愛知県あま市には、全国でただひとつ、『漬物の神様』を尊崇する神社があります。その名前は「萱津神社(かやつじんじゃ)」。漬物だけでなく「えんむすびの神様」としても知られる、古い歴史を持つ神社です。
「漬物の神様」と聞くと何だか興味をそそられるものの、具体的なイメージが湧かないという方も多いのではないでしょうか。そこで、毎年8月21日に開催されている「香の物祭(漬物祭)」の参加レポートとともに、萱津神社の様子についてご紹介したいと思います!
自然の恵みに感謝する「香の物祭」へ
名古屋駅から名古屋鉄道名古屋本線・津島線で「須ヶ口駅」へ。そこから徒歩で神社に向かい、計1時間弱で萱津神社に到着しました。
2019年8月21日「香の物祭」の当日の朝。神社に近づくと、笛や太鼓などの音楽が聞こえてきました。徐々に音が大きくなってきて「お祭りにやって来た」という実感が湧き、期待が高まります。
漬物を納める「香の物殿」という建物の前には、白菜・かりもり(*)・ナス・大根など野菜が丁寧に並べられていました。地元の方によれば「午後から開催される漬込神事(野菜を漬け込む儀式)に向けて、その準備を進めている」とのこと。
*「かりもり」は、愛知県でよく生産されているウリ系の野菜のこと。シャキシャキとした食感があり、味噌漬けなどの漬物によく利用されています。
上の写真で白菜の上に置かれている草のようなものは「蓼(たで)」。昔から「蓼食う虫も好き好き」という言葉があるように、蓼はとても苦くほとんどの虫が食べるのを嫌がる葉です。
「野菜と蓼を一緒に置くことで、野菜を虫の被害から守る意味があるんだよ」と地元の方が教えてくれました。薬剤などではなく、自然の素材を使って防虫効果を高める様子は、昔から続くお祭りだからこそ見られる風景かもしれません。
香の物殿の前には、野菜を漬け込む様子を表した石もありました。こちらも、他ではなかなかお目にかかれない珍しい一品ですね。
疲れた身体にやさしく染み込む「漬物パワー」
境内には、昨年8月21日のお祭りで仕込んだ漬物の振る舞い(無料)もありました。あたたかい白飯の上にナスやかりもりなどの漬物を刻んだものを乗せて、冷たいお茶をかけていただくというもの。「シンプル・イズ・ベスト」の極みとも言うべき一品で、とても美味しかったです。
一年かけてじっくり漬け込まれたからなのか、まろやかな塩加減。8月半ばの暑さで汗をかいて疲れた身体にも、やさしく染み込む! お祭りにやって来た多くの人たちが、美味しそうに食べていて、その和やかな風景がとても印象的でした。
仕込みなどの手間は最小限にして、じっくり待ったり熟成させたりした結果、料理が美味しくなることを「時間が美味しくしてくれる」と言うことがありますが、この漬物はその表現がぴったりだなと感じました。一口食べると、漬物を作ってくれた人々の手の温もりや奥深い味わいが口いっぱいに広がります。
ここでしか手に入らない漬物のお土産も
振る舞いのテントの隣には、「藪二神物(やぶにこうもの)」と書かれた張り紙があり、昨年仕込んだ漬物(なす、かりもり)の販売がされていました。
「どのくらい日持ちしますか?」と質問すると、「昔のままの塩漬物なので長期間保存できるよ」「でも美味しいから、すぐ食べちゃうと思う」という答えが即座に返ってきました。一口味見をさせてもらって、なるほどと納得。たしかに、すぐに食べ切りそうなほど美味!
パックに詰められていているものは匂いが漏れる心配もなく、これはお土産にも良さそうです。ご飯のおともに合わせると食が進みそう、と美味しい想像が膨らみます。
本殿の横には、昨年の漬物に使った塩が「香の物塩」として置かれていました。
「ご自由にどうぞ」「食用ではなくお祓い用に使ってください」
という文字が書かれていました。
見るからにいろんなエネルギーがこもっていそうなお塩。こちらは自分用のお土産として、大切に持ち帰ることにしました。
ちなみに、香の物祭の一日のスケジュールはこちら。朝の打上花火から始まり、呈茶や写真展なども終日開催され、祭りを盛り上げていました。(2019年のものなので、来年以降は変わるかもしれませんが、お祭りに参加される際にはぜひご参考にしてみてくださいね。)
漬物は「神様からの賜り物」
香の物祭に参加して、漬物の神様にすっかり魅了されてまった私。
そもそもの話になりますが、萱津神社が「漬物の神様」と尊崇されるようになったのには、一体どんな由来があるのでしょうか。
「藪二神物」の漬物を購入した際にいただいたチラシには、古くから伝わるこんなエピソードが紹介されていました。
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(「藪二神物」チラシから一部抜粋)
全国唯一の漬物の神様と崇敬される萱津神社では毎年8月21日香の物祭(漬物祭り)が斎行され、本殿祭に引き続き、境内香の物前に於いて漬物神事が執り行われて居ります。
社伝曰く、神前に里で獲れた初生りの野菜又、海辺に近い土地柄から、藻塩もお供えし五穀の実りの感謝を捧げていたが、供物は朽ちるに任せており、それを惜しんだ里人が、社殿の傍らに甕を置きその中に供物を入れた処、神の思し召しか、甕の中の供物は朽ちることなく瑞々しさを保ち、不思議に思った里人が食してみると、得も言えず美味な味となって居た。
医学の道も進んで居ない当時、雨露に当たっても変わらぬその様を、神からの賜り物として、お薬の様にお守りの様にといただいたとある。
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今でこそ、漬物にはたくさんの種類やレシピがありますが、「野菜と塩」で初めて漬物ができた時には、さぞかし感動したのではないでしょうか。チラシのなかに「神さまからの賜り物として、お薬の様にお守りの様にいただいた」と書かれていることなどからも、当時の様子がそれとなく想像できます。
漬物は、日本人の食生活と深いつながりがありますが、知っているようで知らないことが本当に多い!
今回のお祭りでは、漬物の原点を見たような感じを覚えました。「身体に染み込む味だなぁ」と感じる背景には、いろんな歴史や人の手の温もりが幾重にも重なっているものだなと。
今回はお祭りの当日だったので多くの方で賑わっていましたが、行事のない日にのんびりと静かに散策するのも良さそうです。漬物や和食が好きな方はもちろんですが、「漬物の神様」に関心のある方もぜひ訪ねてみてはいかがでしょうか。
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神社名:萱津神社(かやつじんじゃ)
住所:〒490-1112愛知県あま市上萱津車屋十九
(名古屋駅から名古屋鉄道名古屋本線・津島線「須ヶ口駅」より徒歩15分)
電話:052-444-3019
公式webサイト:https://sites.google.com/site/kayatsujinja/