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2017.07.31

美学を貫いた映画監督・小津安二郎が選んだ静かな山中の隠遁地『鎌倉』

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小津安二郎の山ノ内を歩く

スクリーンショット 2017-07-20 18.37.29北鎌倉・浄智寺の近くにある小さなトンネル越しに、隠れ里のような風景が見える。このあたりには、映画監督の小津安二郎が母堂とふたりで住んでいた。

JR北鎌倉駅の周辺を山ノ内と呼びます。鎌倉五山第一位の建長寺や第二位の円覚寺、駆け込み寺の東慶寺、アジサイで知られる明月院、静かな浄智寺など、大小様々なお寺が集まっています。お寺は、北へ向かう鎌倉街道を参道の入り口にして、東西の山に向かって谷戸や川を入っていくかたちで並んでいます。

スクリーンショット 2017-07-20 18.37.10浄智寺の中国風鐘楼門を見上げる。鎌倉五山の第四位で、澁澤龍彥など文士の墓も多い。

北鎌倉駅を出るとすぐに白鷺池が見えます。明治時代に横須賀線を円覚寺の境内に通したために、飛び地になっているのです。このお寺では夏目漱石が参禅したこともあり、土日坐禅会が開かれています。山門の様子は漱石の小説『門』に描かれています。隣合うようにして立つ建長寺は、国内最古の禅宗寺院。巨大な三門が迎えてくれます。禅寺の飾り気のない建築と直線的な伽藍の配置は、街のイメージをもつくっているようです。
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『麦秋』『東京物語』などで知られる映画監督・小津安二郎は、昭和27(1952)年、母あさゑと一緒に山ノ内に移り住みました。俳優が着る服はもちろん、食器や家具、壁の絵まで本物を求め、劇中に出てくるとんかつも、上野にあるお気に入りの店から取り寄せた小津。自宅にあるのも趣味に合ったものばかり。それらを撮影に使うためにスタッフが取りに行かされました。

鎌倉では作家とさかんに交流しました。里見弴ともつきあいがあり、佐田啓二(中井貴一の父)や岡田茉莉子らの俳優と一緒に里見邸のパーティに参加して、里見弴と一緒に庭で楽しそうにお酒を飲んでいる写真が残っています。有名人たちが周囲の目を気にせずにくつろげたのも、東京から距離のある鎌倉だからなのでしょう。
スクリーンショット 2017-07-20 18.36.47東慶寺のシャガの群生に隠れた野仏。

小津の撮影現場では四方を東京、山、鎌倉、大船と呼ぶ習慣がありました。実際の位置関係を考えると、東西南北の順になるのでしょうか。卓の上の食器を動かすのにも、カメラをのぞきながら「もう少し鎌倉に」「大船に」と指示していたそう。なだらかな六国見山を目の前にして、山の稜線を見て暮らしていた小津の目線が感じられるようです。

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