今回の「旅」は…バレエ、踊り、そして身体表現。
バレエもインスピレーションの源に
踊りは僕の生命線であり、僕の表現活動とは切っても切れないものです。物心がついた時には、僕の中で「踊り」といえば歌舞伎舞踊、日本舞踊のことでした。
3歳で初めて歌舞伎の舞台に立たせていただいた時も、はじめに取り組んだのは踊りのお稽古でした。藤間流の御宗家に足繁く通ったのをおぼろげながら覚えています。歌舞伎の舞台を一旦お休みさせていただいている今も、踊りのお稽古は続けています。
踊りの名手と言われた六代目尾上菊五郎のおじさまは、辞世の句で「まだ足らぬ 踊りおどりて あの世まで」と詠まれました。
僕にとっても踊りは、芝居と並び死ぬまで向き合い、苦しみ、楽しみ続けなければならないものだと感じます。何よりも、あらゆる表現の上で“身体表現”というもの以上に、絶対的に外せないものは他にないと思います。
身体表現というカテゴライズをしてもなお、地球上には数え切れないほどの踊りがあります。僕自身が習い経験してきたのは歌舞伎の舞踊ですが、バレエもとても勉強になる、インスピレーションの源としてかけがえのないものです。
高校生の頃から少しずつバレエを見るようになったのですが、初めてバレエで衝撃を受けたのは熊川哲也さんのKバレエカンパニーの『ベートーヴェン 第九』でした。Bunkamuraオーチャードホールの客席で拝見しながら、熊川さんの身体構造がどうなっているのか。あの跳躍力は身体のどこを鍛えればできるのだろう。他のバレエダンサーとの違いは、など頭をフル回転させたことを今でも鮮明に覚えています。
身体に埋め込まれた、踊りの細胞のようなもの
20歳か21歳の頃だったと思います。あるお仕事で、敬愛する野村訓市さんとじっくりお話をしたことがありました。訓市さんがご自身の人生の中でとても感動した舞台として挙げてくださったのが、シルヴィ・ギエムの『ボレロ』でした。
僕は家に帰るとすぐに映像を調べて、携帯の小さい画面でシルヴィの日本で行った最後の『ボレロ』を食い入るようにみました。それまでのバレエの概念がどこか壊されて再構築されていくような、Kバレエに続く衝撃でした。
シルヴィを調べていくうちに、名前だけは聞き及んでいたモーリス・ベジャールに辿り着きました。坂東玉三郎のおじさまとベジャールの関係性、歌舞伎とバレエの関係性が見えてきて、全く違う分野だと思っていたものがとても近くにあったのだと再認識するきっかけに。さらにその少し前の20歳の11月、国立劇場で中村鷹之資くんと『三社祭』を踊らせていただいた時のことを思い出しました。
舞台を観てくれた知人から、僕の踊りはなんだか西洋の匂いがしてオペラ座バレエ団にいたマニュエル・ルグリのようだった(僕にとっては雲の上の存在!)という感想をくれたことがあったのです。
点と点が線で繋がるように色々な記憶が呼び起こされて、僕の身体のどこかに埋め込まれていた「踊りの細胞」のようなものがアップグレードされていくようでした。そしてバレエは、僕にとって踊りへの好奇心をいっそう掻き立てるスパイスになったのです。
歌舞伎をはじめ様々な舞台を拝見している中で、最近また新たな衝撃を受けた舞台があったのですが、少し長くなってきましたのでこの話は次回に。
第1回、読んでくださりありがとうございます。次回もお楽しみに!
片岡千之助さん出演情報
NHK大河ドラマ「光る君へ」
敦康親王役
総合 日曜 午後8時00分 / 再放送 翌週土曜 午後1時05分 他
映画『九十歳、何がめでたい』
2024年6月21日(金) 全国公開 大ヒット上映中