岩手県には鍾乳洞が数多くあります。
鍾乳洞とは、石灰岩の割れ目から雨が入って溶解・侵食されることでできた洞窟のことで、鍾乳洞から湧き出した水によってできた湖を地底湖といいます。
中でも、岩泉町にある「龍泉洞」は日本三大鍾乳洞の一つとして知られています。
芸術作品のようなさまざまな造形の鍾乳石、どこまでも澄んだ美しいブルーの地底湖は、一見の価値ありといえるでしょう。
そんな憧れの龍泉洞を初めて訪れてみた私のレポートを通して鍾乳洞の魅力についてお伝えしたいと思います。
この夏は東北へ足を延ばし、涼しい鍾乳洞で自然のアートを楽しんでみませんか。
龍泉洞に行ってみました
龍泉洞は、山口県の「秋芳洞」、高知県の「龍河洞」と並び、日本三大鍾乳洞の一つです。岩手県盛岡市から東へ車で110分ほどのところにあります。
鍾乳洞のさまざまな造形と、深く澄んだブルーの地底湖が特徴で、昭和13年に「岩泉湧窟及びコウモリ」が史跡名勝天然記念物に指定されました。
現在公開されている龍泉洞のルートは、全長のほんの一部である700mです。
今も調査が続けられていて、確認されているだけで長さは3,600mもあり、全長は5,000m以上あるのではないかと推定されています。
いざ洞内へ!
7月半ば、初めての龍泉洞に岩手県沿岸部に住み始めて2年目の私は興味津々でやって来ました。
この日の岩泉町の天気は曇り。外気も20度前後とけっして暑くはありませんでしたが、龍泉洞の洞穴に入ったとたん、ひんやりした空気に包まれました。長袖の厚めの上着を着ていても寒いくらいです。
入口からしばらくは「百間廊下」と呼ばれるまっすぐな道が続き、だんだん道幅が狭くなっていきます。
洞内の鍾乳石は、直径10cm、長さ1mくらいのもので、だいたい5,000年の時間がかかってできたものだとか。丸みを帯び、とろんとした質感の鍾乳石は人物の彫像を思い起こさせるものや、龍の頭のような「龍の淵」、落盤でできた「亀岩」など、自然の造形の面白さを伝えるものばかり。
少し広い場所に出ると、そこは「月宮殿」という名前が。洞内の鍾乳石が月の世界を思わせることから名付けられたそうです。
鍾乳石の造形を、女性の横顔を描いた絵に見立て、その絵を鍾乳石の前に置き、「洞穴のビーナス」と名付けている場所も。
龍泉洞にはウサギコウモリをはじめとした5種類のコウモリが生息しています。
ひとつの洞内に5種類ものコウモリが生息していることは、日本でも珍しいことだそうです。
夜行性であるコウモリは、基本的に日中はあまり現れませんが、この日は遠くにコウモリが2匹見えたような気がしました。
お子さん連れの場合は、一緒にコウモリを探してみるのも楽しいかもしれませんね。ただし、くれぐれも足元には注意してください。
しばらく狭い洞内を歩き、少し急な階段を上ったりして、冒険感が高まってきたところで、美しい地底湖が現れました。
青い光をあてているような地底湖の色は、透明度が高いから青く見えるのだそうで、実際に見るとその透明度に本当に驚かされます。
観光コースの最終地点である第三地底湖は、最も水深が深く、なんと98m! そんな深いところにあるとは思えないほど、水底がすぐ手の届きそうなところにゆらゆらと美しく光っていました。
時間を忘れて見とれてしまう美しさ、そして、独特の深い静けさに、怖いような、どこか懐かしいような不思議な感情がわいてきて、自然のつくり出す神秘に思わず畏敬の念を抱かずにはいられませんでした。
地底湖の余韻に浸っているうちに出口が現れます。
夏の観光シーズンの間は安全のため一方通行になる出口のそばの通路には、木製の貯蔵庫があります。
ここは岩泉町の山ぶどうを使用してつくられたワイン「宇霊羅(うれいら)」が出荷までの間、貯蔵、熟成されているところ。詳しいことは後述の「おすすめのお土産」をご覧ください。
鍾乳洞って何だろう
観光でいくつか鍾乳洞には行ったことがある、という方も多いと思います。では、鍾乳洞っていったいなに? と聞かれると答えられないですよね。
鍾乳洞は、石灰洞ともいい、石灰岩地域の地下に地下水の溶食によってできた洞穴のことです。
石灰岩地域に降った雨は地下水として流動することで、地中に迷路状の洞穴をつくります。それと同時に、石灰岩の主成分である炭酸カルシウムが、炭酸ガスを含む地下水と可逆反応をおこし、可溶性の重炭酸カルシウムを生成します。
この反応によって石灰岩が溶けて洞穴ができると、天井からにじみ出てくる重炭酸カルシウムの溶液が洞中に水滴となって落下し、炭酸カルシウムの結晶となります。
これが長年の間に天井からツララ状に成長して鍾乳石をつくったり、水滴の落下する洞床上にはタケノコ状の石筍(せきじゅん)をつくります。鍾乳石とこの石筍で柱状の石灰柱を形成することもあります。
龍泉洞の地底湖はなぜ青いのか
地底湖とは、鍾乳洞から湧き出した水によってできた湖です。これまでに確認されている龍泉洞の地底湖は8つで、現在はそのうちの3つが公開されています。
この龍泉洞の地底湖は、北に広がる森林地帯から集まったもので、水深120m、透明度は41.5mで、洞内湖では世界一の透明度といわれています。
水は透明度が高いと、光の青がよく見えるようになるそうです。空気は透明なのに空がなぜ青いのか、というのと同じで、それほど透明度が高いということがわかるのです。
「龍泉新洞科学館」も必見
龍泉洞の前を流れる清水川を挟んだところに、「龍泉新洞科学館」があります。
科学館と聞くと思わず四角い建物を思い浮かべますが、これは洞窟をそのまま科学館にした世界で初めての自然洞穴科学館です。
後から発見されたことから龍泉新洞と名付けられましたが、かつては龍泉洞とひと続きの洞穴でした。
この洞穴は、鍾乳洞がよく発達し、水流の痕跡なども残っていて学術的に貴重なものとして公開されました。龍泉洞内以上に道が狭く急な場所もあるため、少しびっくりするかもしれません。
通行可能なルートは龍泉洞より短いのですが、ここではかつて土器や石器なども発掘されました。縄文の昔、天然の住居として洞内に人が暮らしていた様子を再現したものもあります。
龍泉洞が育んだ美味
龍泉洞と聞き、「水」を思い浮かべる岩手ツウの方もいらっしゃるかもしれません。
岩泉町の龍泉洞周辺の地域で水道をひねると出てくる「龍泉洞の水」は、商品としても岩泉周辺や、岩手県内の多くの場所で販売されています。
参考:龍泉洞の水
「日本の名水百選」の「龍泉洞の水」は、周辺地域の水道をひねると出てきます。また、地底湖から汲み上げて濾過を繰り返した水は、カルシウムなどを豊富に含む軟水で、ナチュラルミネラルウォーターとして都内などにも出荷されています。
龍泉洞の地底湖から湧き出した水が流れる清水川。この水もよく澄んで川底がはっきりと見えるほどで、イワナやヤマメなどの川魚が豊富に捕れるため、釣り客でもにぎわっています。
龍泉洞探検の後、園内の売店で売られていた焼き立てのイワナを食べたら、新鮮で身がやわらかい絶品でした!
他にも岩泉近隣で採れた山菜などの名産品や近くの牧場のアイスクリームなど、美味しいものにもこと欠きません。
おすすめのお土産
有名な龍泉洞の水を使ったものの中から、おすすめしたいのがこの3つ。
1.宇霊羅ワイン
温度が一定の龍泉洞内「天然のワインセラー」で熟成された発泡性の赤ワイン。龍泉洞を育んだ「宇霊羅山」から名前を取り、岩泉町内の山ぶどう100%を使用し、町内での限定販売。ヤマブドウをそのまま口に含んだような豊かな甘みと、微炭酸の刺激のバランスが抜群。
2.岩泉ヨーグルト
添加物を一切使わない低温長時間発酵のヨーグルト。もちもちの食感はやみつきになること間違いなし。
3.龍泉洞ビール
弱アルカリ性の龍泉洞の地底湖水はビール酵母との相性が良く、柔らかくあっさりとした喉越しは夏にぴったり。
龍泉洞へのアクセスと宿泊施設
アクセス
住所:〒027-0501岩手県下閉伊郡岩泉町岩泉字神成1番地1
・盛岡市から車で約110分
・宮古市から車で約60分
盛岡市、宮古市いずれからも、公共バスが運行しています。
参考:龍泉洞アクセス
宿泊
龍泉洞温泉ホテル
龍泉洞へは徒歩 10分と、アクセス抜群のホテル。浴槽に備長炭を使用した珍しい貸切風呂も好評。龍泉洞までの遊歩道をぜひ歩いてみたい。
ホテル龍泉洞「愛山」
龍泉洞から車で5分。肌当たりの柔らかいお風呂、季節ごとの海鮮や山菜を使った心のこもった料理も人気だそう。
浄土ヶ浜パークホテル
宮古市へ足を延ばして三陸の恵みを味わう旅ならここがおすすめ。名勝・浄土ヶ浜もすぐ目の前です。
もうひとつ、おすすめの鍾乳洞「安家洞」
龍泉洞から車で20分ほどの距離に、「安家洞」という日本最長で最古といわれる、国指定天然記念物の鍾乳洞があります。
龍泉洞とはまた違う地底の造形、あらゆる形の鍾乳石が楽しめるので、鍾乳洞巡りをしてみてもいいかもしれません。
岩泉町「安家洞」
なお、鍾乳洞の中は年間を通して10℃くらいの気温です。
水滴が垂れてきたり、コウモリが頭上を飛ぶことがあるかもしれません。ですから、少し濡れたり汚れたりしても大丈夫、という上着を持って行くことをおすすめします。
この夏、いつもと違う旅をしてみたいという方は、ぜひ岩手の鍾乳洞を候補に加えてみてくださいね。
参考:岩泉町・龍泉洞Webサイト、小学館 「日本大百科全書(ニッポニカ)」