川端康成、島崎藤村も心奪われた!145年の歴史を刻む登録有形文化財の宿「おちあいろう」

川端康成、島崎藤村も心奪われた!145年の歴史を刻む登録有形文化財の宿「おちあいろう」

伊豆半島の中央に位置し、古くから湯治場として多くの人を癒やしてきた、湯ヶ島温泉。周辺には、「浄蓮の滝」や蛍の名所「世古峡」があり、川端康成が「伊豆の踊子」を執筆した地としても有名です。そんな緑豊かな自然と歴史ロマンの残る湯ヶ島の地に明治7年創業、登録有形文化財の宿「おちあいろう」があります。

本谷川と猫越川が合流する美しい風景

創業当時「眠雲楼(みんうんろう)」という名だった宿は、明治14年に「落合楼(おちあいろう)」に改名。名付け親は、江戸城無血開城の立役者であり、この宿を定宿としていた山岡鉄舟(やまおかてっしゅう)です。本谷川(ほんたにがわ)と猫越川(ねっこがわ)が合流する狩野川(かのがわ)の畔に位置し、“川が落ち合うこと”からその名がつけられました。

玄関を含む7棟が国の登録有形文化財として登録されている

明治から昭和にかけては、島崎藤村、川端康成、北原白秋などの名だたる文人墨客が訪れ、その美しい景観に心奪われたと伝えられています。

まだ駆け出しの書生だった川端康成は、湯ヶ島を訪れた際、「落合楼」の宿泊代に手が届かなかったものの、旅館をたいへん気に入り、毎日のように訪れたていたとか……。

川端康成が気に入り、梶井基次郎とも訪れたと伝えられる吊橋

145年の歴史を刻む名建築は、現在にも受け継がれ、令和元年の秋には、ホテルやレストランを世界に展開するPlan・Do・See Incの監修により、リニューアル。旅館の風情やおもてなしの心はそのままに、現在のニーズに合わせ、共有スペースや客室がより過ごしやすい空間に進化しています。

緑に囲まれた3500坪の広大な敷地に、客室はわずか16室のみ。古き良き時代の面影に包まれた、登録有形文化財の宿「おちあいろう」とはどのようなものか。本記事では、温泉を愛してやまない和樂webライターの矢野詩織が「おちあいろう」に宿泊し、その魅力をご紹介します。

金山で財を成した一族が築いた宿

ほっと一息つけるラウンジ。四季折々の風景を眺めながら、フリードリンクコーナーで挽きたてのコーヒーやワイン、地ビールなど楽しむことができる

今回、快く取材を受けてくれたのは、主人の村上昇男(むらかみのりお)さん、(以下、村上さん)。リニューアルする2019年まで「落合楼村上」のオーナーとして16年間、女将である奥様と一緒に宿を切り盛りしてきた方です。村上さんの素敵な笑顔と優しい人柄に緊張がほぐれ、歴史の面影が残るラウンジでお話を伺いました。

婚礼や特別なお祝いの席で利用できる「紫壇の間」。国の登録有形文化財であり、108畳の広さを誇る。装飾が施された柱は、台湾の希少な本紫檀。この太さになるまで約2000年かかるそう

「同宿は、伊豆の三大金山である持越鉱山のオーナー、足立三敏(あだちみつとし)氏が金山事業の関係者や要人、客人をもてなすのため、迎賓館のような役割でここを建てたのが始まりです。湯ヶ島と聞くと温泉というイメージが強いと思いますが、実は、金山として栄えていたんですよ。」と村上さん。

土肥金山を中心に江戸時代から昭和にかけて、金、銀の採掘場であった伊豆。この地で働く労働者や天城越えの旅人を癒やしたのも湯ヶ島の温泉だったそう。

そして、昭和7年頃に足立家は金山の権利を売却。その資産を投じて、昭和8~12年にかけて宿の大改装が行われ、その建物が現在、国の有形文化財に登録されています。

文化財に登録されている「配膳室階段棟」。X字状に交差した階段は、配膳係と宿泊客が会わないように作られている。天井は、稀少な屋久杉の木材を使用。鶉目杢(うずらもく)と呼ばれる模様が美しい

「昭和7年というと昭和恐慌後で不景気な時代。そのような中、伊豆の人々に仕事を与え、地域を潤したいと創業者にはそのような想いがあったんだと思います。そのため、仕事を与えられた職人たちは、その恩を感じながら宿の改装を行なったのではないでしょうか。」と村上さん。

廊下や客室の入り口には、職人たちの技が光る美しい装飾が施されている

伊豆の地には、船大工上がりの腕の良い宮大工が多くおり、職人たちにとって宿の改装は、腕の見せ場だったそう。館内を巡れば、窓、廊下、柱など細部に職人たちの創意工夫を見ることができます。それらが、宿に情熱を注いだ人々の想いを物語っているようでした。

洗い出しの塗り壁が印象的な「応接棟」。紅柄を用いた鉄製の屋根瓦は戦時中も供出されず守られてきた

村上さんによる貴重なお話は、毎日、朝10時と夕方5時に開催される「見学ツアー」で聞くことができます。宿の歴史が学べることはもちろん、有形文化財に泊まる価値が高まる機会なので宿泊した際は、ぜひ、参加してみてください。

一度は泊まってみたい!憧れの客室

各部屋は源氏物語の巻名にちなんだ名がつけられている

文豪気分で建物をじっくり散策したら、お部屋で一休み。今回滞在したのは、眠雲亭にある「浮舟 露天風呂付」です。

前室、本間、ベッドルーム、パウダールーム、シャワールーム、露天風呂付きで約74平米という、スイート仕様のお部屋

すべての客室が庭に面しているので、季節の移り変わりを楽しむことができる

歴史の深みを感じる広々とした部屋では、誰にも気兼ねせず、静かな時間を過ごすことができます。コーヒー片手にぼんやりと外を眺める時間さえ贅沢でした。

文豪も癒やされた湯ヶ島の温泉と絶景露天風呂

金山の採掘場をイメージして作られた洞窟風呂が人気の「天狗の湯」

湯ヶ島ならではの源泉かけ流しの温泉も宿の魅力。男女入れ替え制の大浴場は、柔らかな木漏れ日がさす源泉掛け流しの内風呂「月の湯」、伊豆の山々と狩野川を眺望できる露天風呂と湯けむりに包まれた洞窟風呂が人気の「天狗の湯」2種が楽しめます。無色透明で優しい肌触りの温泉に浸かれば、川のせせらぎや野鳥の声も心地よいBGMに……。

温泉由来のロウリュでリフレッシュ!至極のサウナ体験

全国のサウナをランキングにした「SAUNACHELIN 2019(サウナシュラン 2019)」に選出された「茶室サウナ」

さらにリニューアルで進化した大浴場には、プロサウナー松尾大氏プロデュースの個性的なサウナを併設。茶釜にお湯を注ぐ感覚でロウリュが楽しめる「茶室サウナ」、岩から温泉が湧き出し温泉由来のロウリュを体験できる「洞窟サウナ」の2種が用意されています。

2020年3月に「天狗の湯」に新設された「洞窟サウナ」

村上さんいわく、このサウナを目当てに宿泊されるお客様も多いとか。実際に体験すると、効能や使い勝手はもちろん、伊豆の自然を一望できる、まさに至極のサウナでした。村上さんの言葉に納得です。

地元食材を使った季節の料理と地酒を堪能

季節を感じる美しい盛り付けの料理

朝・夕の食事は、伊豆の山々を一望できる個室のお食事処で。食事は配膳してくれるスタイルで、地元産の魚、野菜など旬の味覚を使ったセンスの良い料理をコースで堪能しました。

土地のパワーを感じるジビエ料理も

夕食では、天城で捕れた鹿や猪を使った珍しいジビエ料理もあり、この土地でしか味わえない自然の味覚を体験。

宿泊費に食事代、ドリンク代などがすべて含まれるサービス「オールインクルーシブ」を起用しているので、ソフトドリンクもちろん、ワインや日本酒などのアルコール類も自分の好きなタイミングで頼めます。

せっかくなので、料理に合わせて伊豆のワイン、地酒の飲み比べセットをお願いし、マリアージュを。コースが終わる頃には、ほろ酔い気分でこの上なく幸せな気持ちになりました。

長い歴史の中で守られてきた伝統と時代に合わせたサービスのバランスが見事にマッチした「おちあいろう」。温かいおもてなしの心に触れ、素晴らしい滞在が叶いました。ぜひ、週末は、有形文化財の宿「おちあいろう」で唯一無二の時間を過ごしてみてください。

おちあいろうの概要

所在地:静岡県伊豆市湯ヶ島1887-1
客室料金:料金¥52,000円~¥112,000円(オールインクルーシブ)
※表記料金はいずれも2名様1室ご利用時、1泊2食付1名様料金です。
https://www.ochiairo.co.jp

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