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Culture

2025.10.31

片岡千之助の連載 Que sais-je「自分が何も知らない」ということを知る旅へ!#009 カーテンコール

“Que sais-je(クセジュ)?”とは、フランス語で「私は何を知っているのか」。自分に問いかけるニュアンスのフレーズです。人生とは、自分が何も知らないということを知る旅ではないでしょうか。僕はこのエッセイで、日々のインプットを文字に残し、皆さんと共有します。第9回の「旅」は…カーテンコール。

大千穐楽のカーテンコールで浴びた光

新国立劇場で東京公演の初日を迎えた舞台『ハムレット』が、京都の先斗町歌舞練場ぽんとちょうかぶれんじょうという築98年の歴史ある劇場で大千穐楽を迎えました。

大千穐楽は9月15日。

いつものように芝居の反省や課題が生まれてくるのと同時に、無事に公演を終えられる安堵、明日はもうハムレットを演じられない寂しさなど、さまざまな気持ちが入り混じっていました。

歌舞伎には、基本的にカーテンコールがありません。だから僕は毎公演カーテンコールをいただきながら、最後までカーテンコールというものに慣れることがありませんでした。

そのような心持ちでしたが、大千穐楽の最後のカーテンコールは、僕にとって特別なものとなりました。

歌舞伎座や歌舞練場のような「和」の劇場では、舞台の照明は基本的に暖色です。でも今、記憶に甦る大千穐楽のカーテンコールで浴びた光は、まるで寒色。身体中に突き刺さってくるような鮮烈な耀きでした。何もない荒野や大海に誘うかの如く煌々こうこうとした眩い光であり、目の前の自分の人生という道のりを照らすよう。未知なる領域への恐怖と好奇心が、満ち溢れてきたのを覚えています。

祖父片岡仁左衛門も演じたハムレット。舞台袖からの1枚。

ルーツという言葉に集約される、すべてのことへ

ハムレットと向き合った約1年、「ここでふんどしを締め直し、舞台にしっかり向き合えなければ、役者として先はない」と自分に暗示をかけて過ごしました。それからは自分の未熟さ、弱さを、短剣でえぐられるように感じる日々。この公演が終わったら、自分は燃え尽き症候群になるだろうとも思っていました。しかし今、抉られた傷は広がっていくばかり。そして燃え尽きるどころか、自分の中にようやく小さくも炎が燃え始めたことを実感しています。名付けて、燃え始め症候群…とでも言いましょうか(笑)。

なぜ自分が生まれてきたのか。なぜこの環境で育ててもらったのか。なぜ生きていくのか。そしてなぜ役者であるのか。

この舞台を通し、ルーツという言葉に集約されるすべてのことに、今さらながらの自分なりの感謝の心と、これから描くべき人生の地図の切れ端を見つけられたような気がします。

そんなきっかけとなる大役に、25歳で挑ませていただけたことへの感謝は、言葉では言い尽くせません。応援してくださる皆様、今回劇場にお御足を運んでくださった皆様、舞台裏で僕を支えてくださった皆様にも、あらためて心より感謝申し上げます。

共演の皆さまと!

一人の表現者として、不安も恐怖もなお一層心に闇を広げています。と文字にすると悲観的な印象を受け取られる方もおられるかもしれませんが、この不安や恐怖こそ、僕がずっと求めていた感覚。痛みや苦しみに身構える自分がいて、そんな自分をニヤニヤと眺めている自分もいます。その闇の中で心が燃え始めてくれたことは、たしかです。

もっとお芝居がしたい、もっと表現がしたい。最後に残るのはその心だと実感している今日この頃です。この連載も、さらに彩ある楽しいものとして、皆さんにお届けし共有していけたら嬉しいです。

では、また次回。

先斗町歌舞練場にて

関連情報

映画『爆弾』
2025年10月31日(金)公開予定
監督:永井聡
出演:山田裕貴、伊藤沙莉、染谷将太、坂東龍汰、寛一郎、片岡千之助、中田青渚、加藤雅也、正名僕蔵、夏川結衣、渡部篤郎、佐藤二朗
原作:呉勝浩「爆弾」(講談社文庫)
公式サイト

第九回 谷口裕和の会
2025年11月26日(水)
GINZA SIX 観世能楽堂
出演:市川中車、尾上右近、片岡千之助/谷口裕和

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片岡千之助

2000年生まれ。2004年歌舞伎座にて4歳で初代片岡千之助として初舞台を踏む。2011年、片岡仁左衛門と戦後初の祖父、孫での「連獅子」を実現させる。2012年(当時12歳)から自主公演「千之会」を主催するなど芸事への研鑽を積みながら、2017年にはペニンシュラ・パリにて歌舞伎舞踊を披露、2020年『カルティエ』腕時計パシャのアチバー(達成者)に選ばれる。また昨今では大学に復学しながら、主演映画を続けて勤め、現代劇舞台、ドラマと様々な分野で表現者として邁進している。
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和樂web編集部

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