コトコトと食材を煮ていると、キッチンに広がってくるいい香りと温かさ。ゆっくりと火が入った料理は身体に染み込む味わいがありますが、その代表的なものと言えばやっぱり「お粥」ではないでしょうか。
5月の連休が終わると、「五月病」という言葉をよく聞くようになります。食欲がわかない、集中できない、ぐっすり眠れないなどの初期症状が出やすいのだとか。特に今年は、新型コロナウィルスによる外出自粛が続いており、普段とは違った心身の疲れを感じている方も多いかもしれません。
お粥はそんな時にもぴったりの料理。消化しやすいだけでなく、身体を内側から温めて心身をやさしく癒してくれます。実際に、お粥にはとても古い歴史があり、先人たちもお粥を食べて健康を保ってきました。
かくいう私自身も、お粥が大好き。もともと胃腸が弱いこともあって、日常的にお粥を食べています。自身の経験からも、手軽かつシンプルに続けられる養生のひとつだなぁと感じています。
そこで今回は、お粥の歴史や効能と一緒に、先人が愛したお粥レシピなどもご紹介したいと思います。ではさっそく進めていきますね。
お粥の歴史
日本でお粥を食べるようになったのは、紀元前1世紀頃と言われています。米が伝わってきたのと同じ時期で、当時は「蒸す」または「煮る」のどちらかの食べ方でした。その後、奈良時代に入ると奈良県を中心にお米をほうじ茶や番茶などで炊いた「茶粥」などが登場。これが西日本の他の地域にも広がっていきます。
ちなみに、お粥を食べる習慣がある国は、日本だけではありません。米を主食としている韓国や中国、タイなどのアジア諸国や、アフリカなどでもお粥が食べられています。なかでも中国では、3000年以上前からお粥を食べてきた歴史があり、野菜だけでシンプルに作るものから、鶏肉や貝柱などの動物性の食材を使った食べ応えのあるものまで、多種多様なお粥があります。
お粥の効能を挙げた「粥有十利(しゅうゆうじり)」
とても古い歴史を持つお粥ですが、その効能は曹洞宗の開祖である道元禅師も注目していたのだとか。著書のなかには「粥有十利」として、10の効能が挙げられています。
1.色(血色を良くする)
2.力(気力が出る)
3.寿(寿命が延びる)
4.楽(身体が楽になる)
5.詞清辯(言葉がなめらかになる)
6.宿食除(胸のつかえが治る)
7.風除(風邪をひかない)
8.飢消(飢えを満たす)
9.渇消(渇きをいやす)
10.大小便調適(便通が良くなる)
これを見ていると、疲れた時や体調の悪い時にお粥が食べたくなる理由や、食べ続けても飽きない理由などがよく分かりますよね。
胃腸が疲れている時には「七草粥」
おそらく、日本全国で多くの方がお粥を食べるのは1月7日の「七草粥」ではないでしょうか。これは正月のごちそうで疲れた胃腸を休ませて、1年の無病息災を願うための習わしであり、平安時代に始まったと言われています。
七草粥に使うのは、せり、なずな、ごぎょう、はこべら、ほとけのざ、すずな、すずしろの7種類で「春の七草」と呼ばれています。「すずな」は蕪、「すずしろ」は大根のことです。
旬の時期しか入手できないものも多いですが、例えば大根は5~6月に収穫される「春大根」などもあり、現在も手に入りやすいですね。そこで、お粥と大根をシンプルに組み合わせて「大根粥」を作ってみるのもいいかもしれません。昔ながらの食養生や薬膳などでは、大根には消化を促進する働きがあるとされており、胃腸が疲れている時におすすめです。
これから旬を迎える大葉やみょうがなどの夏の香味野菜にも、消化を助ける働きが期待されています。炊き立てのお粥に大葉やみょうがなどを添えるのも、よい香りが食欲を高めてくれますよ。
新月や満月の時には「小豆粥」
七草粥ほどまでは浸透していないようですが、1月15日の小正月に「小豆粥」を食べて一年の邪気を払うという風習もあります。これは「小豆の赤い色が邪気を払う」と信じられてきたことに由来しているのだとか。
お粥ではありませんが、昔から日本には新月と満月の日(旧暦の1日と15日)に小豆ごはんを食べる習慣がありました。「小豆の赤色は命のシンボル」とも考えられており、小豆を食べることで気力を養っていたと言われています。
食養生や薬膳では、小豆は体内の毒素を排出し、ホルモンバランスを整える食材とされています。つまり、昔の人たちは小豆を定期的に食べることで、身体の内側から美しさを保っていたのかもしれません。
実はこの習慣にならって、我が家でも小豆ごはんや小豆粥を定期的に食べています。自然な甘さと風味があり、あんこやお赤飯とも少し違った素朴な味わいを楽しんでいます。ご参考までに、小豆粥のレシピをご紹介しますね。
〈材料〉2人分
・米 1/2合
・茹で小豆(*) 1/4カップ
・小豆のゆで汁&水 合わせて3カップ
・自然塩、すりごま 各適量
〈作り方〉
1. 研いだ米と固めに茹でた小豆、小豆のゆで汁、水を鍋に入れて、火にかける。
2. 沸騰したら弱火にする。蓋をして、吹きこぼれないように気を付けながら、コトコトと40分程度煮る。木べらなどで時々かき混ぜる(混ぜすぎると粘りがでてしまうので注意)。
3.器に盛りつけて、好みで塩やすりごまを振っていただく。
*茹で小豆の作り方
固めに茹でた小豆を用意しておくと、小豆粥だけでなく、小豆ごはんや「小豆と南瓜のいとこ煮」などの小豆料理を作るときにとても重宝します。ポイントは、(料理に使う際に再び加熱するので)固めに茹でておくこと。 我が家ではまとめて作って、冷凍庫に常備しています。
〈材料〉作りやすい分量
・小豆 1袋
〈作り方〉
1. 小豆はさっと洗い、鍋に入れる。たっぷりの水を加えて、火にかける。沸騰したら弱火にして数分間にて火をとめる。この時の煮汁は捨てる(*茹でこぼし)。
2. 水を切った1の小豆を再び鍋に入れる。小豆がしっかり浸かる程度の水を加えて、蓋をして火にかける。沸騰したら弱火にして、20~30分煮る。味を見て、固さが少しだけ残っているが、美味しく食べられる状態になれば、できあがり。
*無農薬の小豆を使用する場合や、渋味などが気にならない場合などは、1の茹でこぼしの工程は省略してもOK。
石田三成が最後に食べた「ニラ雑炊」
最後は、元気を付けたい時におすすめの料理です。先にご紹介した2つはお米から炊く「お粥」でしたが、今回は冷やごはんを使った「雑炊」。厳密に言えばお粥ではないのでここで取り上げるかどうかを迷いましたが、とても手軽に作れて、何しろ元気が湧いてくるのでぜひ紹介したいと思います!
前置きが長くなりましたが、関ケ原の合戦の後に捉えられた際に、石田三成が最後に食べたと言われる「ニラ雑炊」をご存知でしょうか。「ニラ」と言えば、免疫力を高めてスタミナを付ける野菜のひとつ。胃腸が弱かったとされる石田三成は、最後まで食に気を配っていたようです。さすがですよね。戦国武将の強さの秘訣とも言えそうです。
では、ニラ雑炊を作ってみましょう。今回は食べ応えのある一品になるように、ニラの他に「卵」を使っています(薬膳では、卵には「元気を付ける」「気持ちを落ち着ける」という効果が期待されており、ニラとの相性も良い食材です)。
〈材料〉2人分
・ごはん 茶碗に軽く2杯
・ニラ 10本程度
・卵1個
・出汁 2カップ
・味噌 適量
〈作り方〉
1.ニラは長さ2~3㎝に刻む。卵は割りほぐしておく。
2.鍋に出汁を入れて火にかける。沸騰したら弱火にして、ごはんを入れて加熱する。
3.1の卵液を少しずつ入れて、最後に刻んだニラを加える。一煮立ちすれば、できあがり。
器に盛りつけ、味噌を溶かしながらいただく。
先人も愛したお粥で、気楽に養生しよう
古くから人々に愛されてきたお粥。「コトコトと煮るだけ」のシンプルな料理でありながら、身体に染み込む深い味わいがあります。
ちょっと疲れたなぁという時にも、健康をキープしたいという時にも。
先人の暮らしに思いを馳せながら、お粥をゆっくりと味わってみてはいかがでしょうか。