Craft
2019.09.18

凄っ!これ全部つくったの?ものに対する情熱がハンパない!京都・河井寬次郎記念館 訪問レポート

この記事を書いた人

焼き物の町「五条坂」に佇む寬次郎の旧宅

「河井寬次郎記念館」は、京都駅から清水寺方面のバスに揺られること10分ちょっと、京都観光で人気の京都国立博物館や清水寺から近い「五条坂」にあります。

五条坂は清水焼発祥の地で、古くから焼き物の窯元が集まり、数多くの名工を輩出してきた「焼き物の聖地」。現在も、窯元や陶器を扱うお店が多く、毎年8月には、約400もの陶器店が集結する陶器まつりも開催されています。

そんな五条坂の歴史を感じさせる町家が並ぶ路地に、ひっそりと佇む趣のある古民家が「河井寬次郎記念館」です。

大きな看板は棟方志功の書を、木漆工芸の人間国宝黒田辰秋が彫り上げたもの

細部まで寬次郎好み! いざ、お宅拝見。

がらがらっ。記念館の引き戸を引くと、中にはひんやりとした土間が現れました。玄関から裏口へ抜ける細長い土間は、京町家によく見られる「通り庭」と呼ばれるもの。

昭和12年に建築された河井寬次郎の旧宅は、寬次郎が自ら設計を手がけ、大工をしていた寬次郎の兄をはじめ、故郷島根の職人たちを京に呼び寄せ、約半年の歳月をかけて造られたものです。

石畳の土間を通って受付を済ませると、中庭に面した、明るく広々とした板の間が広がっていました。

飛騨高山をはじめ、日本各地の民家を参考に設計された。素朴さの中に寛次郎の洗練された感性を感じさせる。1階の部屋の一角には、京都の町中では珍しい囲炉裏がある

こちらは、寬次郎が客人の対応をしたサロンのようなスペース。「当時、河井邸はとてもお客さんの多いお家でした。」そう話してくださったのは、当館の学芸員をされている鷺珠江(さぎたまえ)さんです。河井寬次郎のお孫さんで、幼い頃は寬次郎とともに実際にこの家で暮らしていました。

来訪者の中には、「民藝運動」の仲間だった柳宗悦、濱田庄司、棟方志功、 芹沢銈介、バーナード・リーチや当時活躍していた芸術家や文化人の姿もあり、寬次郎と妻・つねは毎日のように客人をもてなしていたそうです。

写真左、柱に掛けられたレトロな振り子時計は、新築時に柳宗悦から贈られたもの。写真右、2階へ上る箱階段。収納としても利用でき、玄関側に面した背面は靴箱として使用していたそう。こちらは濱田庄司からのプレゼント

1階の囲炉裏の奥には、今でいうリビングダイニングにあたるスペースがあります。奥の部屋のテーブルで、家族、時には客人たちも一緒に食卓を囲み、食後は手前の部屋でくろいでいたそう。

寬次郎がデザインした照明や家具、小物でコーディネートされた、調和のとれた居心地のよい空間

2階に上がると、目に飛び込んでくるのが、こちらの障子に囲まれた大きな吹き抜け。

巨大な吹き抜けが上下階の一体感と開放感を生み出している

吹き抜け部分の天井には滑車が付いていますが、これは建築時に資材の搬入用に使われていたものをそのまま残したもの。この吹き抜けのおかげで2階部分はとても風通しがよく、取材日はじっとりと汗ばむ蒸し暑い日でしたが、気持ちの良い風が吹き抜けていました。見学者の方からも「あぁ、いい風だね」との声が聞こえてきました。

2階には、寬次郎が書斎として使っていたスペースと、寬次郎や客人が寝室として使用していた部屋があり、ユニークな造形の木彫や木彫を元にしたブロンズ像などが展示されていました。

手前が寬次郎の寝室。奥の一段上がった部屋は客用の寝室として使われていた

生活と創作の空間を繋ぐ中庭

河井邸の中心には、プライベートな空間と創作の場を繋ぐ中庭があります。

中庭に置かれた丸石。新築祝いに故郷島根の親友が石灯籠を贈ろうとしたところ、寬次郎が「丸い石がほしい」とリクエスト。寬次郎は丸石を中庭の色々な場所に動かしその変化を楽しんでいたが、やがてここを置き場所に定めたそう

「寬次郎はよくこの中庭で作業をしていて、いつもたくさんの作品が並べられていました。その上では洗濯物がたなびいていました。」(鷺)

「鰻の寝床」と形容される、間口が狭く細長い土地に建てられた町家では、中庭は住まい全体の風通しをよくし、すべての部屋に光が入るようにする大切な存在。また、中庭に草木を植えれば、プライバシーを確保しながら自然を感じられ、開放感を得ることができます。
河井邸でも、中庭は邸内全体に心地のよい光と風、そしてゆったりとした空気感をもたらしていました。

中庭には、2畳の小さなはなれが設けられています。中に入ると、窓からは中庭の草木が眺められ、茶室の小間を思わせる落ち着いた空間。寬次郎が仕事の合間に休憩をしたり、思索に耽ったりした場所だそう。

見学者も中に入ることができる。心を休めて、物思いに耽ってみてもよいかも

書いた人

大阪府出身。学生時代は京都で過ごし、大学卒業後東京へ。分冊百科や旅行誌の編集に携わったのち、故郷の関西に出戻る。好きなものは温泉、旅行、茶道。好きな言葉は「思い立ったが吉日」。和樂webでは魅力的な関西の文化を発信します。