これ山形でみつけたんですが、ものすごくかわいくないですか?何だと思います?(って見出しに書いてしまいましたが。)シナノキでできた木彫りのブローチ、その名も“kibori”です。手がけたのは、山形県山形市で活動する女性彫刻師・芦野和恵さん。松竹梅やウサギ、雲といった、山形仏壇にあしらわれる伝統的なモチーフをブローチに起こし、愛らしいアクセサリーを生み出しました。
そもそも山形仏壇とは?
山形仏壇は、江戸時代中期に発展した日本の伝統工芸品のひとつです。山形県は東北一の仏壇生産地であり、木や漆といった天然素材の温もりと堅牢性が特徴。盆地という気候柄、もともと漆工業が盛んだった山形は漆のみならず、蒔絵、金工錺(きんこうかざり)などの職人も育つ環境に。そこに彫刻の技術が伝わることで、仏壇づくりが始まったと言われています。
芦野さんが普段作業をされている『仏壇のおおつき』で、山形仏壇を見せていただきました。荘厳な美しさは山形仏壇の魅力のひとつ。手の込んだつくりは、お寺の模型のよう!
昔の仏壇の修復作業も拝見。あまりに細やか、さらに躍動感あふれる作風は迫力満点です!山形仏壇界伝説の職人が手がけたものではないか…と言われているそうですが、確証はないとか。「仏壇を組み立てたら見えなくなってしまう裏側まで、きちんと彫刻されているんです。本当に勉強になります」と、芦野さん。ほとんどアートピースですね!
山形仏壇は、外廻りの製作や漆の塗装、箔押しなど7つの工程を完全分業して製造されるのですが、その中で芦野さんは彫刻を担当。以前は仏像の修復を手がけていたそうですが、その後山形仏壇界で初の女性彫刻師に。キャリアは約11年になります。
“kibori”ブローチを彫ってもらいました
今の仕事に誇りをもち、守り続けたいと思っている芦野さん。ほかの伝統工芸と同様、職人の高齢化はここでも課題となっています。そこで山形仏壇の魅力を広める入り口として考えたのが、この“kibori”ブローチでした。
実際に“kibori”ブローチを彫ってみていただきました。写真左側に並ぶ、糸のこで大まかにカットしたシナノキを、ひとつひとつ手彫りで形づくっていきます。シナノキは実際に仏壇でも使用している素材です。
彫ること数分。「まだ粗いですが…」と見せてくださったのがこれ。丸みを帯びた形がすでにチャーミング!ここからさらに細かく彫刻していき、梅のブローチが完成されます。製作時間は、ひとつ約1時間ほど。最も難しいデザインで2時間かかるそうです。
仏壇のモチーフ、と聞くと少し抵抗があるかもしれませんが、“kibori”ブローチは女性職人ならではの、穏やかで優しい雰囲気が魅力。縁起のよい題材を選ぶことで宗教的なイメージを少し抑え、明るい印象に見えることも意識したそうです。そうやって完成されたのは、白く軽やかなシナノキの風合いに素朴で温かみのあるデザインが重なった、普段の着こなしに自然となじむ、かわいいアクセサリー。「仏壇彫刻」というかけ離れた世界のように思える伝統技術が、一気に身近な存在へ。「つけていると心穏やかになれる」がコンセプトだそうですが、これなら周囲の人まで笑顔にしてくれそうです。