あんこう鍋を食べに行ってみた実録レポ!

あんこう鍋を食べに行ってみた実録レポ!

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冬の味覚の代表で、鍋料理の王様ともいわれるあんこうは、食通として知られる北大路魯山人も賞賛したように、身だけでなく、皮や内臓など骨以外のすべてを食べられる魚。体が大きく、全体にぬめりがあるため、まな板を使う代わりに”吊るし切り”という伝統的で独特な捌き方があります。

とっておきのあんこう鍋を探して出合ったのは、そのルーツといわれる“どぶ汁”。発祥はあんこうの本場である茨城県北部の町、平潟。北茨城で漁師たちが食べていたもの、という濃密な鍋には、海で生きる人々の愛着と工夫が詰まっていました。

あんこう鍋のルーツは、平潟の漁師料理

どぶ汁

あんこうは「東の横綱」といわれますが、実は北海道から九州まで幅広く生息しており、最近の産地としては山口県や島根県、青森県、茨城県が有名。中でも、平潟は茨城県有数のあんこうの水揚げ地。親潮と黒潮が交わる茨城県から福島県にかけての海は豊かな漁場で、この海域でとれる”常磐もの”のキアンコウは上物として引っ張りだこという、あんこうの本場です。

どぶ汁©︎茨城大学五浦美術文化研究所 岡倉天心が思索にふけった「五浦六角堂」(茨城県北茨城市大津町五浦727-2)。

さらに、平潟はあんこう鍋のルーツといわれる“どぶ汁”の発祥地。そんなどぶ汁を育んだこの港町は、岡倉天心が愛し、晩年を過ごした五浦海岸もすぐ近く。太平洋に浸食されてできた大小5つの入り江が連なり、断崖絶壁が続く景色とこの地で楽しむ釣りに、天心は魅了されたのだとか。そんな飽きることなく眺め続けていたくなる五浦海岸から車で5分ほどの平潟漁港もまた、天然の入り江を利用した美しい港。

どぶ汁左/海岸線の美しさは圧巻。右/平潟の鎮守として建てられた「八幡神社」(茨城県下妻市大宝667 公式サイト)。

小さな港を見守るように、高台に八幡神社が創建されたのは江戸時代のこと。今は人口2000人ほどの小さな町は、江戸時代には東北地方と江戸を結ぶ東廻海運の寄港地となり、仙台藩の陣屋が置かれるなど繁栄しました。

どぶ汁「砥上屋旅館」(茨城県北茨城市磯原町磯原1630 公式サイト)の部屋の窓越しに港の風景が広がっている。

そんな歴史をしのばせるのが、明治創業の風情漂う木造建築が印象的な「砥上屋旅館」。港からのびた坂道にある「まるみつ旅館」が、平潟を「あんこうの町」として有名にした立役者です。昭和30年代、あんこうは身だけが売られ、そのほかの部分は捨てられていたのだとか。そこで当時の主人、武子光男さんが漁師の食べていたどぶ汁に着目し、旅館の客にふるまったところ大好評。それを契機に、平潟のどぶ汁は広く食べられるようになったのです。

どぶ汁「あんこう研究所」を営む、「まるみつ旅館」(茨城県北茨城市平潟町235 公式サイト)のどぶ汁も絶品。

今、この町には、どぶ汁やあんこう鍋が食べられる旅館や民宿が約20軒。予約状況が許せば、昼食のみの利用に対応してくれる宿も。港に停泊する漁船を眺めながら過ごしてみたい海辺の喫茶店「モリモア」(茨城県北茨城市平潟町143)で、あんこう鍋がいただけるのも平潟ならではです。

平潟の漁師が愛した“どぶ汁”とは?

古くから知られるこのあんこうの産地で、漁師たちや浜で生きる人々が愛してきたというどぶ汁。おなじみの醬油ベースの出汁で身と肝を煮るあんこう鍋とはひと味違います。

どぶ汁茨城県・平潟漁港にて。ヒラメ、カレイ、そしてあんこう…水揚げされた魚がずらりと並べられ、セリが始まる。

「昭和30年代ごろまでは、冬になると、この辺りの浜いっぱいにあんこうが並べられていてね」と、平潟漁業協同組合の武子尚之さんが教えてくれました。そんな風景が冬の風物詩だった町で、もともとは地元の漁師たちが船上でふうふういいながら食し、冬の漁で冷えた体を芯から温めていたというどぶ汁は、この地域ならではのあんこう料理として根づいていきました。

どぶ汁平潟にある「暁園」のどぶ汁。あん肝が溶け出たオレンジ色のスープが美味しさの鍵。

ふっくらと肥えたあんこうの胆をから煎りして味噌を加え、身から出る水分であんこうと大根など少しの野菜を加えて煮るだけ。このシンプルで、それでいて想像するだけで美味しそうな鍋には、あんこうの”七つ道具”といわれる台身(柳肉)、皮、肝、とも(ひれ)、えら、ぬの(卵巣)、胃(水袋)をはじめ骨以外のすべてを余すところなく使い切る工夫、あんこうの水分だけを使い、船の上の限られた資源である水を大切にするという知恵が活かされています。

あんこうに捨てるとこなし! 濃厚な“どぶ汁”の魅力に迫る

どぶ汁が船上から浜の人々へ、さらに地元の民宿や旅館へと広まる過程で、つくりやすく、食べやすくと、さまざまな工夫が凝らされました。今は秘伝の出汁や水を加えたりするものも含め、たっぷりとあん肝を用い、その肝が溶け出してスープが濁る鍋を総じてどぶ汁と呼んでいるのだとか。

どぶ汁水分が80%と多くぬるぬるのあんこうを捌くため、伝統的に行われてきた吊るし切り。調理環境が整った今は、包丁で捌くことも多い。「暁園」では宿泊客が依頼すると、吊るし切りを見せてくれるという。

今回鍋をつくってくれた平潟で太平洋に臨む民宿「暁園」を営むご主人、仁井田康昌さんのどぶ汁は、水を一切使わず、あんこうもそのまま加えるオリジナルに近いつくり方。この日のあんこうは、平潟漁港で水揚げされた15㎏ほどの大物。

今回は特別に伝統の吊るし切りに。「今はまな板の上で捌くことも多いけれど、大物はやっぱり吊るし切り」と、仁井田さん。包丁でひれを切って落とし、口の周りに切れ込みを入れ、一気に皮を削ぐ。七つ道具を取り出すまで5分ほど。あまりの豪快さ、手際のよさにびっくり。「子供のころは、冬になると、毎日、あんこう。どぶ汁は味噌汁代わりでした」と、笑顔も豪快です。「あんこうによって水分量が違うから、肝を煎る時間も加える味噌の量も違うんです」

どぶ汁驚くほど贅沢にあん肝を使うのが、どぶ汁の特徴。元々はひと鍋ごとにあん肝を煎りながらつくっていたが、味を安定させるため、まとめて煎るのが「暁園」流。

”海のフォワグラ”といわれるあん肝をたっぷりと、惜しげもなく使うのがこの鍋の決め手。あんこうと大根とネギと味噌だけが入った鍋がぐつぐついい始めると、あんこうから自然に出た水分がそのまま汁になり、肝の油でオレンジ色に濁っていきます。熱々をいただくと、こってりと濃厚。それでいて臭みがないのは新鮮だからか。ふわふわの身、ぷりんぷりんの皮、ねっとり、プルプル…と、さまざまな部位の食感を楽しめるのもまた醍醐味。身が好きな人も皮が好きな人もいて、どこがいちばん旨いかなんて決められない。すべて食べられ、すべて旨い。魚の旨みを生かしきった鍋は締めのおじやまで絶品!

どぶ汁

◆汐騒の宿 暁園
住所 茨城県北茨城市平潟町1519‒23
TEL 0293-4‌6-5891
12:00〜14:00、18:00〜20:30 無休 どぶ汁1人前3,800円(税込) 夜はどぶ汁付きコース料理のみ(6,500円/税込)。どぶ汁は10月〜4月末のみ、前日までに要予約(2名から受付)。宿泊も可能。

風光明媚な港町で、穏やかに生きる人々の暮らし

平潟漁港のセリは12時から。それに向けて深夜に出漁した底引き網漁船などが続々と戻ってきます。けれど取材で訪れた2018年10月のある日は遠方で発生した台風の影響で海がしけ、船の戻りが遅れ、セリは14時をすぎて始まりました。この日水揚げされたあんこうはわずか3匹。海の厳しさはそれだけではありません。福島県との県境にあるこの町は、東日本大震災で大きな津波の被害を受けました。それでもふるさとに根を張り、海の恵みと脅威を受け入れ、穏やかに生きる人々の暮らしは続いています。

どぶ汁大小ふたつの島が並ぶ北茨城のシンボル“二ツ島”。東日本大震災の影響を受け、今は象のような形に。

平潟のあんこう鍋のシーズンは10月からはじまり、寒さが厳しくなって肝が肥える12〜2月が最高に美味しい時期といいます。こうして綴っていると、絶品のどぶ汁とともに風光明媚な港町に流れるのどかな時間を満喫しに、再び真冬の平潟を訪れたくなるのです。

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