2017年12月20日まで、パナソニック 汐留ミュージアムで「表現への情熱 カンディンスキー、ルオーと色の冒険者たち」が開催中です。
色の集合体で表現された大画面からあふれる「音」
風景や人物といった特定の「事物」ではない、色彩と形態が画面を構成する抽象画を確立したカンディンスキー。代表作である「コンポジション」シリーズは、その名もまさに「構図」という意味で、難解な抽象絵画の典型です。ところが、そんなカンディンスキーは、「コンポジション」を手がけ始める数年前に、一見して「港に商船が到着して人で賑わっている」という場面であることがわかる、「商人たちの到着」というタイトルの親しみやすい絵を描いていました。
「学芸員でさえ、専門ではない人は、『これがカンディンスキー?!』と驚きます。けれど、画家本人によると、この絵と、後の抽象絵画は直結しているそうで、『響きに満ちた色彩のコーラスの表現が成功した』と感じたそうです。画面奥の城門へと続く点描は、全体を見れば人だとわかりますが、ひとつひとつは、黒の背景に色をポツポツとのせたもの。この絵は、単に商人たちの到着という場面を描いたものではなく、線描と点描の計算された配置で『ロシア固有の音楽的要素』を表現したものなのだそうです。確かに、澄んだ音の粒があふれだすような清新さも迫ってきますよね」(富安玲子さん/パナソニック 汐留ミュージアム学芸員)
展覧会タイトルに「色の冒険者たち」とあるように、今回は、カンディンスキーやジョルジュ・ルオー、パウル・クレーといった、色彩と向き合うことで新しい芸術を生み出そうとした画家たちが、交差し、共鳴し、それぞれに飛翔する様を追っていきます。
「初来日を含むパリからのルオー作品をはじめ、日本全国からも貴重な作品が集まった、かなり野心的な展覧会になったと思います。ぜひ、足を運んでいただきたいですね」(富安さん)
ヴァシリー・カンディンスキー 「商人たちの到着」 1905年 宮城県美術館蔵