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2024.01.04

あちこち見学せずにいられない温泉宿!「向瀧」その1【〝おもてなし〟を体感できる至高の湯宿】

におい立つ桃に桜吹雪、まばゆい新緑に錦秋の山、清廉な雪に覆われた大地。土地の味や見どころが並ぶ観光地を歩いても、人気(ひとけ)のない景色だけを満喫するのでも、やっぱり旅は楽しい! 和樂本誌では久しぶりとなる、2023年2・3月号の温泉宿の大特集から、取材でもプライベートでもまた行きたくなる、編集部が吟味に吟味を重ねた至高の温泉地と湯宿をご紹介します。 温かなお湯に心地いい空間、土地の食材と季節の料理、さりげないもてなし――。日本の多様な文化や習慣を、温泉で体を温めながら体感してください。

福島県・会津東山温泉「向瀧」で知る
〝伝統建築〟の粋

明治6(1873)年、旅館として創業してちょうど150年。福島県会津東山(あいづひがしやま)温泉一の風格をたたえる木造建築に、「向瀧(むかいたき)」の歴史の重みを垣間見ることができます。3000坪という傾斜地に造営され、高低差のある客室棟が織りなす姿はまさに唯一無二。会津の職人と東京の職人が得意技で競演した〝伝統建築〟の粋を味わいに、出かけてみました。

唯一無二! 建築の文化財に泊まれる湯宿

左/創業から30年経ったころの様子。玄関前には人力車が並び、川沿いに水車も見ることができる。中/まるで岩山に張り付いているように見える客室棟。複雑に入り組んだ廊下や階段で玄関棟から繫がっている。左側に見える中庭では、冬季には100本を超える雪見ろうそくが点灯、夏季には蛍の源平合戦も。右/昭和9年の大普請によって、「向瀧」の建築はおおむね整うことに。この骨組みだけの建物の現在の姿が、写真2に見られる。

登録有形文化財第1号の宿に息づく〝会津の剛〟〝東京の粋〟

天平年間(729~749年)、高僧・行基(ぎょうき)によって発見されたと伝わる福島県の会津東山温泉。奥羽三楽郷(おううさんらくきょう)のひとつに数えられる、約1300年の歴史を誇る名湯地です。江戸時代には会津藩の保養地として栄え、上級武士を癒やしていたのが「きつね湯」と呼ばれた温泉施設。明治になり、その施設を引き継いだのが、ここ「向瀧」です。
旅館として創業した当初は、玄関と2階建ての客室棟というシンプルな造りでしたが、時をかけて姿を変えていきました。最初期の部分も生かしつつ大正時代初期に完成したのが、現在の玄関棟である母屋。寺院建築にもよく見られる入母屋造(いりもやづくり)の屋根が印象的です。

そして昭和9(1934)年に行われた大普請で、現在の「この棟は3階建て? 4階? ここはなん階?」と不思議な感覚に陥る多層階建てに。その際には地元の大工に加え、東京からも職人が集まり、腕を振るいあったとか。
傾斜地だからこその複雑な建築構造。会津美里町東尾岐(ひがしおまた)という地域の15mもの長さの一本杉を廊下の梁(はり)に使用し、柱の豪快な鉈(なた)彫りなど 〝剛〟を感じさせる仕事ぶりは会津の職人によるもの。東京の職人は、客室の欄間(らんま)や襖の引手をはじめとする〝粋〟な細工などにも洗練された技術を披露しています。
旅館建築の遺構としても貴重な「向瀧」。平成8(1996)年の文化財保護法改正により、玄関棟や客室棟など4棟が登録有形文化財として指定されました。

向瀧では、あちこち見学せずにいられない!

左/木株の年輪やパズルのように天然石を用いた階段。天井も柱も足元も、見逃せない匠の技や遊び心がそこかしこに。右/植物の名前を客室に付け、その意匠の細工が見られる部屋も。写真は「かきつばたの間」の欄間。「竹の間」には竹の節部分を引き手に用いた襖が。

左/複数の棟が繫がっているため、さまざまな角度から貴重な木造建築が楽しめる。右/木造旅館建築の遺構として貴重な文化財の手触り、踏み心地まで楽しみたい。

【湯宿DATA】

向瀧(むかいたき)
住所:福島県会津若松市東山町湯本字川向200
電話:0242-27-7501
宿泊料金:2名1室利用時1名23,250円(税込)~。※1泊2食付、1室1名利用時はプラス5,500円。
アクセス:JR磐越西線「会津若松駅」よりタクシーで約10分(送迎なし)
公式サイト:https://mukaitaki.com/

撮影/篠原宏明 構成/小竹智子
※本記事は雑誌『和樂(2023年2・3月号)』の転載です。
※表示の宿泊料金は税金・サービス料込みの金額です。別途入湯税や、入浴料などがかかる場合があります。また、連休や年末年始など、特別料金が設定されている場合もあります。
※お出かけの際には宿のホームページなどで最新情報をご確認ください。

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和樂web編集部

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