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Craft
2021.03.16

リーズナブルなのにハイクオリティ!手作り茶筒の老舗・開化堂が提案する茶筒のある暮らし

この記事を書いた人

手づくりの茶筒の製造元としては日本でいちばん古い歴史をもつ開化堂。創業は明治8(1875)年。日本が文明開化一色に染まり、新しい時代の幕開けに心を躍らせていたころに京都で開業(店名は文明開化にちなむ)。イギリスから輸入したブリキを用いて、日本で初めて金属製の茶筒をつくったと言われている。

その開化堂からこの春、軽量かつ低価格(従来のおよそ半額)な茶筒が新登場。この茶筒は日本茶の製造販売を行う「Gen Gen An 幻」、そして吊り編み機で編まれた生地のみを使用したスウェットシャツメーカー「ループウィラー」と開化堂のコラボレーションで生まれたものだそう。

和樂webでは、工芸の視点から見たこの茶筒の新しさに絞って、その画期的な試みとその裏にある思いを届けたい。

開化堂6代目・八木さんが手にしているのが新しいライン「茶簡(ちゃかん)」。小さくて軽い! 思わず外に持ち出したくなる! ということで「Kaikado Cafe」の中庭にわざわざ出て記念撮影をお願いした。

ここでおさらい、開化堂の茶筒はどこがすごい?

開化堂の凄みは、いち早く新素材でモダンな茶筒をつくったことだけにあらず。気密性を高めるために考え尽くされた独自のデザイン設計があり、しかもその仕上げを行うのはすべて手作業。100年以上経った今でも、同じデザインを同じ製法で、つまりすべての工程を手を使って仕上げている。そんなメーカーは世界を見ても希少だ。

和樂webで前回取材をしたとき、6代目当主・八木隆裕さんにおなじみの、”あの”動作をやっていただいた。開化堂の代名詞である「ふたと胴体を合わせると、ふたを少し押すだけでおのずとふたが下がって閉まるする」というもの。さぁ、もう一度見てみましょう!

閉める動作だけが取り上げられがちだが、実は、ふたを開けるときのほうが指の快感は強い。八木さん曰く「モチーっと空気が抜けていく感じ」なのだ。この感覚はどうして生まれるのか?

答えは、ふたと重なる部分に少しだけふくらみをもたせた設計にしているから。この少しのふくらみのおかげでふたの開閉時に空気抵抗が生まれて、空気が押し出される感じが指にしっかり伝わるのである。これが「開化堂の茶筒は開けやすくて閉めやすい」という評価につながって、今に至るのだ。

それを可能にするのは胴体の「二重構造」にあり。二重になっている分、茶筒の密閉状態が高まるというわけ。のちに紹介する新商品「茶簡」を理解する上で、近年認知されている開化堂の茶筒(ブリキ・銅・真鍮の3色展開)のデフォルトが「二重構造」であることは、記憶に留めておきたいポイントである。

右の二重構造と左の一重構造の内側を見比べれば、その差は明快。右につないだ部分が見えないのは内側にもう一枚金属が入っている(2重になっている)から。

「茶筒の中の茶葉の味わいを保たせるために、何ができるか。開化堂ってずっとそれだけを考えて、ものづくりをしてきたんですよ」と八木さん。職人が手を動かしながら思考を重ねた結果が、今の茶筒に生かされている。とは言っても、見た目は初代作と今の茶筒はほとんど同じだ。それでも、見えないところでわざは進化し続けている。

無地の円柱という究極のシンプルな形のなかに、職人を飽きさせない何かがあるわけで。この形からズレることなく、まっすぐに追究し続ける姿勢が開化堂のすごさだとわたしは思っている。

より多くの人の手に届くため、より多くのシーンで使ってもらうための茶筒を開化堂が考えた

で、気になるのが新商品「茶簡」だ。「お茶を飲む生活を簡単(シンプル)に考えて」といったメッセージが込められたこのライン、何が画期的かといえば、二重構造ではなく「一重構造」なのだ。そのため軽量で価格も二重構造の従来品よりもぐっと下げて販売が可能になった。

上の写真のふたつの茶筒は、それぞれ別の商品。右が従来の「二重構造」のも80g入。左が「一重構造」の新ライン「茶簡」(同じく80g入)。さて、違いがわかりますか? よーく見るとブリキの輝き、ふちの処理が違うのだけれど、初見の人にはわかるまい。いいんです、それで。

さて「茶簡」の構造の説明は後半で紹介するとして、わたしとしては「茶簡」がある生活を先に提案してみようと思う。新しい時代に、新しいものを提供する背景にはつくり手の思いがあるわけで。八木さんの発する言葉から、茶簡に込めた開化堂の思いを、勝手に3つにまとめちゃいました。

「茶簡」のある新ライフスタイル1:茶筒を持ち歩く!

茶筒なんてそもそも持ち歩かないでしょ、と即、頭の中で考えたあなた。それは茶筒に茶葉を入れると思い込んでいるからでは? ティーバッグも、香辛料も、大切なアクセサリーや嗜好品でも。開化堂の茶筒は、一重構造といえども気密性はほかとは比べられないほど優れている。

「茶簡」は約110g! 二重構造の茶筒は同じ大きさで150g超あるので、その差は大きい。

仕事場や出張先、もしくは旅先やアウトドアに。数日の間を持ち歩くなら、軽量の「茶簡」のほうが持ち歩きには好ましい。80g入って手のひらに収まるサイズなので、持ち運びにも邪魔にならない。茶筒と使うもよし、コンテナと考えれば大事なものを何でも入れて一緒に携帯するのにこんな使える容器はない。

「茶簡」のある新ライフスタイル2:開化堂の茶筒を使い分け!

同じサイズ・同じデザインで構造違いの茶筒が市販されることは、実は初めてのことである。ちなみにブリキの質も「茶簡」と既存のラインとは異なる。「茶簡」で使われているブリキよりも既存のラインは錫の施す量が3〜5倍ほど多いそうだ。

低価格な「茶簡」なら気にせず山に持っていけるな、という価格で使い分けてもよし。匂いがついちゃうカレー関連のスパイスは「茶簡」でいいかも? など用途で使い分けをするのもアリ。価格や用途で「選べる」ということは、これまで以上に開化堂を使う人の間口を広げることになるだろう。

「若い人たちで、特に工芸に興味のある人たちに開化堂との接点をつくりたいと以前から考えていたんです。『茶簡』は手に取りやすい価格なので、ここから開化堂であり、日本の工芸に触れる入り口になってくれたらと思います」(八木さん)。

「茶簡」のある新ライフスタイル3:リフィル用の茶筒「通い缶」の復活。茶葉の買い物にこの缶を持っていく!

八木さん曰く、昭和の初めのころまでの京都には茶葉を買いに行くときは自宅にある茶筒を持参する週間があったそう。その習慣を含めて「通い缶」と呼んだという。お豆腐を買うのに家のボウルを持って買いに行ったように、日本茶が生活に根ざしていたころはそんな習慣があったのだ! 

コーヒー業界ではマグに入れてもらえるのだから、日本茶だって茶筒にリフィルのサービスがあっていい。八木さんは「茶簡」がそのツールになることを願っている。「持ち運びしやすいこの缶を使ってもらえたら。で、包装のゴミが減って、地球のためにもなる。僕たちの考えに賛同してくれるお店の登場に期待しています」と目を輝かせる。

ということで、新作の「茶簡」と二重構造の茶筒80g入には「ループウィラー」製の専用巾着がつく。吊り編み機で編まれたスウェット生地は茶筒に優しい。持ち歩くための茶筒、というイメージがわきますよね?

こんな新しい生活があったらいいなと思うでしょ?
それを可能にした開化堂の技術を次に紹介しましょう。

開化堂の一重構造の茶筒はこうしてつくられる

ここで断っておきたいのが、この一重構造の茶筒も明治のころから開化堂が生み出した技術であること。一重構造の茶筒も二重構造の茶筒と並行して開化堂ではずっとつくり続けられてきたのである。一重缶の用途は、日本茶を売るお茶屋さんが自社の茶葉を詰めて販売するため。いわゆる缶入りの茶葉に使われる、簡易的な缶だ(とはいえ普通の人はこれを自宅のお茶筒として再利用している人が多いような。開化堂の二重構造の茶筒に比べたら、簡易缶と呼ぶしかないのだけれど)。

ということで、「茶簡」誕生にあたり、特別な技術が開発されたわけではない。開化堂の職人たちは、一重構造の茶筒のつくり方も二重構造の茶筒と同様にマスターしている。

八木さん自らが実演くださった。「一重と二重の違いはここです」と言う”ここ”とは、胴体とふたを受ける部分だ。

上の部分(ふたが重なるところ)と下(茶筒の胴体)を接地面ギリギリでくっつける。だから一重。二重構造の場合は内側にもう一枚金属を重ね合わせて入れることになる。

「なんで接地面ギリギリにするかといえば、コストダウンです。重なる部分が大きくなるほど、材料費がかかっちゃうでしょう。職人の技術を駆使して、これを可能にするんですよ」

木槌で叩いてのり付けされた胴体は、ハンダごてでしっかり接着される。ここで注目は、そのギリギリ部分を接着する八木さんの手! バーナー使っているのに素手! 熱くないの?

「手袋をつけていたら、動きが鈍くなるんです。職人は作業効率を上げてナンボ。じいちゃんにはノロノロするなら牛でもできるって怒られました(笑)」。すごいなぁ、開化堂の茶筒はおよそ130の工程を経て完成するというけれど、こんな手わざの積み重ねでできるのだ。

最後に「茶簡」に込めた思いとは? なんで今、この茶筒を販売するの?

「僕は開化堂の茶筒の廉価版をつくりたかったわけではないんです」ときっぱり語る八木さんである。「安かろう悪かろうって茶筒は世の中にたくさんあって。そこに『茶簡』は入りません。限られた予算の中で最高のものをつくるための開化堂の技術を駆使した茶筒なんですよ」。

「茶簡」を通して、同じ工芸の現場に立つ職人たちに「ものづくりってまだまだやれることがある」という呼びかけのようにもわたしは感じた。

「コストを下げて最高のものをつくるって、職人がものすごく頑張らなくてはならないんです。でも、それでお客様の間口が広がり、職人の腕も上がる。僕たちにとってもこの新作はいい機会なんです。開化堂をこれからも続けていくための試みです」。

ところで。フツーの人のいちばん気になるところは、開化堂のシンボル「ふたがスーッと閉まるのは『茶簡』でも可能か?」ではないか。八木さんの答えは「できるのもあれば、スムーズにいかないものもあるかもしれません。それは試す作業を省いているからです。ここもコスト削減のひとつなんです」とのこと。

なるほどー! 二重構造の茶筒が高い理由って、使う金属の量だけでなく「手間」も大いに影響しているのだった。とはいえ「茶簡」のふたの開け閉めの心地よさはちゃんと感じられる。安い茶筒はふたがゆるかったり、ふたを引き上げると同時に中ぶたまで上がったりするけれど、「茶簡」にはそれはない。

ホント、よくできた子なんです! すでに開化堂を使っている人にも、機会があれば「茶簡」を手にとってもらいたい。改めて、緻密に計算された開化堂の茶筒のすばらしさに気がつくはずだ。

「茶簡」は数量限定で販売されます

京都ではブリキ製「二重構造」の茶筒80g入を、東京ではブリキ製「茶簡」80g入をそれぞれ数量限定で販売予定(いずれの茶筒にもループウィラーの巾着つき。色は会場ごとに異なる)。*その後の「茶簡」の販売については情報を待たれよ。

●京都
日時:2021年3月20日(土) 場所: Kaikado Café 
→Gen Gen An 幻のほうじ茶と鍵善良房のお菓子がつく、3社代表によるトークショーはすでに満席。トークショー(14:00〜15:00)後に、17,050円(税込)・50個限定で販売開始。

●東京
日時:2021年3月27日(土)より 場所: Gen Gen An 幻 銀座
→「茶簡」を9,900円(税込)50個限定で販売開始。

問い合わせ先
開化堂
京都市下京区河原町六条東入る
075-351-5788

撮影/田中麻以(静物)、石井宏明(動画)

書いた人

職人の手から生まれるもの、創意工夫を追いかけて日本を旅する。雑誌和樂ではfoodと風土にまつわる取材が多い。和樂Webでは街のあちこちでとびきり腕のいい職人に出会える京都と日本酒を中心に寄稿。夏でも燗酒派。お燗酒の追究は飽きることがなく、自主練が続く。著書に「Aritsugu 京都・有次の庖丁案内」があり、「青山ふーみんの和食材でつくる絶品台湾料理」では構成を担当(共に小学館)。