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2025.12.13

江戸時代のスター・ウォーズ!?『国性爺合戦』を竹本織太夫が語る【文楽のすゝめ 四季オリオリ】第13回

2025年もいよいよ今月で終わり。師走の気配が感じられる季節となりました。関東の皆さまが心待ちにしていた東京での文楽公演が開催中とあって、今回は東京で取材を決行! 織太夫さんがご出演されている『国性爺合戦(こくせんやかっせん)』について、お聞きしました。

織太夫さんの定点観測スポット?

織太夫さんは、上京した時に必ず立ち寄る場所があります。「新幹線で東京駅に着いたら、丸の内駅舎のドームの写真を撮影して、Xに投稿しているんですよ」。毎回行われているため、同じように真似て投稿されるファンもおられるようです。大正3(1914)年の創建から戦災で焼失したものの、平成24(2012)年に復原された美しい八角形の天井は、見ほれるほどの美しさ。「私はプリンアラモードが好物なのですが、プリンに似ていると思いませんか?」と織太夫さん。中央の茶色がカラメルで、周囲の黄色がプリンに見えてくるような……。

設計を手がけたのは、近代建築の父・辰野金吾。西洋の建築様式に、日本的な美意識も。豊臣秀吉の兜や三種の神器を想起させる意匠が施されている。

いつもはドームの下から見上げておられるとあって、今回は違う場所から眺めていただきました。しっかり撮影もされていましたので、Xに投稿されるかも!?

いつもとは違うアングルで撮影される織太夫さんを、撮影!

近松門左衛門が生み出した超ロングランヒット作

『国性爺合戦』の作者は近松門左衛門です。よく知られている、世話物※1の『曾根崎心中』とは全く違う、スケールの大きな時代物※2で、その幅広い才能に驚かされます。正徳5(1715)年に大坂・竹本座で初演されると大きな反響を呼び、17か月にわたるロングランを巻き起こしたのだとか。「私が聞いたところでは、劇団四季の『キャッツ』のロングラン公演が行われるまでは、記録が破られていなかったそうですよ」。いかに、当時の人たちが熱狂したのかが、伺い知れるエピソードです。

『国性爺合戦』とは、このような物語です。

中国大明国の皇帝・思宗烈(しそうれつ)は、家臣の裏切りに遭い、韃靼国(だったんこく)の軍勢に殺されてしまいます。皇帝の妹・栴檀(せんだん)皇女は船で落ち延び、日本の平戸(現在の長崎県平戸市)に漂着して和藤内(わとうない)と出会います。

和藤内の父は明の家臣でしたが、皇帝の怒りを買ったために日本に逃れて、老一官(ろういっかん)と名を改めていました。そして日本人の妻を娶り、もうけたのが和藤内だったのです。栴檀皇女から明が滅亡の危機と知った和藤内と老一官夫婦は、祖国を復興するために中国へ渡ります。

実は、中国には老一官と先妻との子、錦祥女(きんしょうじょ)がいました。今では韃靼に仕える名将・五常軍甘輝(ごじょうぐんかんき)の妻となっているため、娘を頼って甘輝を味方につけようとの思惑でした。和藤内一行は、甘輝の城にたどり着きます。

(※1)作品の時代を江戸時代の町人世界に設定した演目のこと。
(※2)作品の時代を江戸時代より以前の時代に設定した演目のこと。

主人公の名前は洒落?中川家もビックリのナンチャッテ語も!

初日に『国性爺合戦』Aプロを拝見したところ、幕が開くなり、通常の文楽の公演では珍しい中国の雰囲気を醸し出す舞台装置で、ワクワクしました。最初の段「楼門(ろうもん)の段」を、織太夫さんが語られます。和藤内一行がたどり着いた、大きな城門がそびえ立つこの場所で、ドラマチックな物語が展開。「近松は、日本初のミックスキャラを主人公に持ってくるところが、すごいですよね。当時鎖国時代だったことを考えると、未知の中国を舞台にした活劇で、きっとスター・ウォーズ級の衝撃だったと思いますよ」

私はこの作品は初めてだったのですが、ハラハラドキドキの連続で、退屈している暇などないほどで、楽しめました。まさしくスター・ウォーズ! 「和藤内の名前は、和(日本)でも唐(中国)でもないという意味をかけた洒落だと言われています」。近松って、愉快な人物だったのですね……。

物語のなかで、「びんくはんたさつ。ぶおんぶおん」と兵たちが詞(ことば 台詞)を発するところががあります。織太夫さんにお尋ねをしたところ、「漫才コンビの『中川家』が、中国語らしい独特の言葉を話すネタがありますよね、あれと一緒なんですよ」との回答。ええ!! 意味がなかったのですか!? 中国語風味を出すためのナンチャッテ語だったとは、近松面白すぎます!

スペクタル活劇の語りは、迫力と共に優美で繊細

「楼門の段」では、幼い時より離れ離れで暮らしていた錦祥女と老一官の再会、義理の関係である母と娘とが、お互いを思いやる心情が描かれます。キャラが立つスーパーマン的な和藤内が主人公の活劇でありながら、とても優美で繊細さも感じる語りでした。

「書道でいうところの、トメ、ハライを端々にまで気を行き届かせるように語っていますね。45分の間集中力が途切れないように心がけています」。優美と感じたのは、曲風がそのように作られているからだそうで、大和風(やまとふう)と呼ぶと教えていただきました。「竹本大和掾(たけもとやまとのじょう)※3が残した大和風というのが残っていて、非常に優美な音遣(おんづか)い※4で聴かせるのに特徴があるのです」。勇壮なだけではない、大和風「楼門の段」の語りに浸れるのも、『国性爺合戦』の醍醐味と言えそうです。

(※3)江戸時代中期の浄瑠璃の太夫
(※4)素読み(抑揚のない読み方)と異なり、旋律や抑揚など音楽的な技法を用いて劇的に語る技法。

衣裳や効果音など、異国情緒漂う魅力

今回の公演は、無料のプログラムが配布され、演目の間には技芸員の解説が挟まれているので、文楽を初めて観る人にはうってつけです。「物語もわかりやすいですし、普段の人形では見られない中国の珍しい衣裳や、ドラの音が鳴ったりと異国情緒にあふれています。そうそう、途中で鉄砲の音も入りますしね」。文楽を観てみたいけれど、その機会がなかったという方、体験してみては、いかがでしょうか? 

インタビュー・文/瓦谷登貴子 撮影/篠原宏明

参考書籍:『ビジネスパーソンのための文楽のすゝめ』竹本織太夫監修  実業之日本社

竹本織太夫さん出演情報

国立劇場 第57回文楽鑑賞教室
令和7年12月公演 『国性爺合戦』Aプロに出演

『万才』、解説・文楽の魅力 、『国性爺合戦』のプログラム
※AプロとBプロで出演者が変わります。

■期間:2025年12月4日(木)~12月18日(木) 東京芸術劇場 プレスハウス(JR・東京メトロ・東武東上線「池袋駅」西口より徒歩約2分・駅地下通路2b出口直結)
■開演時間:
午前午前11時開演(午後1時45分終演予定)
午後2時30分開演(午後5時15分終演予定)
※17日(水)は午後2時30分開演のみ
■観劇料:学生2000円 一般(1等席)6000円 (2等席)4000円

◎Discover BUNRAKU 外国人のための文楽鑑賞教室
12月17日(水)午後6時開演(午後9時終演予定)
竹本織太夫さん出演のAプロの公演
※日本語・英語のイヤホンガイド無料貸出 多言語プログラム無料配布

公演の詳細な内容:日本芸術文化振興会
https://www.ntj.jac.go.jp/schedule/kokuritsu_s/2025/0712/

チケットの申し込み:国立劇場チケットセンター
https://ticket.ntj.jac.go.jp/

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竹本織太夫

竹本織太夫(たけもと おりたゆう)人形浄瑠璃文楽 太夫。1975年生まれ。大阪市出身。大伯父は四代目鶴澤清六。祖父は二代目鶴澤道八。伯父は鶴澤清治、実弟は鶴澤清馗。1983年、8歳で豊竹咲太夫に入門。初代豊竹咲甫太夫を名乗る。1986年、10歳で国立文楽劇場小ホールにて初舞台。2018年六代目竹本織太夫を襲名。実業之日本社から『文楽のすゝめ』シリーズを3冊既刊。NHK Eテレの『にほんごであそぼ』に2005年からレギュラー出演するなど多方面で活躍。国立劇場文楽賞文楽優秀賞等受賞歴多数。
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