ニッポンの残したい美
『折詰』
ごく限られた空間に、見映えよく、かつ隙間なく詰められた様を愛でる感性は日本人特有のものかもしれません。折箱にものがぴっちりと詰まった姿は「晴れがましい」のひと言。色も形もそれぞれ異なる素材をひと息に盛り込む折詰弁当は、私たちの目を楽しませてくれる最たるものです。
折詰弁当には心が躍る瞬間が何度も訪れます。お弁当を受け取ったときの手にかかる重み。折箱にきゅっと結ばれたひもをほどき、風雅な掛け紙に出合ったとき。何より、ごはんと10を超える品数が織りなす美しい景色をしげしげと眺める時間は、この上なく幸せを感じるひとときです。
丁寧な仕事が伝わる折詰弁当が評判を呼ぶ「菱岩(ひしいわ)」のご主人・川村岩松さんによると、弁当は「信号の赤・青・黄色に白と黒の5色が基本」とのこと。白は白飯、黒は醬油の色だそうで、ふたを開けた瞬間に目に飛び込んでくる美味しいサインにはこんな心がけがありました。
端正につくられた折詰弁当は、日本料理に携わるつくり手たちの技の結晶です。詰め方ひとつにも職人の技が必要であり、折箱にひとつの季節を描こうとする「絵心」がなくては、そこに美は宿りません。つくり続けることでしか伝えられないのが手わざ。今どき、杉折のお弁当を贅沢といってしまえばそれまでですが、この価値を残していくかは私たちにかかっています。