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鎌を模した餅に込めた豊作祈願
大黒屋鎌餅本舗の「鎌餅」京都
鎌の刃に豊作を託してつくられた「鎌餅(かまもち)」の原型は、明治30(1897)年に「大黒屋(だいこくや)鎌餅本舗」が創業するよりもずっと前に、鞍馬口(くらまぐち)の茶店で売られていたものだとか。
一度途絶えてしまったものを復活させたのがこの店の初代主人。鎌を手に稲刈りに勤(いそ)しむ人々の姿を描いた掛け紙の絵は富岡鉄斎(とみおかてっさい)の門下・本田蔭軒(ほんだいんけん)によるものです。
店は相国寺(しょうこくじ)を始め多数の寺が立ち並ぶ場所にあり、戦前、本田蔭軒が寺町(てらまち)の阿弥陀寺(あみだじ)に身を寄せている間に描き下ろしてこの絵が完成しました。
真っ白な餅をエゾマツの経木(きょうぎ)で包むという清々しさ。豊作を願い、福を取り込む気持ちを託すところに日本人の素朴で慎ましいこころを感じます。
今はひとりでその味を守っているのが3代目となる山田充哉(みつや)さん。あんを炊く日は、朝の8時から夜の8時ごろまで、つきっきりの大仕事です。「鎌餅」に使われるのはこしあん。炊き上げる際に黒糖を少し加えて甘みにコクを出します。味が勝ちすぎず、しかし香りは高く、その絶妙な塩梅(あんばい)で、舌の上でさらりと消えていく品のいいあんが完成。それを弱火で温めた餅で包んでいきます。
「冷えたらのびないし、無理にのばしたらあんの蜜が出てしまう。生地が温かいうちにできるのはせいぜい10 個までです」
指の腹でいつまでも撫なでていたくなるやわらかいお餅。生地の下にうっすらと透けるあんの美しさも、この繊細な手仕事から生まれていました。
経木は餅の乾燥を防ぎ、あんの湿度を吸う優れもの!
店舗情報
大黒屋鎌餅本舗 だいこくやかまもちほんぽ
住所:京都府京都市上京区寺町今出川上る4丁目西入る阿弥陀寺前町25
電話:075-231-1495
営業時間:8時30分~18時30分
休み:水曜、第2・4木曜
撮影/石井宏明 構成/藤田 優、後藤淳美(本誌)※本記事は雑誌『和樂(2019-2020年12・1月号)』の転載です。