材をしたのですが、そこで見たキラキラと輝く海と海峡の狭さに驚きました。源平合戦のとき、その海の上にはたくさんの船が浮かび、死を覚悟して、きらびやかな正装のきものを着た平家の女性たちと子供たちが乗っていた。〝滅びゆくもの皆美しく〟ですが、美しさとともに壮絶な恐怖も感じます。逃げ場のない場所で目の前に敵がいるという状況が、どれほどの恐ろしさか……。今、ウクライナやパレスチナの人々が直面している現実にも思いがおよびました。壇ノ浦で感じた衝撃が書けたらいいな、と最初に思ったのです」(林さん・以下同)

こうして林版『平家物語』の最初の場面は壇ノ浦から始まりました。時の経過に沿って史実を追っていく原典の『平家物語』とは異なり、治部卿局、平清盛、平維盛、平敦盛、建礼門院徳子、二位尼時子、後白河法皇、源義経、阿波内侍といった登場人物を軸にした9つの章で物語が展開していきます。「一ノ谷の合戦」や「大原御幸」などの名場面を網羅しながら、人物の心情が、まるで目の前にいるかのように、強く、リアルに伝わってくるのは、これまでの林作品と同様です。とりわけ、小督や小宰相など女性たちの愛する男性を思う、せつない感情描写は官能的で、この上ない美しさに満ちていて、数多の恋愛小説を生んできた林文学の真骨頂といえるでしょう。

「歌舞伎の名作に平家物語を題材にした『熊谷陣屋』がありますけれど、熊谷直実が〝ああ、この世は夢だ〟と言うのが、非常に現代的な感情で、心に残っていました」
と語るように、長年、歌舞伎が好きで観劇を続けてきた林さんだからこそ、深い思いが込められたシーンも……。平安文学を踏襲するかのような優美な和歌の引用や華麗なきものの描写にも、林さんの日本美への愛情を感じます。

「平安時代の衣裳は、『源氏物語』(『六条御息所 源氏がたり』『STORY OF UJI 小説源氏物語』)を書いたときにかなり研究したので、〝紅梅襲〟などの描写はすぐに出てきました。きっと、『平家物語』を読んだことがない方にも親しんでいただける作品になったと思います。古典の入門書としてではなく、ひとつの小説として楽しんでいただけたらうれしいです」

林さんの仕事部屋にて。山積みの本や資料に囲まれて、文字どおり〝所狭し〟となった机の上で原稿用紙に愛用のサインペンを走らせる。書棚には『平家物語』や『源氏物語』の資料が並ぶ一画も。林版『平家物語』の監修を務めた櫻井陽子先生(駒澤大学教授)が共著者として名を連ねる、分厚い『平家物語大事典』は、執筆時に欠かせない手引き書となった。

登場人物の内面をリアルに描き出す、令和の『平家物語』

日本古典文学史上の名作を、作家林真理子氏が換骨奪胎。「鹿谷の謀議」「一の谷の合戦」「壇ノ浦の戦い」「大原御幸」など、誰もが興味を惹かれる著名な場面、現代人の心に響く部分だけを抽出して鮮やかに再構築しました。

スピード感あふれる展開! 美しい情景描写! さらに、平安時代末期の平家源氏皇室を取り巻く、ドロドロとした抗争に翻弄される人々の内面を、丹念に、リアルに描き出した部分は圧巻!

※本記事は『和樂』2024年2,3月号を再構成したものです

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和樂web編集部

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