この企画の発端は、もともと3年前の秋、私が直木賞を頂戴したときに遡ります。同じ年に朝井まかてさんが柴田錬三郎賞を受賞されて、二人でかつて親しくしていた葉室麟さんのお墓参りをしようということになったんです。そこに東山彰良さんと髙樹のぶ子さんも加わってくださって、墓参の後に食事をしていた時、当時はまだコロナによるさまざまな制限があったころで、「いつか皆で何か楽しいことをやりたいね」という話から文士劇の話題になりました。
その話はそこで終わるかと思っていたのですが、朝井さんが水面下で動き出してくださって、気がついたら劇場の確保ができ、いよいよ本格的に開催する目処が立ちました。大阪での文士劇の公演としては、実に66年ぶりとなります。
演目は東野圭吾デビュー作『放課後』を舞台化
演目を決めるにあたっては、初めに時代劇の案が出たんですが、衣装代やセットのことを考えると予算的に厳しく、断念。そこで東山さんが「学園ものはどうか」と提案してくれて、作家たちがセーラー服・学ランで出てきたら楽しいんじゃないかということで、決まりました。実は黒川さんは東野圭吾さんと親しくて、東野さんにご相談したところ快く許可してくださり、デビュー作でもある『放課後』に決まりました。
出演者は、関西・九州を拠点にするなど、何かしら西日本に縁のある作家、編集者、挿絵画家、さらには懇意にしている書店員さんにも声をかけたところ、ありがたいことにあっという間に必要な人数が集まりました。とはいえ、舞台については全員が素人ですので、脚本や演出は自らも劇団を率いている脚本家・村角太洋さんにお願いしています。
クラウドファンディングの理由
8月半ばから本格的に稽古を始める予定ですが、全員が揃うスケジュールを見つけるのは難しく、そうしたこともあって公演は11月16日の1回限り。そのため、運営的にも決して楽な見通しではなく、作家がそれぞれ手弁当で運営にあたっていますが、開催に際してクラウドファンディングで賛同いただける方にご支援をお願いすることとしました。
返礼品としては、今後執筆する作品にお名前を登場させることができる権利など、文士劇ならではのものを用意しています。パンフレットなども編集者さんまかせではなく朝井さんが自ら立案するなど、本当に皆で一から作り上げています。私自身、学生時代からお能には親しんできましたが、こうした現代劇の舞台に上がるのは学芸会以来で、右往左往しながら運営に携わらせてもらっています。
朝井さんは「まるで授業の合間に学園祭の準備を進めているみたい」と笑っていました。作家たちの「放課後」活動にふさわしい舞台になるかと思います。
読者と顔を合わせることがないからこそ
私たちの仕事は、普段読者の人と顔を合わせることのない仕事でもあり、読者さんとの距離はやはり遠いように思います。けれども劇というかたちで作家自ら演じることで、観に来てくださる方々に読書をより身近に感じてもらえるのではないかと思っています。また、編集者さんや書店員さんなど、本に関わるさまざまな仕事の方々、さらには本を手に取ってくださる読者の方々とも一緒に舞台を作り上げていけることが、なにより嬉しく思います。
実行委員会では、この取り組みを長く継続させていきたいと考えていて、私個人としてはいずれは図書館の司書さんなどにも参加してもらえればと思っています。そのような文士劇はいまだかつて演じられたことがありませんし、取り組みの裾野をさらに広げていけるのではと考えています。
ぜひ舞台を観に来てくださることをお願いするとともに、クラウドファンディングによるご支援をお願いできればと思っています。
info
「なにげに文士劇」公式HP
https://nanigeni-bunshigeki.com/
クラウドファンディングはこちらから
https://readyfor.jp/projects/nanigeni-bunshigeki2024