天才浮世絵師・葛飾北斎の代表作「富嶽三十六景」を徹底解説

天才浮世絵師・葛飾北斎の代表作「富嶽三十六景」を徹底解説

目次

江戸時代の浮世絵師、葛飾北斎。その代表作である「富嶽三十六景」とその技を徹底解説します。

北斎の凄さは色・構図・キャラクター!

近世までのヨーロッパを中心とした世界の美術史では、絵画はいわゆる上流階級のものであり、表現にもたくさんの約束事がありました。それに対して、庶民の楽しみであった浮世絵には制約がほとんどなく、大衆が望むものを描くことを繰り返すうちに、急速に発展を遂げました。版画でありながら、色鮮やかで描写も構図も自由自在な浮世絵。その比類なき魅力を支える奇跡の技法を、葛飾北斎の富士山の絵からご紹介します。

1.葛飾北斎らしい奇抜で大胆な遠近法

葛飾北斎が編み出した驚異的な画法

霊峰(れいほう)・富士をさまざまな角度から描いて大当たりをとった葛飾北斎の最高傑作『富嶽三十六景』。その評判は、すべて異なる斬新な構図によるところが大きいのですが、北斎はそこに遠近法のマジックを用い、よりいっそう印象的に仕上げるというワザを隠しています。
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『冨嶽三十六景 尾州不二見原』
(ふがくさんじゅうろっけい びしゅうふじみがはら)

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尾州不二見原の情景を描いた一枚で、富士山ははるか遠くに白く小さく描かれています。また、桶は斜め向きになっているのに、樽職人の体や桶の正面は平行になっていて、視座がはっきりしません。ですが、桶の丸い枠をフレームのように配しているため、主題である富士山は小さいながらも存在感があり、遠近の視座が混在していることで絵としてのインパクトも増しています。遠近法を手玉にとって、大胆で奇抜な構図をつくりあげるとは北斎おそるべし…。

浮世絵の概念を変える!小さいながら白が目を引き主役の貫禄

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遠くにある富士山を小さく描き、用いた色は白。これは冠雪を意味するのではなく、目立たせたい部分には白を効果的に用いていた葛飾北斎ならではのアイディアのひとつ。

浮世絵の概念を変える!富士山を目立たせるフレーム!?

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ほぼ中央に描いた桶の丸い枠がフレームとなって、遠くの富士山の存在感を強調。それはまた、樽職人に引かれた目を主題の富士山へと導くための効果も与えている。

2.北斎は元祖アニメーター!?

葛飾北斎の創造性は時代を先取り!

読本(よみほん)の挿絵で名前が売れ出したころから、葛飾北斎のもとには弟子が殺到。ひとりひとりに手本の絵を描いてやるのも大変になったことから北斎がひらめいたのは、絵手本を版画にして刊行することでした。元来、師から弟子に授ける絵手本は門外不出のものですが、それを出版してしまうのがいかにも北斎らしいところです。絵手本の代表作として有名なのは『北斎漫画』ですが、その後に刊行した『踊独稽古』は、さらに驚くべき内容です。

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『踊独稽古 登り夜船』
(おどりひとりげいこ のぼりよぶね)

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歌舞伎舞踊の振付を行っていた藤間新三郎(ふじましんざぶろう)が監修した、文字どおり踊りの独習本で、上図のように踊りの振りを最初から順に連続して描いてあります。この表現はまさにアニメーションの原型で江戸時代にこんなコマ割りを考えていたとは、計り知れない想像力の持ち主です。しかも、だれが見てもわかりやすいのですから、北斎が海外で高く評価されるのに疑問を差し挟む余地はありません。

浮世絵の概念を変える!手や足の動きは線を引いて教える

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手足の動きを表すために、動く方向に線をプラスしているのは、マンガで動きを表すときに用いる効果線と同じ。こんな先取りもしていたとは…

3.今までの浮世絵にない多彩な色の組み合わせ

葛飾北斎ならでは。こんな色合い見たことない!

初夏の早朝、凱風(南風)を受けて一瞬赤く染まった富士山を切り取った『凱風快晴』。通称「赤富士」は『富嶽三十六景』の中でも珍しい、山の全景が描かれた2図のうちのひとつで、もうひとつの『山下白雨』、そして『神奈川沖浪裏』と並んで北斎の名を世界にとどろかせた名作です。
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『富嶽三十六景 凱風快晴』
(ふがくさんじゅうろっけい がいふうかいせい)

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この絵が強烈なインパクトを与えた理由は、何よりもその配色にあります。赤い富士の山肌、鰯雲(いわしぐも)が広がる青い空、そして点描(てんびょう)とぼかし摺りを用いて緑がかった裾野(すその)の樹海。わずか3色で構成されたシンプルな絵は、彩色の美しさで耳目(じもく)を集めた錦絵の中にあってもひときわ鮮烈で、海外では驚きの目で迎えられたといいます。特に注目されたのは青空の澄んだ青。これは当時西洋からもたらされた人工顔料ペルシアンブルー、通称「ベロ藍」によるもの。『富嶽三十六景』の美しさの裏には、新たに開発された舶来(はくらい)の顔料があったのです。

浮世絵の概念を変える!この3色に世界が驚嘆!

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ベロ藍を用いた空は白い鰯雲との対照で澄みきった青を呈し、山肌を染める陽光は赤のグラデーション。樹海の緑は点描とぼかし摺りの技法を駆使。たった3色なのに、細部に技巧を駆使して深い余韻を漂わせたのが北斎のすごさ。ちなみにベロ藍とはベルリンでつくられたことから名付けられたもの。
※色見本は編集部が調査したものです。

2016年11月22日にオープンしたすみだ北斎美術館で、北斎をもっと楽しみましょう!

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