最近のものだと思っていたら、実は昔からあるものだったという話はよくあること。先人の知恵に感服することもしばしばです。
今回ご紹介する「豆腐の味噌漬け」もそのひとつ。「チーズの味に似ている」ということから、乳製品を控えている方やベジタリアンの方などに支持されている一品です。しかし実は、江戸時代に人気を集めた料理本「豆腐百珍」にすでに紹介されていたんです!
さらに豆腐百珍を眺めてみると、美味しくて簡単に作れそうな豆腐レシピがたくさん紹介されています。
新型コロナウィウルスの影響による自粛ムードが続いていますが、「自宅で美味しい食事が食べたい」「簡単に作れる料理レパートリーを増やしたい」という方も多いのではないでしょうか。今回書いている身近な食材「豆腐」を使った記事は、そんな方々にもぜひ読んでいただきたいと思っています。
古くて新しい豆腐料理の世界を、ぜひのぞいてみませんか?
豆腐の味噌漬けとは?
ではまず、豆腐の味噌漬けについて。水切りした豆腐の表面に味噌などを塗り、しばらく置いて味をなじませるというもの。豆腐の水分が抜けて、その代わりに、味噌の味が豆腐に染み込みます。とてもシンプルな料理ですが、何とも言えないオツな一品が出来上がります!
食感や旨味・塩味などがチーズにも似ていることから、冒頭にも書いたように、「乳製品を控えている」などヘルシー志向の方を中心に人気を集めています(味噌の代わりに、塩麴や塩などを使っても作ることができます)。「豆腐の味噌漬け」というと和のイメージが漂いますが、実際には和食だけでなく、洋食にもよく合います。
ちなみに、「ごぼうの味噌漬け」「魚の味噌漬け」など、味噌の床に食材を付ける保存食は全国に数多くあります。味噌にじっくりと漬け込むことによって、何とも言えない奥深い味わいが生まれます。また、昔から「味噌は医者いらず」とよく言われていますが、味噌の栄養を摂取することもできるため、一石二鳥というわけですね。
江戸時代の料理本「豆腐百珍」に掲載されていた!
実はかくいう私も乳製品は控えめにしており、この味噌漬けはよく作る料理のひとつです。作り方をどこで覚えたのかは思い出せないのですが、てっきり最近のレシピだと思っていました。
ところが、江戸時代に出版された「豆腐百珍」にすでに紹介されていたんです!このことを知った時、とても驚き、昔の人たちの食の知恵やセンスにあらためて感心してしまいました。
豆腐百珍とは、天明2年(1782年)に刊行された本。そのタイトルの通り、豆腐を使った料理100品と作り方が紹介されています。翌年に「豆腐百珍続編」、さらに後に「豆腐百珍余禄」が出版されるほど江戸の庶民に親しまれ、ベストセラーになったのだとか。
その人気の秘密は、淡泊な味わいの身近な食材「豆腐」を使って、100品もの料理を展開する遊び心にあるとも言われています。豆腐百珍では、以下の6つのカテゴリーに分けて豆腐料理が紹介されており、豆腐の味噌漬けは「奇品」のなか「味噌漬豆腐」として紹介されています。
・尋常品(26品)…家庭でよく料理されるもの
・通品(10品)…一般的によく知られているもの、販売されているもの
・佳品(20品)…風味や見た目が良いもの
・奇品(19品)…ひときわ変わったもの、人の意表をついたもの
・妙品(18品)…珍しいだけでなく、味や形もよいもの(奇品にまさるもの)
・絶品(7品)…豆腐の持ち味を生かし、絶妙の調味加減のもの
豆腐の味噌漬けを作ってみよう
では、豆腐百珍を参考にしながら、豆腐の味噌漬けを作ってみましょう。豆腐百珍では、具体的な分量や詳しい作り方などの記載がない部分も多いので、私自身の作り方も付け加えています。
〈材料(作りやすい分量)〉
木綿豆腐…1/2丁(200g程度)
味噌…大さじ1~1.5
煮切り酒…小さじ1~2
美濃紙(ガーゼやラップなどでもOK)…豆腐が包める大きさ
*煮切り酒…加熱してアルコール分を飛ばした酒のこと。小さな鍋などで1分程度沸騰させればOK。
〈作り方〉
1. 豆腐はしっかり水切りをする。
2. 味噌を煮切り酒で溶き、ペースト状にしておく。
3. 豆腐にまんべんなく味噌を塗り、美濃紙(またはガーゼやラップ)などでしっかりと包む。バターナイフなどを使うと塗りやすい。
4. タッパーなどに入れて冷蔵庫で保管し、一昼夜漬ければ出来上がり。
豆腐に付いた味噌を取り、食べやすい大きさに切っていただく。
まったりとした旨味があり、美味!酒の肴にも、ごはんのお供にもよく合う一品です。豆腐も味噌も大豆が原料だからなのか、旨味が凝縮されています!
木綿豆腐の代わりに絹ごし豆腐を使ったり、味噌の種類を変えたりすると、また違った味わいが楽しめます。漬ける時間を長くするとその分だけ味噌の味がしっかり染み込みます。好みに応じてアレンジしてくださいね。
使った味噌床は、味噌の風味がまだ残っています。味噌汁などに使えば、最後まで美味しくいただけますよ!
他にもあった!豆腐百珍のおすすめレシピ
豆腐百珍には、一見して「美味しそう!」というものだけでなく、「どんな味がするのかしら?」という豆腐料理も数多く紹介されています。例えば「豆腐田楽」と一口に言ってもいろいろな種類がありますし、「梨豆腐」や「墨染豆腐」など香りの良い食材を使った珍しいものも。読み物として、パラパラと眺めているだけでもとても面白い!
試しにいくつか作ってみたのですが、そのなかから私のおすすめ2品をご紹介しますね。どちらも、あっという間に出来上がります。
砕き豆腐(佳品)
豆腐と小松菜を炒めてシンプルに味付けしたもの。野菜の種類を変えたり、味付けを塩や味噌にアレンジしたりしても美味しいです。
〈材料(2人分)〉
木綿豆腐…1/2丁
小松菜…2束(豆腐と同じくらいの量)
ごま油…大さじ1/2~1
しょうゆ…小さじ1~2
柚子のみじん切り(または割り山椒)…少々
〈作り方〉
1. 小松菜は、葉と茎ともにみじん切りにする。
2. ごま油を熱し、豆腐を崩しながら炒める。次に小松菜を加えて炒め、醤油を加えて味を調える。
3. お好みで、柚子のみじん切りか割り山椒を加える。
真の八杯豆腐(妙品)
濃い目の汁で豆腐をさっと煮たもの。大根おろしとの相性が良く、さらりと食べることができます。好みで、七味唐辛子や焼きのりなどを加えても美味しい!
〈材料(2人分)〉
絹ごし豆腐…1/2丁
八杯汁…水または出汁大さじ3・酒大さじ1/2・醤油大さじ1/2
おろし大根…適量
*八杯汁とは、水または出汁6・酒1・醤油1で合計八杯にした汁のこと。この割合を守りつつ、好みに応じて分量を調整する。
〈作り方〉
1. 水または出汁と酒を鍋に入れて、火にかける。煮立ったら醤油を加える。
2. 1の鍋に、豆腐を大き目のスプーンなどですくいながら入れる。
3. 豆腐が浮き上がろうとするタイミングで器によそい、おろし大根を乗せる。
豆腐料理でやさしい時間を
消化がよくて疲れた時にも食べやすい豆腐。シンプルかつ身近な食材でありながら、食材との組み合わせや調理法でいろいろな味わいが楽しめるのも魅力のひとつです。
豆腐百珍にもたくさんの料理が紹介されていますが、今回の記事を書いていて、今も昔も豆腐が人々に愛されている理由が何となく分かるような気がしました!
心配なニュースが続く日々ですが、江戸時代のレシピを参考にしながら、豆腐料理を作ってみてはいかがでしょうか。心も身体も満たされる、スローでやさしい時間が待っているかもしれません。
<参考>
・豆腐百珍(著者:福田浩、杉本伸子、松藤庄平/発行所:株式会社新潮社)