楷書・和様漢字というスタイルを成立させたのが、この2作品!
漢字における書きぶりの美しさ、その極致といえるのがこの2作品。ひとつは楷書(かいしょ)の最高峰たる褚遂良が書いた『雁塔聖教序(がんとうしょうぎょうじょ)』。もう一方が、日本的なる漢字=和様漢字の最高峰といわれる藤原行成の『白氏詩巻(はくししかん)』。このふたつの書は、漢字の書における日中両雄ともいうべき存在でもあるのです。
そもそも楷書が文字としての正式な書体だというイメージを私たちがもっているのは、楷書が成立年代の最も新しい書体だからです。つまり楷書は、「甲骨文」からはじまり、草書、行書までのすべての書体が吸収された、あらゆる書法に通じる基本といえるでしょう。
楷書という漢字のスタイルが完成
楷書の最高峰が唐代を代表する書家・褚遂良によるこの『雁塔聖教序』。中国の楷書の美しさにはふたつの基本原理がありますが、それは「宗」の字に見られる左右対称性と、「三」に象徴されるように横画が等間隔であること。
この細身でありながらも、鋭利にして鍛錬された字画をもつ『雁塔聖教序』に見られる文字の集積は、漢字が宿している生々しい速度感や筆致(ひっち)が活き活きと再現されており、まさに楷書の最高峰と呼ぶべき存在なのです。
和様漢字というスタイルがこの書で成立
中国最高の書、『雁塔聖教序』に対するかのように編み出された日本的な美を宿した書が、11世紀のはじめ・平安時代に藤原行成によって書かれた『白氏詩巻』です。ここには、中国文字と呼ぶべき漢字では表現しえない日本人ならではの和語を元にした日本文字=和様漢字が表出しています。
中国と日本の文化的な違いは、全体を通してあくまでもまっすぐに厳しく、鋭利な起筆で表現される『雁塔聖教序』の楷書と、それを元にしながらもあくまで曲線を主体にどこまでも艶やかに諧調(かいちょう)を帯びて表現される、優美なこの『白氏詩巻』の違いの中に表れているのです。
全体を通して流れるそれぞれの書きぶりや空間の構成を見るだけで、日中の文化的な違いまでがわかる。そこが書を見る醍醐味であり、また魅力でもあるのです。
-2014年和樂5月号より-