ルパン三世の人気キャラクター、石川五ェ門。彼の持っている刀、斬鉄剣(ざんてつけん)の鞘は、一見して刀だと分からないように作られた「仕込み杖」だとも言われますが、以下のような画像に似ていますよね。
これは、白鞘(しらさや)と呼ばれるもの。朴(ほお)の木などを削って表面をきれいに整えた、木だけで作られている白木の鞘です。
この白鞘に納められている斬鉄剣、実は五ェ門に「時間外労働」させられているかもしれません。
白鞘は「寝巻き」
よく時代劇などで見る刀の鞘は、こんな感じではないでしょうか?
鞘の表面には漆が塗ってあり、手に持つ部分である柄(つか)には巻きが施されています。また、いろいろな金具も使われていますね。
これが、刀の「外出着」。持ち主の身分や好みなどを示す、おしゃれポイントでもあります。
では白鞘は?
白鞘は別名「休め鞘(やすめざや)」とも呼ばれ、通常、この鞘を差して外出したり、戦ったりすることはありません。五ェ門の斬鉄剣は、オフでのんびりしているところにいきなり呼び出しを食らって、毎度びっくりしているのかもしれませんね。
白鞘の歴史
白鞘がいつごろからあったのか、実はよく分かっていません。戦国時代の終わりには、身分の高い武将の名刀などに使われていた、とも言われていますが、最初に使われたのがいつなのか、というのは、はっきりしていないのです。
漆塗りの鞘や柄巻などの施された拵(こしらえ)は破損しやすいものでもあるため、現存数がとても少なくなっています。今見られる、平安時代などの拵は、奇跡のかたまりなんですね。
白鞘も同じです。たまに虫食いのある白鞘も見かけますが、やはり木ですから、虫くんたちにとってご馳走なのかもしれませんね。
拵に入ったものが外出着ですから、絶対に必要なのは拵のほうですよね。白鞘は拵よりはずっと後の時代にできたと言われています。
超重要! 刀のお手入れ方法とは?
それにしても、刀のお手入れって、どうやっているのでしょう? 時代劇などで、口に紙をくわえて、なにかポンポンやっているのは見るのですが……
刀のお手入れというのは、主に今まで刀身に付いていた錆止め油を取り去って、新しい油を引き直す作業になります。錆止め油も放っておくと酸化してしまうため、刀を錆びさせないための、重要な作業です。
刀のお手入れには、昔からされてきた方法のほか、最近さかんになってきた、別のやり方もあります。
まずは昔からされていた方法をご紹介します。
意外と簡単? 伝統的な刀のお手入れ方法
まずは、必要な道具をご紹介!
拭い紙
上質な奉書(ほうしょ)などを柔らかくなるまで揉んで使います。
丁子(ちょうじ)油
椿油をベースにして、ハーブの一種であるクローブ=丁子(ちょうじ)で香り付けしたものです。
打ち粉
あの、ポンポンです。この丸い頭の中には、刀の研磨のときにも使われる石を粉末にしたものが入っています。
油塗り紙
拭い紙を小さく切ったもの。ネルなどの柔らかい布でもOK。
では、これらを使ってお手入れしていきましょう。
お手入れの手順は?
刀を鞘から抜いて、柄と鎺(はばき)を外したら、刃の付いていない方向(棟側)から軽く拭い紙で拭っていきます。拭い紙はあらかじめくしゃくしゃにして柔らかくしておきます。
写真では右手で持って左手で作業していますが、どちらでもやりやすいほうの手でOKです。
次に、打ち粉を棟側から静かに打ちます。
先ほどのとは別の拭い紙で打ち粉を払い、また拭い紙を変えて拭い取ります。
拭い紙(もしくはネル)に丁子油を含ませ、新しい油を刀身に塗ります。油の量を確認して調整したら、お手入れ完了です。
そうそう、これ! という、まさにイメージ通りの刀のお手入れ方法だったのではないでしょうか。
今ではほとんどされませんが、口に紙をくわえるのは、口を開かないため。うっかり刀を手に持ちながらお喋りすると、唾が刀身に飛んでしまい、あっという間に錆びてしまうのでご注意を。
慣れれば1分でもできる! 最近のお手入れ方法
次に、最近使われるようになってきた刀のお手入れ方法をご紹介します。
必要な道具は
ティッシュ
特別なティッシュでなくても大丈夫。パルプ100パーセントの上質なものがおすすめです。リサイクルペーパー、色が付いているもの、柔軟剤などを使用して柔らかい肌触りに加工されているものは避けたほうがいいとされています。
鉱物油
植物性の油より酸化しにくく、錆が出にくいと言われています。拭き取りも簡単。目的や好みによって、現在でも植物性の油を使うケースもあります。
クロス
メガネ拭きのような、なめらかで油分の拭き取れる、汚れていないきれいなクロスを使います。チリやほこりが付着していないか、よく確認してから使用してください。
脱脂綿(またはネル布)
こちらは普通にドラッグストアなどで売られているような脱脂綿です。カット綿でもOK。ネルは今でもよく使われます。
では、実際にやってみましょう。
お手入れの手順は?
刀身を棟側から軽くティッシュで拭います。ケガにはくれぐれも注意してください! 不安な場合は、布を重ねてもOK。
ティッシュでだいたいの油を拭き取ったら、クロスで棟側から拭き上げます。
刀身の油が取り除けたら、脱脂綿に新しい油を含ませ、刀身に塗ります。油の量を確認して調整したら、お手入れ完了です。
この方法だと、慣れれば1分程度でお手入れできてしまいます。便利な道具ができてきてすごいな、と思う半面、ちょっと寂しい気も。
新しいお手入れ方法のメリットは、刀の表面にキズが出来にくいこと。打ち粉は砥石の粉をまぶして油をからめ取るため、どうしても細かなキズが付いていってしまいます。打ち粉を使わない新しい方法は、このリスクを避けることができるのです。
もちろん、現在でも昔からの方法で上手にお手入れをされているかたもたくさんいらっしゃいますよ。
刀のお手入れは、半年に1回程度、研ぎに出して戻ってきた直後の数か月は1週間に1回くらいすると、錆が出にくくて良いとされています。
刃こぼれや錆、刀身表面の深いキズなど、大きなキズができてしまった場合には、専門の研師に任せましょう。職人さんへの直接依頼のほか、刀剣店などでも受け付けています。
油を引くのは明治以降の文化?
刀剣の保存に欠かせない油ですが、刀身に油を引いて膜を作り、酸化を防ぐ方法は意外に新しい習慣だと言われています。
刀身に油を引いて保存しておくと、どうしても鞘の内部にも油が染みます。鞘を作る職人、鞘師さんによると、この油染みが、江戸時代までの鞘には見られないというのです。
では、どうやって保存していたのか、というと、乾いた布などで刀身を頻繁に拭っていたか、あるいは錆が出たらすぐ研ぎに出していたのではないか、といいます。だからこそ、研師が町に大勢いたのでは? というのが、研師さんの見解だそうです。
刀は楽しい!
刀の鞘とお手入れについて、簡単にご紹介しました。五ェ門ファン、ルパン三世ファン、漫画やアニメファンのかたも、ぜひ刀剣の世界を覗いてみてくださいね!