江戸時代の景色が残る、1泊2日瀬戸内の旅
岩国・宮島・鞆の浦
奇跡の橋といわれる岩国(いわくに)の錦帯橋(きんたいきょう)、海上の世界遺産嚴島神社(いつくしまじんじゃ)、そして断崖に建つ阿伏莵(あぶと)観音堂。広重が『六十余州名所図会』に描いたこの景勝地は、今も江戸時代と変わらない姿で迎えてくれます。では、広重目線で楽しむ瀬戸内の旅へと出かけましょう。
一、 錦帯橋(きんたいきょう)
写真提供岩国徴古館。歌川広重『六十余州名所図会 周防 岩国錦帯橋』大判錦絵 嘉永6(1853)年岩国徴古館蔵 広重お得意の鳥瞰図的構図で描かれた錦帯橋。広重の描いたこの橋は、昭和25(1950)年に流失するまで存在した。
錦川と錦帯橋
歌川広重晩年の傑作『六十余州名所図会』には全国68か所の名所が描かれています。その名作の地を訪ねる旅として和樂が選んだのが、瀬戸内沿岸の岩国、宮島(みやじま)、鞆の浦(とものうら)。ここには広重が描いた名所(広重は実際には足を運んでいないけれど)が3つも集中しており、しかも世界遺産あり、国宝あり、美味ありで、和を楽しむ充実の旅が可能な場所だからです。ということで、早速東京からの「広重浮世絵の名舞台を巡る1泊2日弾丸ツアー」のスタートです。
岩国藩主に献上した岩国寿司の味を守る三原家の大名セット。山口県岩国市岩国2-16-6 11時半~13時半(要予約)不定休
まず東京駅を8時すぎの新幹線で出発。在来線、路線バスを乗り継ぐと14時前には最初の広重名作ポイント、山口県岩国市の「錦帯橋」に到着。江戸時代初期につくられた錦帯橋は、昭和25(1950)年の台風で流失したとはいえ、ほぼ完璧な形で復元されていますので、まずは日本三大奇橋のフォルムを堪能しつつ歩いて渡り、さらには下にまわって見事な木組みも観賞しましょう。
その後はロープウエーで岩国城に登り、山腹から錦帯橋の全形をチェック。途中「岩国徴古館(いわくにちょうこかん)」も必見。広重の浮世絵に出合えます。
写真提供岩国徴古館。岩国徴古館の貴重な収蔵品。山口県岩国市横山2-7-19 月曜・年末年始・展示替え期間休館
岩国出身の作家、宇野千代(うのちよ)の生家(せいか)にも足をのばしたら、今夜の宿泊地であり、次なる広重浮世絵ポイントである安芸の宮島を目ざして、JR山陽線にて16時すぎに岩国を出発。
資料館として公開されている宇野千代生家に残された文机。山口県岩国市川西2-9-35 火曜休館
フェリーを乗り継いで17時には宮島の名旅館「岩惣(いわそう)」に到着です。
名旅館、宮島の「岩惣」離れには多くの著名人も宿泊。広島県廿日市市宮島町もみじ谷
風光明媚なもみじ谷の自然の中に点在する数寄屋風の離れには、吉川英治など数多の著名人が宿泊しました。広重の名作ふたつ目の厳島神社大鳥居は、旧暦6月17日(今年は8月1日)に行けば、広重が描いたのと同じ、幻想的な管絃祭(かんげんさい)の風景とともにみられます。
【左】早朝の宮島の町並み。【右】宮島土産には杓子を。
二、嚴島神社大鳥居(いつくしまじんじゃおおとりい)
写真提供 アフロ 歌川広重『六十余州名所図会 安藝嚴島祭礼之図(あきいつくしまさいれいのず)』大判錦絵 嘉永6(1853)年 岩国徴古館蔵『六十余州名所図会』で初めて本格的に採用した「竪絵(縦長画面の浮世絵)」の効果を最大限に活かした作。嚴島神社に今も伝わる祭礼「管絃祭(かんげんさい)」(今年は8月1日)の日の大鳥居を描いた。
三、阿伏兎岬(あぶとみさき)
写真提供 アフロ 歌川広重『六十余州名所図会 備後阿武門観音堂(びんごあぶとかんのんどう)』大判錦絵 嘉永6(1853)年 岩国徴古館蔵 古来潮待ち(しおまち)の港として栄えた広島県福山市の鞆の浦(とものうら)からさらに海岸を進んだ岬に位置する般若寺(はんにゃじ)観音堂【通称阿伏莵観音堂(あぶとかんのんどう)】。広重による見事なデフォルメで奇岩が強調され、より旅情を誘う。
ふつか目は、世界遺産の嚴島神社参拝から。国宝の立派な社殿をじっくり観賞しましょう。朝6時半から参拝可能ですから朝食前の参拝がおすすめ。
世界遺産の厳島神社。回廊、本殿等6棟が国宝。広島県廿日市市宮島町1-1 6時半~18時(時季によって異なる)
見所満載の宮島ですが、野生の鹿に後ろ髪を引かれつつ、「しか」たないとばかりに11時ごろのフェリーで島を後に。対岸で、絶品のお弁当「あなごめし うえの」の穴子飯弁当を買ってJRに乗り込み、広島駅で新幹線に乗り換えて広島県福山市へ。
「あなごめし うえの」の穴子飯は、焼き穴子の香ばしさとたれが絶妙なおいしさ。広島県廿日市市宮島口1-5-11
新幹線車中では穴子飯と酒所広島西条の銘酒をぐいっと。
福山駅には13時前に到着。路線バスに乗り換え、坂本龍馬も立ち寄ったという歴史ある港町=鞆の浦へ。かつては時代劇のロケ地として多用されたというだけあって、江戸時代さながらの風景が今も残ります。
江戸時代の風景を残す鞆の浦の町並み。
最後の広重名作スポット「阿伏莵観音堂」へはタクシーで。瀬戸内の美しくも穏やかな海を背景に、広重が独特のデフォルメ手法で描いた観音堂と、今の観音堂を比較して眺めたら、鞆の町にとって返して、幕末の志士たちも飲んだという保命酒(ほうめいしゅ)をお土産に買って福山駅へ。19時前ののぞみに乗れば、22時半ごろ東京駅到着です。
鞆の浦の土産には、鞆酒造の薬味酒「保命酒」を。
朝鮮使節の迎賓館としても使用された対潮楼(福禅寺客殿)。ここからの瀬戸内の眺めは絶景。