民藝や古道具の店として始まった、青山・骨董通りの「古民藝もりた」。目の肥えた数寄者や着物好きが足しげく通う一方で、初心者でも楽しめる気軽さも人気です。店内の多くを占める木綿裂の魅力や、古裂(こぎれ)の楽しみ方について、店主の森田直さんに尋ねました。
古裂の魅力は糸の魅力。指先で“糸味”を味わいましょう
「裂の魅力は、突き詰めると糸の魅力だと思いますよ。指先で触るとわかります。一枚一枚、みな感触が違うでしょう?」
と、何枚もの古裂を広げる森田さん。ざっくり織られた木綿裂の頼もしい風合い。今は絶滅した蚕の絹糸を使った着物裂の、しっとり滑らかな手ざわり。
「それを糸味と呼ぶんです。『この裂は糸味がいいなあ』というふうに使う。海外の方は『パティーナ』と言いますね」
藍の冴えた色が美しい、明治初期の型染木綿裂。
もちろん、視覚でも楽しめるのが糸味。くたっとやわらかな明治初期の藍染を光に透かすと、糸の存在感がぐっと際立って、思わず頰ずりしたくなるほどです。
「ちょっと覗いてみますか?」と差し出されたルーペを裂に当て、覗いてみてびっくり。肉眼で見ていたものとは違う、織りの景色が広がっています。聞けば、古裂ファンの間ではルーペが必須道具。なるほど、糸の美しさも染めや織りの良し悪しもわかるし、何より単純に美しいのです。
鮮やかな赤の、通称“真岡木綿”は、起毛させた厚手の木綿裂を絞り染めしたもの。
「特に木綿には独特の糸味があります。何度も水をくぐってやわらかくなった木綿など、うっとりするような美しさ。江戸時代に中国から渡ってきた唐木綿(からもめん)も、肉厚で面白い糸味です。木綿は洗いに耐えるし、着物、袋もの、茶道具と加工もしやすい。今の生活と相性のいい古裂だと思います」
中国から江戸期に渡ってきた唐木綿。
もともと民藝から始まった店ということもあり、扱う古裂の4分の3は木綿裂。民藝と同様、染織も多くは名もなき職人がつくったもので、作家性はありません。
「代わりに、裂の色や文様には土地柄や県民性みたいなものが表れると思います。南の裂は明るく、北の裂は強いというような。そんな観点で選ぶのも古裂の面白さです」
裂は焼物に比べて消耗が早いため、いい品が残る確率は低いそう。それでも、裂には裂にしかない奥深さがある、と森田さん。それは、裂の「加工しやすい」性質に由来します。つまり、裂を裁断したり縫ったり、再びほどいたり、いろいろ形を変えて残っていく面白さがあるということ。
名物裂などの貴重な裂を蒐集した古裂手鑑。
「裂自体の美しさや経年変化に加え、それがどう加工され何に使われたか、あるいは、自分はどう使おうか、人はそこに興味をもつ。ファッション業界の人が、古い野良着から新たなカッティングを発見することもあるといいます。裂のつくり手の感性に別の人の感性が加わって、後世に残っていく。古裂はとても自由な骨董なんです」
◆古民藝もりた
日本の木綿はこれほど美しい裂だったのかと、あらためて気づかされる店。古い藍染の野良着や東北の刺子なども扱う。古裂はオークションで仕入れるほか、日本の裂と繫がりの深いアジアの染色品を求めて店主自ら現地蒐集も。裂にまつわるエピソードを聞くのも楽しい。
住所 東京都港区南青山5-12-2
公式サイト