博物館や美術館、神社の宝物殿などで、偶然、刀を見かけたことはありませんか? 刀なんて縁がない、と思っていても、意外と身近な場所にあったりするものです。
でも、刀ってよく分からない、どれも同じに見える……。興味を持って見始めても、分からないことだらけなのが刀剣の世界です。
今回は刀剣のはじめの一歩、分類や展示方法の世界を、ちょっと覗いてみましょう。
刀剣の分類
長いのと短いのと、反っているのと真っ直ぐなのと、なんかあったけれど、どれもほぼ同じ? 初めて刀を見たら、だいたいの人はこんな感想を抱くのではないでしょうか。それが普通ですし、刀の見方には少しコツがあるので、まずはそれでOK。
現在、一般的に使われている刀剣の分類法は、次のような感じです。
「刀剣」や「刀」の定義
まず、細かな分類に入る前に、言葉の定義を少しだけご紹介します。
「刀剣」とは、刀をはじめ、槍やなぎなたなども含めた呼び方です。また、「刀」という名前も、広い意味では片刃のもの全体(なぎなたを除く)を指すこともあります。
さらには例外もあったり、人によっては明確な使い分けをしないでふわっと使っていたりするので、余計分かりにくくなっているのですが、基本的な分類方法はこのようになっています。
では、博物館などで一番よく見かけて、一番よく分からない、刀の分類について見ていきましょう。
太刀(たち)
刃の長さが60㎝以上で、平安~室町時代初期以前に作られた、片刃の湾刀。反りの深いものが多く見られます。
刃を下にして身につけ、「太刀を佩く(はく)」と言います。
刀(かたな)
刃の長さが60㎝以上で、室町時代以降に作られた、片刃の湾刀。
刃を上にして身につけ、「刀を差す(さす)」と言います。
ただし、長い太刀を短く作り直して(「磨上(すりあげ)」と言います)、銘(めい・作者の名前を切ったもの)がなくなってしまったものも、刀に分類されます。
脇差(わきざし)
刃の長さが30㎝以上60㎝未満の片刃の湾刀。
刃を上にして「差し」ます。
短刀(たんとう)
刃の長さが30㎝以下の片刃のもの。反りはあるものとないものの両方が見られます。
刃を上にして「差し」ます。
剣(けん)
長さに関わらず、刀身が真っ直ぐで、刃が両側に付いているもの。
非常に古い時代(平安時代以前)以外は、奉納用として作られたものがほとんどです。
太刀と刀は時代によって分類されるのが基本ですが、太刀が短く作り直されている場合、その程度によって名称が変わることもあり、かなりややこしい部分でもあります。
また、そもそもこうした分類を使い始めた時期は比較的新しく、実際に刀が活躍していた時代の区分ではありません。
番外編1・あいくち
あいくち(合口、匕首)というのは、刀剣用語では刀の鞘の形状を指します。短刀で鐔(つば)がなく、持ち手の柄(つか)と鞘がぴったり合わさっているような形式のものです。
小さな刀身にこの名称が使われていることもありますが、刀剣用語としては、鞘の形状以外にはほとんど使われない名称です。
番外編2・どす
《「おどす」の略か》
1 人を刺すための、短刀・匕首(あいくち)など、小型の刀。
2 人を恐れさせるような、すごみ。出典 小学館デジタル大辞泉
これは、正式な刀剣の分類には入っていません……映画などでは聞きますけれど……
刀にも表と裏がある
刀は昔、実際に身につけて歩いていたものですので、表と裏があります。持っている人の体側が裏、他の人から見える側が表です。
作者の銘も大部分は表側の茎(なかご・柄の中に納められる、持ち手部分)に切られていますが、流派の特徴や個々の事情などによって、裏に切られることもあります。まれに、棟側に銘が切られているケースなどもあり、必ずしも一定ではありません。
どうして展示の向きが一定ではないの?
実際に身につけていた時の表側が見えるように展示されることが多いので、太刀は刃が下に、刀や脇差、短刀などは刃が上に、また、鋒(きっさき)は右に、持ち手部分の茎は左にくるのがスタンダードなようです。
短刀の中には「馬手指(めてざし)」と呼ばれる、通常とは逆の、体の右側に差して使うタイプのものもあるため、この場合には表が普通の短刀とは逆になります。馬手指も刃は上になりますが、左右を反対にして展示される場合が多いようです。
また、銘のあるほうを優先させていたり、展示担当の学芸員さんが、こちらがチャームポイントだから見せたい、このほうが見やすい、と思ったほうを向けて置いてあったりするケースもあるので、必ずしも上記の理由だけ、ということでもありません。これもややこしいですね……。
無銘の刀にはいろいろな理由がある
刀の作者の名前、銘が切られていない刀も中にはあります。これにはいろいろなケースがあり、銘の有り無しだけで何かの判断をすることはできません。
刀に銘がない場合の主な理由は、
・神への奉納刀として(銘を切るケースも多々あります)
・藩などのお抱え刀工が雇い主に納品したもの
・太刀を短く作り直して、銘がなくなったもの
この他にも様々なケースがあり、無銘だからこういうものだ、と断定はできないのが実状です。
刀の鑑賞ポイント
では早速刀を見ていきましょう……と言っても、いったいどこを見るのでしょうか?
姿
刀の鑑賞で一番最初に見るポイントとされるのが「姿」。その形を楽しみましょう。どのくらいの長さで、どんな太さで、どんな風に反っているか、などがポイントになります。
日本の刀の反りは非常に美しく、その曲線には日本人の美意識が表れているとも言われます。
とはいえ、最初からは分からないので、何となくこんな感じ、で大丈夫。
地鉄(じがね)
刀の肌である「地鉄(じがね)」ですが、これを見て分かるようになるのは、とても難しいことです。
目を凝らしてよく見ると、鉄の肌の中に模様が見えてきませんか? これも刀の鑑賞ポイントの1つ。板目(いため)肌、柾目(まさめ)肌、杢目(もくめ)肌など、木材の木目になぞらえた呼び名がついています。
刃文(はもん)
刀を見る時に、一番親しみやすいのが刃文(はもん)ではないでしょうか。刀の刃の近くに見える、白っぽく光っている筋のようなものが刃文です。
まっすぐのもの、波のようにうねっているもの、華やかに入り組んでいるものなどバラエティーに富んでいて、とても楽しい鑑賞ポイントです。
Choo Choo TRAIN鑑賞法!
展示されている刀を見るには、ちょっとしたコツがあります。刀には鑑賞するのに最適な角度というのがあるのですが、それは自分の身長や見ている場所で変えないといけません。
名付けて、「Choo Choo TRAIN鑑賞法」!
展示されている刀の見やすい角度を探す方法です。
方法は、見たい場所に目線を当てて、あのダンスのようにぐるぐる円を描きながら左右上下に動き、一番よく見える角度を探します。
刀の仕上げ方によっては「刃取(はどり)」と呼ばれるお化粧が施されていることがあり、この刃取のラインが刃文? と思ってしまうことも多いのですが、Choo Choo TRAIN法で見えてくる、きらっと光る筋が本当の刃文です。
また、展示ケース越しだと少し見づらいのですが、地鉄もこの方法で探して見ることができます。
刀を見に行こう!
いろいろ説明してきましたが、刀を見るのに、知識なんてなくても構わないんです。綺麗だな、とか、ちょっと面白いな、とか、そういった気持ちが一番大切。
肩肘張らず、博物館などで気軽に刀を見てみてはいかがでしょうか?
刀は誰でも手に持てる
もっと深く知りたいと思ったら、実際に本物の刀を手に持って見られる鑑賞会もおすすめ。展示ケース越しだと刀の2割程度しか見えない、とも言われますから、興味を持ったらぜひ手で直接持って、刀の重さも感じてみてくださいね!
ちなみに、刀を手に持っても、もちろん法律違反にはなりません。刀剣には「登録証」という住民票のようなものが付けられていますが、これがある刀なら、誰でも自由に手に持ったり、所持したりすることができるのです。
刀は「美術品」なのですね。
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