明治元年から150年を迎えた2018年春から、「明治150年記念 華ひらく皇室文化―明治宮廷を彩る技と美―」展は、名古屋・秋田・京都と3つの会場を巡回してきました。新時代が幕を開けようとする今、この展覧会は、宮中晩餐会の食器やボンボニエールなど華やかな宮廷文化を紹介すると共に、明治の皇室が守り伝えようとした日本の技と美を紹介。
そして、平成最後の2019年の春、いよいよ東京の泉屋博古館分館と学習院大学史料館の2館で共同開催されます。そこで今回は、六本木・泉屋博古館分館で展示される作品の見どころをご紹介します。
宮家が賓客を洋食でもてなした際の正餐用食器・銀器 有栖川宮家所用 明治20(1887)年ごろ 上野の森美術館保管(通期展示)
世界に向けて華ひらいた明治の文化力
明治時代は、政治体制の転換にとどまらず、世界に向けて日本の文化力の発信に全力を尽くした時代でした。それを力強く後押ししたのが明治の皇室です。諸外国との外交のために、明治時代の皇室では洋装を採り入れ、洋食にて外国使臣をもてなしました。その舞台は、延遼館(えんりょうかん)、鹿鳴館(ろくめいかん)から明治宮殿へと移り変わりました。
もてなしの場の調度品は、当初は西洋の製品を使用していましたが、明治10(1877)年の第1回内国勧業博覧会を契機に国産化へと舵を切っていきます。また、日本文化を海外に紹介するため「帝室技芸員」制度をつくり、江戸時代から続く美術・工芸の保護育成を図ります。
泉屋博古館分館の「明治150年記念 華ひらく皇室文化―明治宮廷を彩る技と美―」では、「鹿鳴館の時代と明治宮殿」、「明治宮殿を彩る技と美」の2つのテーマで数々の美術品が展示されます。
六本木・泉屋博古館分館「華ひらく皇室文化」展の見どころ
明治皇室がはじめたおもてなしの習慣ボンボニエール
2019年2月に行われた「宮中茶会」で、招待客へのお土産として贈られたことが話題になったボンボニエール。ボンボニエールとは、皇室や宮家の慶事・饗宴(きょうえん)のときに配られる小さな菓子器。明治天皇がはじめた意匠を凝らしたボンボニエールの引き出物は、招かれた人々を大いに喜ばせました。
鶴亀型ボンボニエール 明治天皇大婚25年祝典 明治27(1894)年3月9日 銀製 個人蔵 (通期展示)
明治天皇大婚25年祝典の際の「鶴亀型ボンボニエール」が皇室が最初に発注したオリジナルのデザインです。その前の明治22(1889)年の第日本帝国憲法発布式でも菓子器が配られていますが、皇室デザインのボンボニエールが制作されたのはこの「鶴亀型ボンボニエール」がはじまりです。本展では39点展示、学習院大学史料館では70点のボンボニエールが展示されます。
手箱形唐草蒔絵 学習院大学史料館蔵 (通期展示)
明治天皇がお買い上げになった「真木立山蒔絵硯箱」
本展では、明治の皇室が優れた技と認めた帝室技芸員による作品も並びます。その中でも「真木立山蒔絵硯箱(まきたつやままきえすずりばこ)」は、第4回京都で行われた内国勧業博覧会で明治天皇がお買い上げになったという、栄誉ある作品。
「真木立山蒔絵硯箱」 植松抱民 第4回内国勧業博覧会にて明治天皇買上 明治天皇遺品 明治28(1895)年 個人蔵(通期展示)
19世紀の後半からはじまった内国勧業博覧会は、日本の美術工芸の発展のために行われたもの。最初は明治10年。以後5回行われ、明治天皇は美術工芸品業界の進展に力を尽くされました。
「群犬図」にみる美術染織の粋
第5回の内国勧業博覧会に影響を与えたのが、明治33(1900)年に開催されたパリ万国博覧会です。この博覧会に出品し最高栄誉賞を受賞した作品があります。それは明治天皇の下命により製織した川島織物2代川島甚兵衞(じんべえ)の渾身の力作「群犬図」。日本の綴織(つづれおり)が欧米で評価された記念碑的作品です。
大きな額は2代川島甚兵衞の「猟犬図」。綴織のようにみえる刺綴(さしつづれ)と称される刺繍技法で制作されている。右側の「群犬図」は、綴織の作品。(すべて前期3月16日〜4月14日展示)
元絵としたのは、アメリカ人サッタンが描いた油彩画ですが、日本の美術染織で絵画と同じように見せたいという甚兵衞の思いがこの綴織に込められています。本展では、それと同じ構図で制作された刺繍額と綴織の試織額を展示。刺繍と織物2つの違いを比べてみることができます。
夜会、晩餐会に用いられた豪華な中礼服
中礼服 北白川宮妃房子着用 1着 明治末期(20世紀) 霞会館蔵(通期展示)
展覧会でひときわ華やかに目を引くこのドレスは、明治天皇の第7皇女・北白川宮妃房子着用の中礼服。薄いクリーム色の絹紋綾地に薔薇の花が織り出され、スパンコール・ビーズ・金糸による装飾に、襟元には白のレース付き、袖先にはビーズがあしらわれたまさに皇族妃にふさわしい格調です。
こちらのドレスはまた、本展図録表紙の、昭憲皇太后が着用された大礼服のスカート部分と同じ生地で仕立てられており、房子妃が内親王時代に制作された可能性もあるとされます。
精緻な彫刻で表現された数少ない板谷波山の木彫作品
「鮭」 板谷波山 1躯 明治(20世紀) 個人蔵(通期展示)
陶芸分野で最後の帝室技芸員に任命された板谷波山(いたやはざん)は、陶芸家で最初の文化勲章受賞者となりました。東京美術学校彫刻科に入学し、岡倉天心、高村光雲のもとで彫刻の技術を学び、陶芸作品に応用した波山の数少ない木彫作品から、本展では「鮭」を展示。精緻な彫刻が立体的に見せ、無機質なまなざしが真に迫ります。
明治150年記念「華ひらく皇室文化明治宮廷を彩る技と美」泉屋博古館分館の概要
会期 2019年3月16日(土)~5月10日(金)
前期 3月16日(土)~4月14日(日)
後期 4月17日(水)~5月10日(金)
※会期中展示替えあり
場所 泉屋博古館分館(東京都港区六本木1−5−1)
開館時間 10時~17時(入館は16時30分まで)
休館日 月曜日(4月29日、5月6日は開館、4月30日、5月7日休館)、4月16日(展示替え)
入館料 一般800円、高大生600円、中学生以下無料
・ギャラリートーク「宮中晩餐会とボンボニエール」
長佐古美奈子氏(学習院大学史料館学芸員)
日時 3月30日(土)15時~16時
・講演会「明治宮廷と染織の美」
田中潤氏(学習院大学非常勤講師)
日時 4月13日(土)15時~16時
その他イベントは公式サイトにて
共催展 「華ひらく皇室文化」展 学習院大学史料館の概要
会期 2019年3月20日(水)〜5月18日(土)
場所 学習院大学史料館(東京都豊島区目白1−5−1)
開室時間 10時~17時
閉館日 日曜、祝日、5月1日
・関連講演会 第88回学習院大学史料館講座「華ひらく皇室文化-明治宮廷を彩る技と美-」展 関連シンポジウム
日時 4月27日(土)13時30分~16時30分
講師 彬子女王殿下ほか
会場 学習院創立百周年記念会館 正堂
※入場無料・事前申込不要(先着700名)
その他のイベントは公式サイトにて