2017年10・11月号では、葛飾北斎の壮絶人生約70年を、AからZまでの26字をキーワードにご紹介しています。技や作品だけでなく、浮世絵の秘密や、世界に与えた影響まで。北斎のすべてにとどまらず、アートの深みまでも味わうことができます。
今回は【F】の「ファッション」をピックアップ。北斎の魅力にいち早く着目し、大きな刺激を受けたフランス。その影響は、アートにとどまらず、ファッション業界にまでおよびました。フランスを代表する世界的なブランド・ディオールが手がけた、北斎へのオマージュ作品とは?
昔から現代まで、北斎を愛するフランス
北斎の浮世絵の、アートとしての素晴しさを世界で最初に認めてくれたのは、銅版画家ブラックモンをはじめとしたフランスの芸術家たちでした。
葛飾北斎「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」横大判錦絵 天保1〜4(1830〜33)年ごろ 大英博物館
当時のフランス人にとって浮世絵の美術様式や表現は非常に目新しく、北斎作の「北斎漫画」や「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」などに刺激を受けた芸術家たちは、熱心に模作し、コピーし、それがやがてジャポニスムやアール・ヌーヴォーといった芸術運動へ発展していきます。
近代を迎えて混沌としていたフランスにおいて、新鮮な美意識をもたらした北斎は、現代で言うところのファッション・リーダーであり、現在にいたるまでリスペクトされ続けてきました。
Photo © Laziz Hamani.
それを教えてくれたのが、かの有名なハイブランド、ディオールの2007年春夏オートクチュール・コレクションで発表された、当時のアーティスティックディレクター、ジョン・ガリアーノによる北斎へのオマージュ。「大波」をあしらったコートです。その見事なデザインは、北斎の絵にかけた気迫を今によみがえらせてくれたかのようでした。