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Culture
2020.09.28

まさにおもてなしのスペシャリスト!花柳界で働くアルバイトがその魅力に迫る!

この記事を書いた人

芸者さんになりたい! そう思い続けてきた私が芸者さんの世界「花柳界」に足を踏み入れたのは、大学二年生の秋、19歳のことでした。


芸者さん。

日本文化を追求し、おもてなしを極めるその生き方は、日本文化と関わりながら育ってきた私にとって長く憧れの存在でした。もともと平安貴族のお嬢様の、琴や和歌に触れて教養を身につける生活に憧れていた私。中学生の時に、踊りや三味線などのさまざまな伝統芸能をお稽古して披露する仕事が現代にあると知り、私は芸者さんに憧れるようになりました。

いつか働きたい、と思いながらネットで調べると、私の住む東京にもその働き口があることがわかりました。が、実際に働くとなるとお座敷は夜遅くまで続く上に、私の実家からその町は近くなく、学業との両立ができるか不安でした。

けれど、アルバイトという名目でも、自分のやりたいことをして自分なりに学び、そしてお金を稼ぎたい! そうしたら、きっととても充実した学生生活を送ることができるはず。

そんな思いから、私は花柳界で働くことを決めました。

実際、きらびやかな花柳界での仕事は、今まで自分がもっていた現代社会の常識や固定観念のようなものをさらりと覆す、独特の雰囲気に満ちていました。

まさに、日本文化の伝統を背負う、おもてなし業の現場といった空気感。

私の持っていた「芸者のイメージ」通りだったのは服装や仕事の概要。働いていく中で、想像以上に素晴らしいおもてなしの数々があることを知りました。

私はまだ花柳界の端くれの端くれですが、花柳界の内側を見ている人間として、もっと花柳界の面白いところを知ってもらい、知名度を上げたい! ということで芸者さんの傍で働かせていただいている者として、花柳界で見聞きしてきたことを皆さんに紹介したいと思います!

そもそも芸者さんって何者!?

皆さんは「芸者」という職業にどんなイメージを持っていますか?

カツラに白塗り、黒色の裾の長い着物を着た女性が三味線や踊りを披露する姿などを思い浮かべる方が多いかもしれません。

「そもそも芸者さんって今もいるの?」と思った方もいらっしゃるかもしれません。まずは、現代の芸者さんとその世界「花柳界」についてざっくり紹介します。

お稽古を重ね、お座敷でその芸を披露する者のことを「芸者」といい、彼女たちを取り巻くいくつかの組織全体を「花柳界」、あるいは「花街」といいます。

花柳界というものは、見番、料亭、置屋の三つの存在で成り立っています。芸者は置屋(芸能プロダクションのようなもの)に所属しており、見番が置屋と料亭の取りまとめやお客様との取次ぎ等を行い、芸者は呼ばれた料亭へ出向きます。私は現在アルバイトという形で、お姐さんの置屋に所属し、料亭で仕事をさせていただいております。

芸者はお座敷につく(料亭でおもてなしをする)ことのほかに、お稽古事が必須です。
お座敷が本番といったところですが、昼間はお稽古に励み、自らの芸を向上させています。

また、小唄や三味線、踊りなどの芸事の発表の場や、町の名前を冠した、芸者の一般公開の発表の場もあり、芸者は料亭の外でも芸を披露することがあります。

今回は私の所属している置屋を経営する千景お姐ちゃんにご協力いただき、お姐ちゃんの写真を掲載しております。とってもお美しい~!

お座敷での芸者の装いは、正装は黒紋付きでお引きずりの着物に白塗りとかつら。お正月やお祝い事の際に、お客様のご要望に合わせて正装でお座敷に入ります。普段は洋髪にまとめ、お洒落着とは違う、訪問着や付下げといった格の高い着物を着ることになっています。半玉という、京都でいう舞妓さんにあたる「芸者のお見習い」は、毎日振袖にかつらと白塗りでお座敷に入るため、場がさらに華やぎます……!

こちらの写真は右が半玉さん(京都でいう舞妓さん)、左の二人が一本の芸者さんですが、三人ともカツラの形が違っており、ちょうど背の順でよりお姐さんになっています!

さて、芸者の歴史を簡単にたどってみると、諸説ありますが、平安時代の白拍子という舞踊に長けた芸人や、巫女に行きつくという話もあります。それらはその後、戦乱のために廃れ、江戸時代になって東京に芸者という職業が新しく生まれたといいます。

江戸時代の芸者には、吉原遊郭の前座に芸者衆が三味線や踊りを付けて、場を温めるという役割がありました。芸者と遊女(花魁)を混同する人もいますが、「芸は売っても身は売らぬ」。これは、芸者の矜持を言い表すときによく使われる言葉で、色を売る遊女と自分たちは違うんだという心意気を表しているそうです。

いつか行ってみたいと文人墨客が愛した町、向島

ここからは私の働く墨田区スカイツリーのお膝元にある、向島花柳界についてご紹介します。東京には向島の他に、新橋、赤坂、浅草、神楽坂などに花柳界がありますが、それぞれに町の文化があり、特徴があり、雰囲気もがらっと異なります。

向島は東京の花街の中でもっとも在籍する芸者が多いこと、また、下町であることがその雰囲気を特徴づけています。向島は「宮様から畳屋様まで楽しめる」と言われたように、昔から堅苦しくなく遊べるところだったそうです。

向島花柳界は江戸時代にルーツがあります。浅草から見て隅田川の向こうの島というところから「向島」と呼ばれるようになり、「いつか行ってみたい雅な場所」として文人墨客が愛した町であると言われています。

春は隅田川で屋形船からお花見や芸妓茶屋、夏は隅田川花火大会、秋は向島おさらい会(一般発表の会)、冬は芸者がみな正装で華やかなお正月を迎えます。

地域には、向島百花園という江戸時代に造られた庭園があります。こちらは秋の萩や冬の梅が見どころです。

このように、風光明媚なたくさんの名所を季節ごとに楽しめるのが向島なのです。

踊りとお酌だけではない!?お客様に合わせて観光ツアーも

ここからは芸者さんの真髄、「おもてなし」について私の体験をもとに向島花柳界の実際のおもてなしをご紹介します! 町によって、また、同じ町でも料亭によってしきたりが異なる部分もありますので、その点はご留意ください。

まずは、お客様をお出迎えしてお送りするまでの一連の流れを紹介します!

芸者衆は玄関でいらしたお客様をお出迎えします。ここでは料亭の下足番のお兄さんが靴のお預かりやお車の誘導などをしてくださいます。そして、お客様が全員揃ってから、芸者衆やかもめさんと呼ばれる私たちアルバイトがお座敷に入ります。そして頃合いを見て乾杯、歓談などを行いながらお食事を。

そして場があったまったところで、踊りや鳴り物、三味線などの披露を行いますが、これを「お座敷を付ける」といいます。曲は四季折々のものやお祝いのものなど、それぞれのお座敷に合わせて用意されています。

お客様のご要望に応じて、お座敷遊びを行うことも!「トラトラトラ」「金毘羅ふねふね」「おまわりさん」「投扇興」などがあります。これらはお酒の袴や扇子など、その場にあるものや身振り手振りでできるゲームです。これに負けると「罰杯」としてお酒を飲むことになるので、熱が入り、お座敷はどんどん盛り上がります。

向島の大抵の料亭には、障子をがらっと開けると、なんとカラオケが用意されており、大盛り上がりしたり、芸者のお姐さんとしっとりデュエットしたり、なんていうことも。

そう、静かにゆったり飲みたいお客様にも大宴会をしたいお客様にも対応した仕掛けが用意されているので、一口に「芸者遊び」と言っても、幅広い楽しみ方ができるのです!

お座敷での接客では、ご要望があればもちろん全力でお聞きします。が、極力、先に察してお客様の必要なものをご用意するといった臨機応変さが強く求められます。早くお姐さん方のように柔軟に対応できるようになりたいのですが、私はこれにいつも四苦八苦しております……。

芸者さんのおもてなしは、料亭のお座敷の中だけにとどまりません。

たとえば、先ほど向島花柳界の紹介にあったように、春には隅田川沿いの屋台を見ながら花見をしたり、夏には花火を見たり、接待で観光する際にも周りの名所にお客様をご案内したりします。近くのスカイツリーに行くことも。

私が凄いと思ったのは、お客様のご要望に応え続けるお姐さんの姿。ただしっとりと踊りお酌し、だけではなく、体力の必要な大忙しの仕事なのです!

そうして行われた心づくしのおもてなしに、お客様が笑顔でお帰りになると、とっても嬉しくなります。お酒の席の仕事ゆえ、芸者のお姐さん方もお酒をお飲みになりますが、どんなに酔ってもおもてなしの心は体に染みついたように動いているのを見ると、間近で見ていて本当に驚きます。お客様と一緒に楽しみながら、もっともっと楽しませて、居心地の良い空間を作ってゆく。そんなお姐さん方の心の美しさが、さらに芸の美しさを引き立てているようにも感じます。

お客様がお帰りになる時は、料亭の女将さん、芸者衆、アルバイトのかもめさんのみんなでお見送りをします。車が見えなくなる時にみんなで深々とお辞儀をすることで、ひとつのお座敷が終わります。ひとつひとつのお見送りを丁寧に行うというこの決まり事は、おもてなしの心と来てくださったことへの感謝を忘れないための素晴らしいしきたりだと感じます。

私はまだ、芸者さんに憧れるただのアルバイトですが、お姐さん方と同じ場所で働かせていただくことで尊敬の念がどんどん増しています。きっと、今私が背中を見て憧れているように、花柳界というものは、お姐さん方の素晴らしいおもてなしを見て学び、実際に自分も楽しめる場だからこそ、今も後継者が生まれ続けているのだと感じます。

そうはいっても今のご時世、「接待を伴う飲食店」という条件にぴったり合う花柳界は、他の業種と同じように苦しい局面にあります。

お客様の数も目に見えて減っている現状で、全国の花柳界が感染対策から、zoomを使ったオンラインお座敷やYouTubeチャンネルでの発信など、あの手この手で花柳界の盛り上げに手を尽くしています。

実際に行くのは少しハードルが高くても、今だからこそ色んな楽しみ方ができる花柳界。あなたも一度覗いてみてはいかがでしょうか。

向島花柳界のことがわかるサイト

向島墨堤組合(向島花柳界の公式HP)

東京花柳界情報舎(向島花柳界の紹介ページ)

置屋 千石(筆者の所属する置屋さんのHP)