日本の原風景を見る豊饒な土地で、今もあたりまえのように神々と共に暮らす
天孫降臨(てんそんこうりん)の地として、八百万の神々の気配をそこここに残す高千穂。乱れた地上界を治めるため、天照大御神(あまてらすおおみかみ)の孫・瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)が地上に降りたのがここ高千穂といわれています。また、洞窟に籠って世界を闇にした天照大御神の岩戸開き伝説をはじめ、幾多の神話が住民による夜神楽によって語り、舞い継がれる土地です。
九州脊梁(せきりょう)山地の中央に位置する高千穂を訪れて感じるのは、神話のふるさとというキャッチフレーズが決して観光用だけのものではないということ。たとえば、民家や商店の軒先に必ず見る小さな注連縄。岩戸開きの際、姿をあらわした天照大御神が戻れないよう、洞窟の入り口に張った結界を意味する縄がはじまりともいわれ、高千穂ではどの軒先にも一年中張られているのだとか。あるいは、ここで暮らす人々の口から語られる「神さん」という呼び方。特別な存在ではあるけれど、共に生きているという近しさを感じます。
そんな高千穂には、古事記、日本書紀に描かれた神々を祀る古社をはじめ、大小約500もの神社が鎮座。そのいくつかを車で巡っていると、車窓からの眺めがまさに日本の原風景であることに気づくはずです。傾斜地に整えられた棚田や段々畑。あぜ道に咲く草花。山は豊かな緑と水をたたえ、天は高い。こんな景色のなかで生活をしたことがなくても、故郷に帰ったかのような懐かしく親しい心持ちになるのは、やはり高千穂が神話のふるさとであり、日本という国のはじまりだからなのでしょう。遠方からのアクセスは熊本空港を利用するのが便利。空港からバスで2時間の高千穂バスセンターを拠点に、バスを乗り継いでのんびりとした高千穂時間の流れに倣ったり、効率よくタクシーで巡ったり。人とも神とも、多くの触れ合いが待っています。
天岩戸(あまのいわと)神社
天岩戸神話の舞台とされる洞窟をご神体とする神社。天戸川越しに遥拝する断崖の岩窟は鬱蒼(うっそう)と茂る草木の奥にあり、その姿を容易に人目にさらさない。玉砂利を踏み鳴らしながら参道を戻ると、鳥居に掛かる稲藁(いねわら)でできた素朴な注連縄(しめなわ)の向こうから、雲を透かす陽光が注いでいた。
天安河原(あまのやすがわら)
天岩戸神社から県道に出て、土産物屋などを眺めつつ案内板を河原へと下る。木漏れ日と清流のサウンドを浴びながら上流へ歩くと、間口30mの大洞窟が。そこで目にするのは、地面といわず崖の窪みといわず、大小無数の積み石。八百万の神が集った場所であるだけに、さまざまな祈願が集まる。
高千穂峡
溶岩が急激に冷え固まってできた柱状節理で形成される、独特の景色で知られる高千穂峡。そのシンボルがこの真名井(まない)の滝。天孫降臨時に水がなかったこの地のため、天村雲命(あめのむらくものみこと)が水種(みずだね)を移した天真名井(あめのまない)の水が滝となったとか。ボートに乗り、マイナスイオンを浴びながら見上げる渓谷美は圧巻。