今年5月、南仏で発表された「ディオール ファイン ジュエリー」の新ハイジュエリーコレクション「ディオレクスキ」。クリエイティブ ディレクターのヴィクトワール・ドゥ・カステラーヌは、夢のようなコレクションを生み出すために、創設者 クリスチャン・ディオールが愛した自然やクチュールの世界と深く関わる象徴的な3つのテーマを掲げました。
ハイジュエリーアトリエが技術の粋を尽くして生み出した作品をヴィクトワールのインタビューを交えながら、ご紹介します。
花に花を重ねていく──斬新なアイディアを魔法のアトリエが現実に
尽きない創造力が生み出す、終わりなき夢の続き
四半世紀以上にわたり「ディオール ファイン ジュエリー」を牽引してきたクリエイティブ ディレクター、ヴィクトワール・ドゥ・カステラーヌ。彼女は、新作ハイジュエリーコレクション「ディオレクスキ」を通して、さらなる冒険に挑みました。
コレクションの3つの象徴的テーマは、「魅惑的な風景」「繊細な花束」「華麗な舞踏会」。創設者 クリスチャン・ディオールが愛した庭園の自然やクチュール界の華やぎをインスピレーション源に、想像を超えた色彩あふれる世界が広がります。楽しさと喜びに満ちた作品は、まさに彼女ならではのもの。
ヴィクトワールはインタビューのなかで、「コレクションは決して完成しない」と語っています。完成の瞬間にも次の構想が芽生え、モチーフや色彩は連続性をもって進化を遂げていくのです。「ディオレクスキ」の創作においても、ジェムストーンとモチーフが複雑にレイヤーを成し、彼女が愛する「混沌のなかにあるバランス」を探るように配されています。花や木々、動物たちは希少な宝石や金細工、ラッカーで彩られ、それぞれが〝物語=作品〟のなかで存在を主張。そんな混沌とした世界のなかでこそ、彼女のバランスを見極める能力が発揮されます。
また、本作でヴィクトワールが仕掛けた〝遊び〟のひとつが、「オパール ダブレット」技法。オパール層にオニキスやマザーオブパールを重ね、空や海を思わせる複雑な色のニュアンスを生み出す、伝統的な技法のひとつです。「オパールはすべての色をもつ無限の石!」とヴィクトワールがいうように、オパールは彼女にとって特別な宝石であり続けてきました。
さらに、作品のなかで注目すべきは、「プリカジュール エナメル」を想起させる半透明ラッカー。光を透過し、ミニチュアのステンドグラスのような効果を生み出します。そうした古典的な技法を現代的に再解釈する能力は、まさに彼女の真骨頂といえるでしょう。

話を聞いたのは…
Victoire de Castellane
ヴィクトワール・ドゥ・カステラーヌ●「ディオール ファイン ジュエリー」クリエイティブ ディレクター。1998年、ファイン ジュエリー部門創設とともに現職に就任し、25年以上クリエイションを牽引してきた。色彩豊かで遊び心のある作品で知られ、世界中にファンをもつ。
探求と挑戦──その根底にあるのは、創作を楽しむ精神
手元に夢の世界が広がる、絵画のようなダブルリング

ヴィクトワール・ドゥ・カステラーヌが愛してやまない宝石、オパールの色彩の可能性を広げるダブレット技法。そのダブレットオパールをダイヤモンドが取り巻くフレームに納め、希少なコロンビア産エメラルドと花々のモチーフで彩った、まさに夢のような作品。ダブルリング[ダイヤモンド計9.71ct×イエローダイヤモンド計0.81ct×エメラルド6.90ct×ダブレットオパール(ブラックオパール&オニキス)×MOP×YG×WG]参考価格¥365,000,000(クリスチャン ディオール〈ディオール ファイン ジュエリー〉)
天性のバランス感覚による、絶妙なレイヤーとボリューム

花々が煌めく、夜の庭園を思わせるネックレス。コロンビア産エメラルドの鮮明なグリーンとオパールの色彩が共鳴し、幻想的な美しさに。レイヤー構造によってモチーフが際立ち、作品全体の立体感をより高める。ペンダントトップとフラワーモチーフにセットされたエメラルドは、オイル処理を施していない希少な石。ネックレス[ダイヤモンド計66.34ct×イエローダイヤモンド計2.11ct×エメラルド計15.79ct(センター10.54ct)×ダブレットオパール(ブラックオパール&オニキス)×MOP×YG×WG×PG]参考価格¥1,060,000,000(クリスチャン ディオール〈ディオール ファイン ジュエリー〉)
この職人技に注目!
「ダブレットオパール」とは、薄いオパールを強化するため、あるいは遊色効果を美しく際立たせるために、土台部分に異なる素材を貼り合わせた二重構造の宝石。ブラックオパールの土台には、オニキスや鉄鉱石がよく使われる。ホワイトオパールの土台には、マザーオブパールを用いることが多い。
春の庭園を想起させる、花々が主役のクリエイション


子供が描いたかのようなフラワーモチーフをマザーオブパールとダイヤモンドで制作。それを重ねた〝モチーフ・オン・モチーフ〟が、華麗なインパクトをもたらす。技術的にも高度な試みがなされており、マザーオブパールの花びらには石留めの爪を通す穴が開けられている。ペンダントトップにセットされたのは13カラットを超えるクッションカットのマダガスカル産ピンクサファイア。リングの中央でも、ネックレスと同じカットを施したピンクサファイアが鮮やかな光彩を放つ。ネックレス[ダイヤモンド計39.07ct×イエローダイヤモンド計2.97ct×ピンクサファイア計17.25ct(センター13.57ct)×ピンクスピネル計5.90ct×MOP×PG]参考価格¥530,000,000・リング[ダイヤモンド計3.25ct×イエローダイヤモンド計0.46ct×ピンクサファイア計5.59ct(センター5.00ct)×ピンクスピネル計0.86ct×MOP×PG]参考価格¥94,000,000(クリスチャン ディオール〈ディオール ファイン ジュエリー〉)
興味が尽きない宝石 オパールの魅力を生かす色彩の遊び
オパールの印象を変える、ドラマティックなデザイン

ヴィクトワールが積極的に用いるまでは、クラシックな宝石というイメージしかなかったオパール。大胆でドラマティックなデザインが、そうした印象を払拭してきた。この作品は、オパールの色彩を周囲の宝石やラッカーで繰り返すことで、主石だけが浮かず、調和のとれた華やかさに。リング[ダイヤモンド計6.18ct×ブラックオパール10.89ct×エメラルド計0.15ct×サファイア計0.10ct×ツァボライト計0.10ct×パライバトルマリン計0.06ct×ラッカー×YG]参考価格¥93,000,000・イヤリング[ダイヤモンド計3.96ct×ブラックオパール計10.98ct×エメラルド計0.13ct×サファイア計0.02ct×ツァボライト計0.07ct×パライバトルマリン計0.06ct×ラッカー×WG×YG]参考価格¥88,000,000(クリスチャン ディオール〈ディオール ファイン ジュエリー〉)
様式化された花モチーフがオパールをモダンに

アールヌーボーの時代に脚光を浴びたオパールは、写実的なデザインに合わせるとアンティークジュエリーのような印象に…。現在は、この作品のように様式化されたモチーフとの組み合わせが理想的。ラッカーの鮮明なカラーは、このオパールから放たれる色に合わせてつくられた。ネックレス[ダイヤモンド計18.25ct×ブラックオパール計17.60ct×エメラルド計0.25ct×サファイア計0.15ct×ツァボライト計0.21ct×パライバトルマリン計0.15ct×ラッカー×YG]参考価格¥160,000,000(クリスチャン ディオール〈ディオール ファイン ジュエリー〉)
宝石とラッカーで、絵本の世界に広がるような〝魅惑的な風景〟を描いて
モチーフの色、造形、配置−−すべてが完璧なデザイン

絵本の世界がそのまま意匠化されたような作品。宝石とラッカーで彩られた森の植物と愛らしい動物たちが、小さなジュエリーのなかで物語を紡ぎ出す。詩的なモチーフの色彩、造形、配置のすべてが絶妙。リング[ダイヤモンド計9.92ct×イエローダイヤモンド計0.04ct×エメラルド計0.76ct×ピンクサファイア計2.22ct×ロードライトガーネット計1.55ct×ターコイズ計0.92ct×ツァボライト計0.81ct×ピンクスピネル計0.10ct×パール×ラッカー×WG]参考価格¥245,000,000 ・イヤリング[ダイヤモンド計8.09ct×イエローダイヤモンド計0.07ct×エメラルド計0.21ct×ピンクサファイア計3.11ct×ロードライトガーネット計0.42ct×ターコイズ計1.03ct×ツァボライト計0.25ct×ピンクスピネル計0.04ct×パール×ラッカー×WG]参考価格¥140,000,000(クリスチャン ディオール〈ディオール ファイン ジュエリー〉)
至高の宝石と職人技が、真に夢の世界をつくり出す

このコレクションのテーマ「魅惑的な風景」を鮮やかなジェムストーンとラッカーで表現。背景のマザーオブパールは、卓越した研磨技術を駆使して、ゴールド台の曲面に合わせて薄い板状に加工された。ネックレスのトップ部分は取り外せ、2通りに着用できる。その中央で輝くダイヤモンドは、窒素などの不純物をほぼ含まない高純度のタイプⅡa。ネックレス[ダイヤモンド計56.94ct(センター13.08ct)×イエローダイヤモンド計0.48ct×エメラルド計4.33ct×ピンクサファイア計23.18ct×ロードライトガーネット計12.
77ct×ターコイズ計6.06ct×ツァボライト計5.64ct×レッドスピネル計0.50ct×パール×ラッカー×WG]参考価格¥940,000,000(クリスチャン ディオール〈ディオール ファイン ジュエリー〉)
この職人技に注目!
新たなコレクションが創作されるたびに進化を遂げる宝飾技巧

新作ハイジュエリーコレクションが発表されるたびに、その制作で培った技術をさらに発展させ、クリエイションに生かしてきた「ディオール」の職人たち。
本作では、2023年に用いられたマザーオブパールのフレームが、劇的に進化を遂げて登場。そのフレームは精密なレイヤー構造によって、より奥行きを演出できるように。また、マザーオブパールを薄く均一に研磨する技術も進歩。その表面に宝石をセッティングする手法も確立されました。
右/マザーオブパールのプレートにはモチーフをセットするための穴が開けられている。そのため、事前に位置が入念に確認される。左/パーツの接合部も工夫を重ねて進化。より滑らかに動くように。
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撮影/小野祐次 コーディネート/鈴木春恵
※文中のWGはホワイトゴールド、YGはイエローゴールド、PGはピンクゴールド、MOPはマザーオブパールを表します。
※本記事は『和樂』2025年10・11月号 付録の転載です。
※価格表記はすべて税込価格です。