初心者でもOK! 根津美術館の企画展「酒吞童子絵巻」で絵巻物の魅力を楽しもう

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目次

「日本で一番古いマンガ」と言われることもある、日本美術独自のジャンル「絵巻物」。ストーリーに沿って、詞書と絵がくるくると巻かれた横長の紙の上で展開していく独特のスタイルに惹かれる美術ファンも多く、展覧会では展示ケースの前から動かず、熱心に展示ケースに見入る人もしばしば見かけます。

でも、正直なところちょっと「絵巻物」の鑑賞がちょっと苦手だ…という方は結構多いのではないでしょうか?

「何が描いてあるのかいまいちわからない」
「細かくて見るのがしんどい」
「全部見られないからストーリーがわからない」
「絵巻物のコーナーは混雑しているので、つい飛ばしてしまう」

といったように、作品のサイズが小さく、絵画や工芸作品に比べると見た目のインパクトに欠けるわりには、ガラスケースの前で人が滞留していて鑑賞しづらいことも多い「絵巻物」。人によっては、日本美術のジャンルの中ではややとっつきにくい分野だなと感じてしまうかもしれません。

しかし、そんな「絵巻物」初心者の方にこそ観ていただきたいおすすめの展覧会が東京・根津美術館で始まりました。

初心者でもOK! 根津美術館の企画展「酒吞童子絵巻」で絵巻物の魅力を楽しもう

それが、今回取り上げる根津美術館の企画展「酒呑童子絵巻-鬼退治ものがたり-」なのです。

根津美術館が所蔵する「酒呑童子絵巻」とは?

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「酒吞童子」は、明治時代までは「桃太郎」の次くらいに日本で非常に親しまれていた定番の民話でした。源頼光という、歴史上実際に存在した源氏の武将を主人公に、天皇の命を受け仲間を集めて神様を味方につけ、奥深い山中に住む「酒吞童子」という暴れん坊の鬼を倒しに行くというストーリーは、わかりやすさとインパクト抜群。

今回、根津美術館で展示されている酒呑童子絵巻は、全部で3種類あります。

  • 酒呑童子絵巻(1巻)/作者不明/室町時代 16世紀
  • 酒呑童子絵巻(3巻)/伝 狩野山楽/江戸時代 17世紀
  • 酒呑童子絵巻(8巻)/住吉弘尚/江戸時代 19世紀

絵巻物の長さも描かれた時代もそれぞれ異なっています。このうち、本展では室町時代の1巻本、狩野山楽の3巻本はハイライト部分(※鬼退治シーン)のみの展示として、「酒吞童子」の前半生まで含まれている住吉弘尚の8巻本をメイン展示に据えています。

なぜ「酒呑童子絵巻」展は初心者にオススメなのか?

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「酒呑童子絵巻」は、数ある絵巻物の中でも、バージョン違いなどを含め、様々な時代で非常に多数の作品が残っています。根津美術館で所蔵している3つの絵巻物をまとめて見比べながら観ることで、徹底的に味わうことができるのです。

さらに嬉しいことに、根津美術館が所蔵している3つの「酒呑童子絵巻」は、ストーリーの面白さだけでなく、美術品として非常にクオリティが高く、保存状態が良いのも嬉しい特徴。

特に江戸時代の2つの作品は、それぞれ江戸幕府の御用絵師である狩野派、住吉派の一流絵師が手がけた高級品。学芸員さんのお話によると、美術館のコレクションの基礎を築いた根津嘉一郎の手に渡るまでには、おそらく江戸時代を通して大名家で大切に受け継がれてきたのであろうとのこと。

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チェックすべきポイントがわかりやすくパネルで拡大展示されている

また、根津美術館の展示は、日本美術の初心者・学習者に非常に優しいのが特徴。ストーリーの概要や観るべきポイントをしっかり写真やキャプションなどの解説パネルで補足してくれる他、希望者には有料の音声ガイドも利用できます。筆者は、赴いた美術展では必ず音声ガイドを借りますが、山種美術館と根津美術館の音声ガイドは芸能人を起用しない代わりに、徹底的にわかりやすく解説してくれるので本当におすすめです。

このように、作品のわかりやすさ、面白さ、展示作品の確かなクオリティ、わかりやすい解説パネルなど、鑑賞者にとって絵巻物を堪能するためのこれ以上ない好条件が揃ったのが、今回の企画展「酒吞童子絵巻-鬼退治ものがたり-」なのです。

展示される3つの「酒呑童子絵巻」を見比べてみる

それでは、3つの異なるバージョンの「酒呑童子絵巻」のそれぞれの見どころを簡単に触れておきましょう。

まず、展示冒頭でハイライト部分が展示されている室町時代に描かれた1巻本の最大の特徴は、コミカルで素朴な絵柄。

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たとえば、この鬼の顔、全然怖くないのですよね。鬼も笑っているようで、まるで子供の童話を見ているような牧歌的な雰囲気が感じられます。

2つ目は京の都に本拠地を置いた狩野山楽や彼に近い絵師が描いたとされる3巻本です。

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こちらは、狩野派の絵師が手がけただけあって、まるで狩野派の花鳥画を見ているよう。金箔がふんだんに使われていて、豪華絢爛でゴージャスな雰囲気が味わえます。また、庭の動植物の描写が非常に細かく描かれていたり、絵の中の屏風絵(画中画)などにも手を抜かず細密に描きこむなど、相当な花鳥画の描き手が制作したのであろうことがわかります。

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3つ目が、今回展覧会のメイン展示として特にクローズアップされている8巻本。こちらは、幕府の御用絵師でもあった住吉弘尚が精魂込めて制作したハイクオリティな作品。まず、目を見張るのは作品の状態の良さ。しかも、絵巻物では珍しく、絵画部分の支持体(キャンバス)が「紙」ではなく、より高価な「絹本」であることが挙げられます。

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やまと絵を得意とした土佐派から枝分かれして幕府御用絵師となった住吉派らしく、徹底的に過去の絵巻物に学び、やまと絵の伝統に沿って忠実に描かれているのも特徴。実際、ある部分では、数百年前に描かれた「北野天神縁起絵巻」の図様をほぼそのまま引用している部分もあるようです。

さらに、物語の本筋とは全く関係のない場所でも、全く手を抜くこと無く細部の背景まできっちり描かれていることにも驚かされます。

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たとえば、こちらの画像は、巻末部分のストーリーとは全く関係のない箇所なのですが、大海原に漕ぎ出す小舟や、離れ小島で佇む人物などが超細密に描かれています。(※画像ではほぼ見えないくらいの豆粒大の大きさで描かれています!)

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また、本作では、通常の「酒吞童子絵巻」では源頼光が仲間を集めて鬼退治に行くストーリーだけでなく、敵方の「酒吞童子」がなぜ「鬼」として怖れられる存在となったのか、酒吞童子の生い立ちから「鬼」となるまでの、いわゆるエピソードゼロ的な「前日譚」をたっぷり味わえるのも面白いところ。神様と人間がダイレクトに会話する、日本神話的な奇想天外なストーリーを絵で追っていくのは本当に面白いですよ!

絵巻物ならではの「技法」もチェック!

本展を見る上で、せっかくなのでチェックしておきたいのが、日本美術では「絵巻物」だけに使われる独自の技法です。いくつか、学芸員の方にチェックポイントをお聞きしましたので、紹介しておきますね。展覧会に行った時、確認してみてくださいね。

技法1 絵巻物を見やすくする工夫「吹抜屋台」

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ザーッと絵巻物を見ていくと気付かされるのが、絵巻物の全体を通して、建物「屋根」の描写が省略され、屋内に描かれた人物が見やすいように描かれていること。

要するに、屋根は取っ払って読者に場面を見やすくしたのですね。巻物の縦幅がわずか50cm~60cm程度しかなく、縦方向に立体表現を伸ばしづらい制約を逆手に取って、このような表現が定着したのだとも言われます。

技法2 「異時同図法」

ルネサンス期の西洋絵画でも同じ絵画内に同一人物が何回も出てくる作品がありますが、絵巻物でも同じ絵画空間の中に同一人物が重複して登場し、時間の経過を表現する「異時同図法」が多用されます。

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こちらは、3巻本で最後に源頼光が酒吞童子を見事討ち取るクライマックスシーン。酩酊状態の酒吞童子の首を刎ねた源頼光ですが、酒吞童子が最後の気力を振り絞って源頼光の頭に噛み付くのですが、ここで「異時同図法」が使用されていることがわかります。

技法3 時間・空間の存在を表現する「雲」

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絵巻物でしばしば見られるのが「水色」や「金色」で表現される横長の「雲」です。一般的に右から左へと読み進めていく絵巻物は、縦幅が約60cm弱と非常に小さく、奥行きや高さを表現するのが難しいため、雲を使うことで空間の広がりを表現しているのです。

また、マンガと違って明確なコマ割りがない絵巻物では、雲が場面転換や時間の経過を表現するすることもあります。

「風に乗って常に動いているイメージ」を絵の中に様々に応用して使われる「雲」に着目して絵巻物を見てみると、ぐっと絵巻物の世界が面白く感じられますよ。

絵巻物だけじゃない! その他の展示室も見逃せません

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根津美術館で企画展が開催される時、見どころは1Fのメイン展示会場だけではありません。それ以外の第3展示室~第6展示室まで、毎回細かく展示替えされているのです。

特に今回見逃したくないのが、階段を上がったところにある第4展示室と第5展示室。

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まず、第4展示室には1年中常設展示として楽しめる、日本国内屈指の青銅器コレクションが控えています。約3000年~2000年前の古代中国で、日常生活や祭祀で使われた様々な青銅器の凄い展示なのですが、入り口手前左側の「青銅鏡」展示コーナーが、本展期間中からは「吉祥文」が味わえる青銅鏡に展示替えされています。できれば、単眼鏡(※ショップでの貸出あり)での鑑賞を強くオススメします。

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また、第5展示室では根津美術館を代表するコレクションの一つ、「百椿図」というゴージャスな絵巻物が展示されています。園芸ブームに湧いた江戸時代において、最もポピュラーだった園芸植物の一つが「椿」なのですが、この「百椿図」では、様々な器物とセットで描かれた多種多用な「椿」が楽しめます。色とりどりの「椿」の合間には、約50人の一流文化人達がそれぞれ詞書を残しており、ゴージャスな雰囲気に華を添えています。毎年椿の咲く冬の寒い時期に開催される企画展に合わせて定期的に楽しむことができる、根津美術館定番の作品なのです。

根津美術館はミュージアムショップも要注目!

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日本美術関連の美術館の中では、オリジナルグッズに定評のある根津美術館のミュージアムショップですが、今回も展覧会に合わせて、多数の「和」の香りを感じさせる上品なグッズが発売されていました。

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特に注目なのが、第5展示室で特集されている「百椿図」関連の豊富なグッズ!

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写真で紹介したアイテム以外にも、非常に豊富に用意されているのでぜひチェックしてみてくださいね。

絵巻物初心者でも、しっかり学んで楽しめる企画展

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普段、展示室をまるごと使って、同じテーマで制作された状態の良い絵巻物を複数比べながら鑑賞するチャンスはなかなかありません。今回の企画展「酒呑童子絵巻-鬼退治ものがたり-」は、絵巻物の定番中の定番が大きく取り上げられ、初心者・初級者の方でもしっかり楽しめる内容になっています。絵巻物の楽しさが味わえる、魅力たっぷりの展覧会です。2月17日まで約40日弱と会期は短めなので、ぜひお見逃し無く!

公式サイト

文・撮影/齋藤久嗣

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