2018年もあっという間に12月。仕事に生活に年末の慌ただしさが迫り、なんとなく気持ちに余裕がなくなりがちな時期でもありますが、そんな忙しいときこそ美術館! 忙しさの合間を縫って、たとえ数十分の短い時間でも別世界のような静寂の中でアートに触れれば、疲れも癒やされていくというものです。
そこで本稿では、2018年12月にスタートした美術展の中で、特にINTOJAPANの読者の皆様にオススメの展覧会を日本美術を中心としていくつかピックアップして紹介します。関東・関西に固まらないよう、全国各地の美術館・博物館からまんべんなく選んでみました。日本美術の場合、会期も短く各地への巡回がない「一期一会」の展覧会が多いので、もしどうしても気になった展覧会が見つかれば、思い切って旅行などと一緒に遠征する計画を立てるのもいいですね。
それでは、行ってみましょう!
特選美術展1:「特別展 皇室ゆかりの美術」(山種美術館)
2019年にはいよいよ新天皇の即位の儀が執り行われ、元号も新しくなります。この動きに合わせて、「皇室」関連の美術展がいくつか開催されていますが、結論から言うと「皇室」関連の日本美術展に「ハズレ」はありません! なぜなら、桃山~江戸時代の御用絵師、明治期以降の帝室技芸員など、どの時代においても、同時代におけるトップクラスの芸術家だけが、天皇家や宮家の御下命を受けて作品製作に携わることができたからです。そして巨匠たちにとっても、皇室のために手がける仕事は一生に一度あるかないかの栄誉ある大仕事。そんな巨匠たちが作り上げた作品群の中から更に厳選されたアイテムが展示されている美術展が、良くないわけがありません。
今回ご紹介する特別展「皇室ゆかりの美術」は、天皇・親王の直筆の書や宮家の旧蔵作品、皇居新宮殿に飾られた作品と同じコンセプトの作品(創立者・山﨑種二が作家に頼んで描いてもらった)、歴代帝室技芸員の傑作など、皇室に関連したハイレベルな作品群がズラリと並びます。たとえばこちらのボンボニエール。フランス語で砂糖菓子を入れる容器の意味を持つ銀の小箱は、日本では皇室の御慶事や外国賓客の接遇の折に列席者に贈られるのですが、非常に丁寧に手仕事で制作された超絶技巧工芸でもあるのです。
さらに、今年は昭和期に建てられた新宮殿の完成から50年という節目の年にも当たります。
注目したいのは、東山魁夷が皇居新宮殿のために描いた「朝明けの潮」と同様のコンセプトで山種美術館のためにもう一度描かれた作品「満ち来る潮」。
東山魁夷「満ち来る潮」(山種美術館蔵)
美術館の壁一面を覆い尽くすスケール感の大きな作品。金箔、プラチナ箔を贅沢にあしらって海を照らす陽光と、岩にぶつかる荒々しい波濤を表現した魁夷の描いた印象的な海景は一度見たら忘れることができません!
会期 2018年11月17日(土)~2019年1月20日(日)
※会期中一部展示替あり(前期:開催中~12/16、後期:12/18~1/20)
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特選美術展2:「扇の国、日本」(サントリー美術館)
絵画・工芸・陶磁器・織物など、日本美術の各分野において、古来から重要なモチーフとして使われてきた「扇」に着目したユニークな展覧会。サントリー美術館の所蔵品だけでなく、国宝・重文クラスの優品を集めて展観した、非常に力の入った展覧会です。
源氏物語絵扇面散屛風 六曲一双のうち左隻 室町時代 16世紀前半 広島・浄土寺 (撮影:村上宏治)【全期間展示】(ただし場面替あり)
「源氏物語絵扇面散屛風」に代表される迫力の大型屏風や、「織部扇面形蓋物」(梅澤記念館)といった特徴ある扇型の織部焼など、上品でバラエティに富んだ展示で鑑賞者の目を楽しませてくれます。その中でも絶対見ておきたいのが12月12日~24日までわずか2週間の限定展示となる国宝「扇面法華経冊子」(大阪・四天王寺)。平安時代の宮廷文化が色濃く反映されたゴージャスな装飾経。
国宝 扇面法華経冊子 巻第一 一帖 平安時代 12世紀 大阪・四天王寺【展示期間:12/12~12/24】
保存状態も非常に良く、描かれた引目鉤鼻の優雅な平安美人の姿をたっぷり楽しめそうです。「週刊ニッポンの国宝100」第34号でも特集が組まれているので、予習してから満を持して臨んでみるのも良いですね。
会期 2018年11月28日(水)~2019年1月20日(日)※会期中展示替あり
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特選美術展3:「特別展 画僧月僊」(名古屋市博物館)
ここ最近、雪舟をはじめ、雪村、白隠、仙厓など、僧侶でありながら絵を得意とした「画僧」がクローズアップされた展覧会が相次いで開催され人気を博していますが、本展で取り上げられるのは、名古屋で生まれ、伊勢で活躍した浄土宗の画僧、月僊です。本展では、ユニークな仙人の絵で知られる人物画・仏画・山水画・花鳥画と多様なテーマを描きこなした月僊のマルチな才能に注目します。また、月僊が住職を務めた伊勢・寂照寺を、絵を売った資金を用いて再興し、貧民救済にも尽力した月僊の人柄にも迫る展覧会です。
月僊「恵比寿図」(部分) 三重県立美術館蔵
月僊「仏涅槃図」 名古屋市博物館蔵
これまで一部の美術マニアにしか知られていなかった「知る人ぞ知る」実力派である画像・月僊。本展をきっかけに大きくブレイクする可能性もあり、熱心な江戸絵画ファンの方は見逃せない展覧会です。
会期 2018年12月15日(土)~2019年1月27日(日)
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特選美術展4:「澤乃井櫛かんざし美術館所蔵 櫛・かんざしとおしゃれ展-粋に華やかに、麗しく-」(アサヒビール大山崎山荘美術館)
日本で随一の櫛(くし)、かんざしの大コレクションを誇る、東京都青梅市にある澤乃井櫛かんざし美術館。故・岡崎智予さんが40年で収集した髪かざりを所蔵・展示する美術館です。本展では、そんな澤乃井櫛かんざし美術館の豊富なコレクションの中から、櫛、かんざしや、当時の風俗を伝える浮世絵をあわせ、約300点が展示。
桜花文様象牙櫛・簪・笄 江戸時代(澤乃井櫛かんざし美術館蔵)
一鶯斎国周 当勢三十二想・酔が覚相 1869年(ポーラ文化研究所蔵)
冬の山荘美術館で伝統工芸をたっぷり堪能した後は、館内の喫茶室でリーガロイヤルホテル京都が考案した「櫛・かんざしとおしゃれ」展限定スイーツを味わうのも風流でいいですよね。
会期 2018年12月15日(土)~2019年2月24日(日)
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特選美術展5:「生誕135年 孤高の画家 橋本関雪」(足立美術館)
2018年、生誕135年を迎えた近代日本画の巨匠・橋本関雪。このたび、国内有数の橋本関雪コレクションを誇る足立美術館「冬季特別展」で、同館所蔵の全作品を一挙展示。そのハイライトとなるのが、橋本関雪が昭和時代から好んで描いた「動物画」です。
橋本関雪「夏夕」(足立美術館蔵)
橋本関雪「唐犬図」右隻(足立美術館蔵)
四条派に学び竹内栖鳳門下で修行後、京都画壇を離れたあとは独立し、洋画からも積極的に学ぶなど独自の画風を突き詰めた橋本関雪の画業を貴重なコレクションで振り返る特別展。米国の日本庭園専門誌で日本一に選ばれていることでも有名な日本庭園の冬景色と合わせて、楽しんでみて下さいね。
会期 2018年12月1日(土)~2019年2月28日(木)
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特選美術展6:「クアトロ・ラガッツィ 桃山の夢とまぼろし ―杉本博司と天正少年使節が見たヨーロッパ」(長崎県美術館)
1582年、九州のキリシタン大名達の名代として、ヨーロッパ各地へと派遣された「天正遣欧少年使節」に興味を持った現代美術家・杉本博司が歴史資料を元に当時の少年使節が辿った足取りをめぐり、約400年前の歴史の残り香を感じさせる印象的な写真作品を展示する展覧会。また、杉本博司の作品と一緒に、キリシタン関連の絵画・工芸など貴重な歴史遺産も合わせて展示されます。
展覧会公式図録表紙/引用:Amazon.co.jp
2018年7月、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」が世界遺産登録され、盛り上がる長崎で、当時のキリスト教文化を取り上げた展覧会を見るのはまた格別な体験になりそう。筆者も10月5日~11月2日までMOA美術館で開催された展示を見ましたが、非常に見応えのある力の入った展覧会でした。展覧会と観光を組み合わせて遠征してみるのも面白いですね。
会期 2018年11月23日(金・祝) ~ 2019年01月27日(日)
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特選美術展7:「国宝・雪松図と動物アート」(三井記念美術館)
毎年年末になると、三井家のオーダーによって制作されたと言われる円山応挙の傑作「国宝・雪松図屏風」を目玉展示として、動物たちをモチーフとした絵画・工芸を展観する企画展を開催するのが定例となっている三井記念美術館。今年も12月13日から「国宝・雪松図と動物アート」が始まります。
小学館・週刊ニッポンの国宝100第7号
今年度の見どころは、奇想の画家・長沢芦雪が描いた新出・日本初公開となる六曲一双の屏風に巨大な象と牛が描かれた「白象黒牛図屏風」。これを見るだけでも行く価値はあります!また、桃山茶陶の最高傑作とされる国宝・志野茶碗 銘卯花墻も国宝茶室・如庵を再現した展示ケース内で登場します。この機会に、旧三井家の至宝をガッツリ味わってしまいましょう!
小学館・週刊ニッポンの国宝100第36号
会期 2018年12月13日(木)~2019年1月31日(木)
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特選美術展8:「ロマンティック・ロシア」(Bunkamura ザ・ミュージアム)
2018年秋~冬シーズンは、西洋美術展の当たり年でした。首都圏では、「フェルメール展」(上野の森美術館)「ルーベンス展」(国立西洋美術館)「ムンク展」(東京都美術館)、関西圏でも「ルーヴル美術館展」「藤田嗣治展」など力の入った大型展が開催。印象派作品70点以上が日本に初上陸した福岡の「バレル・コレクション展」も好評です。
そんな中、内装工事による短い休館明け第1弾として展覧会が始まったBunkamura ザ・ミュージアムの「ロマンティック・ロシア」は、2018年秋冬シーズンのトリを飾る力の入った西洋美術展です。いわゆる「エルミタージュ美術館展」や「プーシキン美術館展」など、ロシア人コレクターの集めた西洋美術コレクションを楽しむ展覧会ではなく、ロシア人作家が描いた傑作群が楽しめる、正真正銘の「ロシア絵画」が味わえる展覧会なのです。本場西洋絵画以上に甘くて叙情的な風景画や、ロシア美人を魅力たっぷりに描いた人物画など国立トレチャコフ美術館の所蔵する珠玉のロシア絵画が到着。西洋絵画ですが、描かれた冬景色の美しさや叙情性は日本人の感性と不思議と近いものを感じます。
会期 2018年11月23日(金・祝)~2019年1月27日(日)
公式サイト
年末年始の変則スケジュールにはご注意!
以上、2018年12月の特選展覧会として、全国から8つの展覧会をピックアップして紹介させて頂きました。どれも非常に力の入った見ごたえある展覧会ですが、年末年始はイレギュラーな休館日が増えるので、美術館に行く前にスケジュールは綿密にチェックしておいて下さいね。事前に開館日を調べず、いつも通り美術館の前まで来てみたら閉館中だった・・・ということもこの時期はよくあります!
2018年も残すところあとわずか。年末の多忙な中、美術館でホッと一息ついてみるのもいいですよね。今月も良い作品と出会えますように。
文・撮影/齋藤 久嗣