Craft
2017.04.12

京都の老舗「ちんぎれや」で古裂(こぎれ)の魅力を知る

この記事を書いた人

古裂の魅力ってなんですか?

裂とは時代を経た布のこと。そして、珍しい裂が揃う店だから「ちんぎれや」。江戸や明治の裂を中心に、古くは桃山の稀少品まで。数千円の端切れも博物館級の裂も並ぶ京都の老舗で、さて、どこから見始めましょう?
DMA-0720  0150

たった一枚の古い裂にも数百年前の〝粋なセンス〟が詰まっています

「まず素直に好みで選んでみる。そうしたら、遠目で眺めるのでなしに、ぐいと近くに寄せて、こうして手元で見てください」とちんぎれや四代目の中村年希(としき)さん。古裂とは布の骨董で、基本は百年以上昔のもの。ゆえに明治初期のものも古裂と呼ばれます。

「ただ、幕末に海外から化学染料が入ってきて、裂が大きく変わるんです。同じ百年でも、天然染料で染めて百年経った裂と、化学染料を使った裂の百年後では、味わいや色の褪せ方が違います。裂を近くで見るとそういう違いもわかって面白いですよ」
スクリーンショット 2017-04-10 17.59.37インド更紗、ヨーロッパ更紗など人気の更紗もいろいろ。

店内に並ぶのは、友禅や緞子(どんす)から更紗に藍染(あいぞめ)まで多種多様。かつて大名家で使われていた着物や羽織、豪商や旧家の蔵にしまわれていた夜具に茶道具。それらが幾百年もの時を経て私たちの手元に届いていることに、歴史のロマンが感じられます。現在の古裂は、古い着物が昔の形のまま残っているものから、袋ものを仕立てた残りと思われる裂、着物や茶道具をほどいた後の端切れまで、形状はさまざま。中でも求めやすいのは、縦横数十㎝ほどにカットされた裂地でしょう。仕覆(しふく)や服紗をつくったり、そのまま絵のように額装したりと使い道が広いのです。
スクリーンショット 2017-04-10 18.01.09ため息モノのかわいらしさ。縞模様や更紗など、4〜5㎝角の小さな裂を並べた輸入裂見本帳。

「染めや織り、刺繡などに、今ではできないようなよい仕事がうかがえるのは、江戸初期から中期の裂ですね。江戸以前のものとなると、市場に出る数がうんと少ないのですが、たまに、手のひらにのるほどの小さな裂が残っていたりもします。古裂の魅力は、どんなに小さくても、その中に歴史の流れや当時のセンスが詰まっているところ。裂好きの方は、古裂1枚あれば一日中でも話が尽きないというほどです」
スクリーンショット 2017-04-10 18.02.33江戸後期につくられたヨーロッパ更紗の包み裂。茶道具を包んで保管したもの。

たとえば、インドや中国などの海外から渡ってきた〝渡り〟の裂。江戸の昔から渡りものは稀少で価値が高く、特に異国情緒たっぷりの渡り更紗は大人気。陣羽織の裏地だけに使ったり、地味な着物の下に華やかな更紗のものを重ね、襟元からチラッとのぞかせたり。隠れたおしゃれを楽しむ粋な感性の持ち主も多かったそうです。

「日本人は、どんな小さい裂も大事にし、寄せ裂(パッチワーク)にしたり手鑑(裂を蒐集した折帖)をつくったりして、残してきました。そういう美しい裂をただただ眺めて楽しむのもよし、普段の暮らしに使うもよし。こんなふうに裂が残っている国は、日本以外にないと思いますから」
スクリーンショット 2017-04-10 17.55.33江戸時代の羽織の裏側。唐桟(インドで織られた縞織物)にインド更紗などを継いで〝寄せ裂〟にし、ふだん見えない部分を華やかに仕立てた。

古代裂工芸ちんぎれや

古裂三昧な時間を味わいたいなら、明治35年創業のこの店へ。天然染料を使った江戸の古裂から明治の和更紗まで、オールラウンドに楽しめる。興味があれば、店の奥から秘蔵の珍裂も出してきてくれるので、臆せず店主に話しかけてみたい。古裂で仕立てた小物も人気。
スクリーンショット 2017-04-10 18.08.58
住所/京都府京都市東山区縄手通三条南入ル 地図
営業時間/10時~19時 
定休日/無休