平野とうふ
「柊家」の朝食でこちらの湯豆腐をいただいたのは十数年前。「近所のお豆腐屋さんにいいお店があって」と教えてもらい、「平野とうふ」の店構えを見に行ったのを記憶している。旅行者に豆腐は縁のないお土産と思い込み、それ以降寄ることがなかった。ところが3年前のある日。「仁王門 うね乃」※のきざみうどんでお揚げに開眼。聞けば平野とうふのもので、お揚げなら持ち帰れる!とその足でうかがった。これを機会に、東京に早く戻るときは豆腐も求め、これまでの時間を埋めるかのごとく食べている。
ここのお揚げはおいしさのツボがはっきりしている。フチのところに一段厚みが増してあるのだ。焼けば、中心はカリッ、端っこはサクッと歯ごたえが残る。これが煮炊きになると、フチがお出汁をため込むため、お揚げは甘みを増してジューシーな食べ物に変わる。いずれも、口に入れたときの存在感は相当なもので、私にはひとつの完成された料理にすら感じる。ご主人の平野良明さんによれば、お揚げのほうが豆腐をつくるよりも難しいとか。
「お揚げの材料は生もの。こうしたいというビジョンがなければ、瞬間勝負だからね」。生地をつくる段階で、秘密の工程が4つぐらいあるらしい。
豆腐も揚げも添加物は一切使わず、昔ながらのつくり方を続けている。「京都を代表する旅館や料理店に長く使ってもらっている以上、誠実につくらなければ」と静かに語る平野さんである。
油あげ、白豆腐(もめん)各¥230(税込)。7月から8月には、にがりと寒天を用いた絹ごし豆腐¥230を販売。つるっとのど越しのいいお豆腐は京都ならではの夏の風物詩。今、この豆腐をつくれるお店も少なくなってきたという。
平野とうふ
住所/京都市中京区姉小路通麩屋町角 地図
営業時間/9時半〜19時
定休日/日曜
※「仁王門うね乃」の記事はこちらから!
気持ちがほっとゆるむおだし専門店のうどん
-文/和樂スタッフ藤田優
(京都取材歴ナンバーワン。食をはじめ雑貨にも詳しい)-