Craft
2019.08.26

かわいい食器・益子焼人気の秘密は?焼き物の里の歴史と作家を紹介

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栃木県の焼き物・益子焼。近年は陶芸体験や陶器市で「かわいい食器」として注目を集めていますが、その人気の秘密とその産地、歴史を解説します。

益子焼の歴史を辿る

国内外から刺激を受け、発展してきた焼き物産地へ

栃木と茨城の県境、八溝山地のふもとに広がる益子町には、器ファンが国内外から訪れます。益子駅前の益子本通りから城内坂へ、一本道を歩けば陶器店や窯元直営店がずらり。さらに丘陵地にもしゃれたギャラリーや大小の益子焼の窯元が点在します。

益子周辺では8~9世紀に焼かれた須恵器が出土し、古代に窯業地であったことが知られますが、今日の焼き物の里に至る歴史は比較的浅く、江戸時代末期から。以後、昭和20年代までは日用雑器を供給する無名の窯業地でした。

益子焼の歴史、転機は1924年。

転機は1924年、イギリス帰りの陶芸家で、民芸運動に携わった濱田庄司の移住です。濱田に田舎暮らしの純朴さと益子の陶工の充実を見いだされたことで、「民藝益子焼」が発展し、その名は海外にも轟くまでに。

一方で、遠方から濱田を慕うつくり手が集住し自由な創作活動の風土も育まれました。こうして、民藝の系譜の作家、独自性を競う作家、歴史ある窯元など、多様なつくり手が土地を盛り上げ、器好きを引き寄せています。
益子2「陶器ギャラリー 陶庫」 栃木県芳賀郡益子町城内坂2 営業時間10時~18時 

益子焼の窯元・作家の数は?

益子焼の作家や窯元の数は現在440を超え、その7~8割は外部出身の作家といわれています。30名近い作家の作品を扱う「陶器ギャラリー陶庫」をのぞいてみましょう。

同店の塚本ゆ美子さんは、「町に器はたくさんあるが、益子焼の特徴がとらえにくい」という旅人の声を耳にすることがあるとか。その一因は、益子の土と釉薬で作陶する作家の減少です。そこで店では、益子の素材を生かした皿や食器などを、郷土の魅力として紹介。

「茶褐色の柿釉やしっとりとした黒釉など落ち着いた色調のものが中心。同じ釉薬でも作家によって表情が異なります」と塚本さん。じっくり見比べてみるのも一興です。
一方で、作家の持ち味に重きを置く「うつわのみせ 佳乃や」の店主、小峰彰さんは「益子の土だけでは表現に限界ができる場合も。作家が何をつくりたいかという根本が大事」と語ります。
益子3「うつわのみせ 佳乃や」 栃木県芳賀郡益子町益子3169-1 営業時間10時~18時 

益子焼の販売店の数は?

町内の焼物店はおよそ70軒と、目移りするほどですが、品ぞろえが自分にしっくりくる店で、真摯な作陶をする作家について聞き、理解を深めるのがよい器と出合う近道です。

丘陵地に立つギャラリー「もえぎ本店」では月に数度、企画展を実施しています。取り扱いのある作家のひとり、伊藤剛俊さんは東京のギャラリーやスタイリストも注目する気鋭の若手です。埼玉県出身で、春・秋の「益子陶器市」を小さなころから両親と訪れ、焼物好きになったそう。益子で修業し、独立。陶芸仲間が多く住む豊かな里山に、「数年で益子を出よう」という当初の考えは、「ここに骨を埋めるかもしれない」という予感に変わったとか。
益子4伊藤剛俊作のピッチャー 「もえぎ本店」 栃木県芳賀郡益子町上大羽堂ヶ入2356 営業時間11時~18時 

モダンな器に出会える益子の町

90年代から衣食住の良品をセレクトし、作家との共同作品を手がけてきた「スターネット」オーナーの馬場浩史さんは益子の職人と組み、新シリーズを展開中。古代への想像をかき立てる【縄】をモチーフに、軽やかな印象に仕上げています。そんな試みも益子らしいといえるでしょう。 町の成熟に、新しい世代の感性や時代の息吹が重なり合う。【今】らしい器と出合える町が、益子なのです。
益子5「スターネット」 栃木県芳賀郡益子町益子3278-1 営業時間11時~18時 

撮影/鈴木俊介