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2025.12.13

【短期集中連載 第1回】〝時の探求〟を続けて270年── ヴァシュロン・コンスタンタンが紡ぐ美と叡智の物語

1755年の創業以来、途絶えることなく歴史を紡いできた世界最古のマニュファクチュール、「ヴァシュロン・コンスタンタン」。精巧な技術と造形美が融合して生まれる時計は、〝時を刻む芸術〟と讃えられてきました。メゾンはそうした伝統に敬意を表し、270周年を記念した機械式時計を7年もの歳月をかけて製作。今年、パリのルーヴル美術館で披露されました。その全貌は、現地に赴いた時計ジャーナリストの柴田 充さんが伝えてくれます。また、柴田さんとウォッチ&ジュエリージャーナリストの本間恵子さんが、メゾンの時計製造の歴史を名品タイムピースとともに解説。270年の壮大な歩みを、先端技術と装飾芸術の両極からひもといて、3回にわたりご紹介します。

270周年を記念し、ルーヴル美術館で披露された
驚きに満ちた傑作「ラ・ケットゥ・デュ・タン」とは?

文・柴田 充 ● 時計ジャーナリスト

「ラ・ケットゥ・デュ・タン」が披露されたルーヴル美術館内の会場。ルイ14世の肖像画の前には、「天地創造」と「ラ・ケットゥ・デュ・タン」が並ぶ。それは、連綿と続く芸術と時間の融合への挑戦であり、さらに未来に刻み続ける時を共有する。展示は、美術館所蔵の希少な12の作品とともに「Mécaniques d’Art(メカニック・ダール ー 機械美の芸術)」展と名づけられ、2025年11月12日まで一般公開されていた。

「ヴァシュロン・コンスタンタン」は今年、創業270周年を迎えた。歴史あるスイス時計において、一度も途絶えることなく、マニュファクチュール(自社一貫製造)を続けるブランドとして世界最古を誇る。そして、これまでの集大成として「ラ・ケットゥ・デュ・タン」を製作。お披露目の舞台にルーヴル美術館を選んだ。〝時の探求〟と名づけられた傑作が芸術と文化の殿堂に新たな時を刻み始める。

ルーヴル美術館。それは、栄華を誇った宮廷コレクションを元に、世界最高峰の美の殿堂と称えられる。だが、その絢爛たる輝きはけっして過去のものではない。フランス革命後の啓蒙主義の下、近代美術館として広く一般に公開され、芸術と文化を後世に伝えるため、今も研鑽を続ける。そして、その発展の礎を築いた太陽王ルイ14世の肖像画が見守る前に設えられたのが「ラ・ケットゥ・デュ・タン」だ。

これは、ヴァシュロン・コンスタンタンが7年の開発期間をかけ、卓越した時計技術とクラフツマンシップを注ぎ、完成した。誕生のきっかけとなったのがその背後に鎮座する18世紀の振り子時計「天地創造(1754)」である。
2016年に修復され、メゾンがこのプロジェクトを支援したことから、3年後ルーヴル美術館との正式なパートナーシップを結んだ。以降、美と芸術、技術の保存と保護、継承に関わる数多くのコラボレーションを通して、両者の絆は深まっていったのである。

一連の端緒となった「天地創造」から着想を得た「ラ・ケットゥ・デュ・タン」は、透明な半球体のドームに、ロッククリスタルの時計キャビネットと台座という3つのセクションからなる。上部の天空図と太陽をあしらったドームの中央にオートマトン(自動人形)の天文学者が直立し、中央にはトゥールビヨンなどの複雑機構と北半球の天文時計を文字盤の両面に備えた時計、さらに八角形の台座にオートマトンの動作を駆動制御する機構とオルゴールを収めている。

レオナルド・ダ・ヴィンチが描いた人体図を思わせる天文学者は、メゾンが誕生した1775年9月17日のジュネーブの夜空を再現したドームを指し、続いて現在の時刻を指す。こうした時刻表示と自動動作を統合したオートマトンは歴史上かつてなく、まさに270周年を飾るにふさわしい〝時の探求〟といえるだろう。

実現には、世界最高のオートマティエ(オートマタ製作者)として知られるフランソワ・ジュノーや著名な作曲家のウッドキッド、ジュネーブ天文台の天文学者といったさまざまな分野の第一人者が参画した。総勢90名を超える多彩な創造性と情熱、熟練の技という現代の叡知を駆使した「ラ・ケットゥ・デュ・タン」は芸術文化の域に達し、美術館が収集所蔵する、時間やオートマトンに関わる古代からの美術工芸品の系譜に連なるものだ。

それは、メゾンが歩んできた270年という歴史の集大成であると同時に、文化遺産としての時計製造の価値を次世代に継承するのである。

柴田 充 ● 時計ジャーナリスト

1962年、東京生まれ。自動車メーカー広告制作会社でコピーライターを経て、フリーランスに。時計、ファッション、クルマ、デザインなどを中心に、広告制作や編集、記事の執筆などを手がける。スイスでの時計取材は25年以上になる。270周年を祝すメゾンのセレモニーではパリとジュネーブに赴き、あらためてその真髄に触れた。

The 270th Anniversary of Vacheron Constantin

1755

その始まりから卓越した技術とデザインには芸術性が共存していた

メゾンの創業者ジャン=マルク・ヴァシュロンが1755年に製作した最初の懐中時計。シルバー製ケースに装飾性の高いゴールドの針を備える。文字盤は時分の表示を分けて、それぞれアラビアとローマの異なる数字表記をすることで視認性に優れ、分単位の細かい表示は精度の高さをアピールする。機能美を追求したデザインは、今見てもモダンだ。


時計職人ジャン=マルク・ヴァシュロンが徒弟を迎え入れた。
これが、メゾンの創業とされる。上は雇用契約書。当時のジュネーブは、啓蒙思想が息づく欧州随一の国際都市だった。

1819

フランソワ・コンスタンタンが事業に参画し、社名が「ヴァシュロン&コンスタンタン社」となる。産業革命が進むなか、国際貿易の拡大により時計産業は世界へと広がっていった。

1839

時計師ジョルジュ=オーギュスト・レショーがパンタグラフ式彫刻機を発明。時計部品の均一製造を可能にし、手工芸から機械化が加速。当時、産業革命は成熟期を迎えていた。

1843


ジュネーブを象徴する歴史的建造物トゥール・ド・リル(左の建物)に入居。1875年、建築家ジャック=エリゼ・ゴスの設計による新社屋に移転するまで、拠点としていた。

1880

時計の香箱機構に由来する「マルタ十字」を商標登録。精度と均整の象徴としてブランドのロゴに採用し、産業と科学が進歩する時代に職人の精神と信頼を表す証となった。

1904

この前年にライト兄弟がアメリカで初の動力飛行を成功させると、ヴァシュロン・コンスタンタンは航空計器製作に着手。精密計時は、空の時代の技術革新を支える重要な課題に。

1925


パリで「現代装飾美術・産業美術国際博覧会」(通称アールデコ博)が開催。アールデコの潮流が世界を席巻し、メゾンもその美学を取り入れて、モダンな作品を生み出した。

2004

ジュネーブ近郊のプラン・レ・ウァットに本社兼工房が落成。「マルタ十字」を半分に切った形が現代的な建物のデザインは、建築家ベルナール・チュミによって設計された。

2019

パリのルーヴル美術館とパートナーシップを締結。この3年前に18世紀の天文時計「天地創造」の修復支援を行い、それを機に芸術と技術の遺産を未来へ繫ぐ協働が始動した。

2023

ニューヨークのメトロポリタン美術館と提携し、芸術・職人技・文化遺産の継承を目的とした文化的協働がスタート。その翌年、北京・故宮博物院教育機関との提携も始まった。

2025

創業270周年を記念し、パリのルーヴル美術館で「ラ・ケットゥ・デュ・タン」を発表。時と芸術の物語を未来へ繫ぎ、伝統を新たな創造へと進化させる、メゾンの新章の幕開けとなった。

天空の動きと呼応し、オートマトンと時刻計時を世界で初めて融合

トゥールビヨンやミニット・リピーター、球体ムーンフェイズ、日の出・日の入り時刻など23種の時計複雑機構に加え、1分半にわたるオートマトンの動作は144種を秘め、3曲の楽曲を奏でる機械式オルゴールを内蔵する「ラ・ケットゥ・デュ・タン」(高さ1070㎜、幅503㎜)。新たに開発した技術は、時計製造に関して7件、オートマトンには8件の特許を出願する大作。これを着想源に、天文学者をデザインモチーフにした20本限定の腕時計も製作された。
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福田 詞子(英国宝石学協会 FGA)


撮影/小野祐次(ルーヴル美術館内 )
画像提供/ヴァシュロン・コンスタンタン
※本記事は『和樂』2025年12月号の転載です。
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