「心地よい暮らし」と聞いて、どんなことをイメージしますか?
例えば、知り合いからもらった自家製野菜を料理して、丸ごと美味しく食べられた時。目の前の料理を楽しんだ後で、人の温もりやご縁、自然への感謝の気持ちなどが湧いてきて「心地よいな」と感じる方も多いと思います。
今回のテーマである、ガラ紡×オーガニックコットンによる木玉毛織さんのモノづくりは、そんな「心地よい暮らし」に関心のある方にぜひご紹介したい取り組みです。
そもそも私が木玉毛織さんに関心を持ったのは、一枚のミニタオルがきっかけでした。やさしい風合いのタオルは、手や汗を拭くという通常の使い方だけでなく、台所の食器洗いにも使うことができると聞いてさっそく試してみたところ、これがとにかく「心地よかった」!
その「心地よさ」は一体どこから来るんだろう。できれば、このタオルが生み出される現場を訪ねてみたい。そんな気持ちがフツフツと湧いてきました。
ちょうど同じタイミングで、2019年春から担当しているゼミ「おばあちゃんの知恵から学ぼう。食から始まるシンプル暮らし術(なごや環境大学)(*)」の視察先を探していたのですが、このゼミの趣旨にも合致するということで、ゼミメンバーと一緒にモノづくりの現場を訪ねてきました!
今回は、その様子をご紹介したいと思います。(撮影協力:saori matsui)
ガラ紡が「幻の糸紡ぎ」と呼ばれる理由
木玉毛織さんは、愛知県一宮市にある明治28年創業の会社です。もともと一宮市はウールの産地として栄えた町で、こちらでも長年ウールの婦人服地をつくっていました。
ガラ紡を使ったモノづくりを始めたのは、今から15年ほど前。あるご縁によって、廃業した豊田市の工場から機械を譲り受けたことがきっかけでした。
ではまず「ガラ紡」について。
初めてこの名前を聞いたという方も多いと思いますが、明治初期に日本で発明された糸を紡ぐ機械のこと。「ガラガラ」と音を立てて動く様子から、この名前が付いたのだとか。
ガラ紡が発明された当初はその画期的な方法が注目され、全国に広がりました。しかし、その後工業化の波が押し寄せ、効率や均質なモノを求める流れのなかで、その規模は徐々に縮小。現在稼働しているガラ紡は、国内でも数えるほどに減ってしまい、とても希少価値の高い技術になっています。
専務の木全育睦さんにご案内いただきながら、実際に動いている様子を見学させていただきました。
機械というよりも、まるで生き物のよう!
綿の詰まった筒が回転する際に、上方に引き伸ばしながら糸を紡いでいきます。その何とも言えない愛らしい姿に、メモを取る手を休めてつい見入ってしまいました。
ガラ紡から生み出される糸は、太さがばらばら。あまりに細いと途中で切れてしまうこともあるのだそう。熟練した職人が機械のそばに立ち、時々様子を見て調整しています。
そんな不揃いの糸を紡いで出来上がるモノたちは、一見同じように見えても、どれひとつとして同じものはありません。糸が生まれる様子を間近に眺めながら、こうした一つひとつのプロセスが、深い味わいにつながっているのだと感じました。
自身のお土産用に購入した靴下とレッグウォーマーには、「一つひとつの表情が違うため、同じような風合いのものを左右で組み合わせました」といった趣旨の一文が添えられていました。
オーガニックコットンを使う
心地よさを感じる理由は、素材選びにもありました。
こちらでは、農薬や化学肥料を使わずに自然のサイクルで3年以上育てられた「オーガニックコットン」を利用しています。
「オーガニック」と言うと、野菜や果物などの食料品のことを思い浮かべる方も多いと思いますが、実は世界で使われている農薬の約3割が綿花の栽培に利用されていることをご存知でしょうか。
食材とは異なり、農薬の使用基準なども甘いことから、大量の農薬や枯葉剤などが使われており、生産者の方々の健康被害も深刻になっています。
ゆっくり糸を紡ぐガラ紡では、繊維の短い綿も余すところなく使うことができます。小さな綿玉も、丁寧にほぐして大切に使用しているのだそう。これは、手間暇かけて綿花を栽培した農家の方への敬意の表れでもあります。
最近オーガニックという言葉をあちこちで聞くようになりましたが、「オーガニックを『流行りモノ』ではなく『当たり前のモノ』に」という考え方にも、強い信念を感じました。
大事に作って、大事に使う
風前のともしびとも言える「ガラ紡」の伝統技術を使い、「オーガニックを当たり前のモノに」という想いでモノづくりをしている、木玉毛織さん。糸紡ぎから染、織、縫製に至るまで、一貫して「作り手の顔が見えることを大切にしている」のだとか。
効率化という視点から見れば、あえて「手間のかかる」方法をしているようにも感じられるモノづくり。社長の木全元隆さんに、その想いを尋ねました。
「誰もが心のどこかで、ゆっくりスローなものを求めていると思う。ガラ紡を使ったモノづくりは本当に手間と時間がかかる。どこまで環境にやさしいのか、大きなことは正直分からない。けれども、直接肌に触れるものだからこそ、手をかけて大事に作りたいし、そうして出来上がったモノを大事に使ってもらえたら嬉しいなと思っている。」
実際に現場を見学し作り手の想いを聞くことによって、冒頭に書いた「この心地よさは一体どこから来るんだろう」という疑問の答えが、少しずつ見えてきたような気がしました。
一緒に見学したゼミメンバーのなかには「綿から製品になっていくプロセスを初めて見た」という方も。「知らないことの多さに驚いた」「もっと大切に使っていきたい」「次は子どもと一緒に見学したい」という声もありました。
ベビー用品や台所周りも、心地よく
木玉毛織さんの主な商品は、タオルなどの日用品、スタイなどのベビー用品、ブランケットなどの寝具、腹巻やレッグウォーマーといったインナーなどです。
最近は、ベビー用品の人気が高まっているのだとか。優しさと温もりがギュッと詰まっていて、生まれたばかりの赤ちゃんの肌にも安心ですね。一般に「使用できる期間が短い」と言われるベビー用品ですが、使わなくなった後もインテリアとして飾ったり他の用途に使ったりできるので、ひとつのモノを長く楽しめそうです。
今回現場を訪問するきっかけにもなったミニタオル。冒頭にご紹介したとおり、手拭き用に使うのはもちろんですが、食器洗いなど台所周りの掃除などにも広く利用できます。
動物性の油を大量に使用しない軽い汚れであれば、洗剤を使わずにタオルでつるりと洗うことができます。使ったタオルを絞れば、そのまま食器を拭くこともでき、「モノを増やしたくない」「シンプルな暮らしを実践したい」という人にもおすすめです。
大切な人に贈りたくなるモノ
実は、私の身近に木玉毛織さんのことが大好きな人がいます。「その商品の魅力を一言で表すとしたら?」と聞いてみたところ、こんな返事が返ってきました。
「大切な人に贈りたくなるモノ、かな」
これを聞いて、なるほどその通りだなと思いました。
普段の暮らしのなかでシンプルに使うこともできるし、ガラ紡やオーガニックコットンに触れるきっかけにもなる。さらにそこから、糸紡ぎの歴史やオーガニック、環境について考えを深める場合もあるかもしれない。
あるいは、「オーガニックコットン」という選択によって生産に関わる人の健康が保てるということや、洗剤を使わずに食器を洗うことで環境への配慮につながるということ。
ひとつのモノから、さまざまなストーリーが生まれる。大切な人に贈りたいという言葉には、いろんな意味が込められているように感じます。
「大事に作って大事に使う」という作り手の想いは、もう確実に使い手に届いている。そんな気がして、何だか嬉しくなりました。
もし機会があれば、その心地よさをぜひ味わってみてくださいね。
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*「おばあちゃんの知恵から学ぼう。食から始まるシンプル暮らし術」…なごや環境大学にて、2019年春から開催しているゼミナール。趣旨に共感するメンバーと一緒に、古くて新しい知恵を探し、深めている。詳しくは「なごや環境大学」または「養生キッチンふうど」のwebサイトから。
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編集後記
「心地いい」という感覚から出発した今回の企画ですが、現場に木玉毛織さんに伺い、その理由を掘り下げてみることでたくさんの発見がありました。
気になることには、必ずその理由があるはず。
情報が溢れかえる時代だからこそ、自分のアンテナに引っかかるモノやコトを、手や足を使って深堀りしてみることが面白いのかもしれません。
これからも「現場を訪ねる旅」を続けていきたいと思います。
ご協力いただいた皆さま、ありがとうございました!
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会社名:木玉毛織株式会社
住所:494-0011 愛知県一宮市西荻原字上沼40
電話:0586-68-1131
営業時間:平日10:00~17:00(土日祝は休み)
公式webサイト:https://www.kitamakeori.co.jp/
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<イベントのお知らせ>
令和元年11月23日(土・祝)に開催されるフード・雑貨・音楽・ワークショップなどのイベント「びしゅう産地の文化祭」。今回の会場は、木玉毛織さん。当日限定で工場見学もできるそうです。詳しくは、facebook「びしゅう産地の文化祭」をチェック!
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