今春、農林水産大臣が認定する「日本農業遺産」に認定された、山形県の“最上紅花(もがみべにばな)”の生産・加工技術。室町時代末期から約450年間、変わらぬ方法で受け継がれていることは、世界的に見ても稀少だそう。
そんな最上紅花の栽培や加工技術の伝承に力を入れている、紅花生産量日本一の山形県白鷹町を訪ね、その魅力を伺いました。
江戸時代より上質なことで知られる“最上紅花”
山形県で紅花の生産・加工がもっとも栄えたのは江戸時代。紅花の栽培が奨励され、紅花の花びらを加工して作った紅餅という天然染料が、山形から京都や大阪に輸送されていました。当時より、最上紅花は上質さで評判を集めていたといわれています。
紅花生産量日本一となった山形県白鷹町で紅花摘み
「毎年、夏至から数えて約11日目の半夏生(はんげしょう)の朝に、ぽつんと一輪の紅花が咲きます。昔から、毎年変わらず“半夏ひとつ咲き”を合図として、一斉に紅花が開花します」
なんとも神秘的な紅花の生態や、紅餅作りの工程について教えてくれたのは、紅花生産者で組織する「白鷹紅の花を咲かせる会」の事務局長・今野正明さん。
まずは紅花の花摘み。紅花は鋭いトゲを持つ花のため、軍手をはめて収穫します。花びらの根元に紅色が見えてきたら、ちょうど摘みどき。花びらに含まれる色素の99%は黄色で、残り1%の赤色を染料として使いやすいよう加工すると紅餅になります。
ひとつの紅餅を作るのに、必要な紅花は約300輪。例えば7〜8枚のハンカチを鮮やかなピンク色に染める場合、使われる紅餅は20個程。つまり、一反の布を染めるとなれば驚くほど大量の花びらが必要となり、相当な手間暇がかかることになります。花びらは1枚足りとも無駄にならぬよう、花弁を包み込むように持って根元からサクッとひねるように摘み取ってカゴに集め入れます。
摘み取った花びらは、ゴミや虫を取り除き、水洗いします。次に、手で花びらをよく揉みながら黄色の色素を水で洗い流します。最後にもう一度水洗いをして、水気をよくきります。
洗った花びらは、ざるの上に広げ、筵(むしろ)で覆って風通しの良い日陰に置きます。乾燥を防ぐため、1日に2〜3回水をかけて約3日ほど寝かせると、発酵によって花びらは黄色から深紅へ変化します。
今野さんの話によれば、紅花の花びらには1%の赤い色素が含まれるとよく説明されるものの、実際は0.3%〜0.5%くらい。そのため、加工によって1%にする作業は、天然染料としての質に大きく関わってくるそうです。
加工された“紅餅”は口紅や染め物の原料に
十分に発酵させた花びらは、臼や杵はもちろん、現代では餅つき機などを使って花びらの形がなくなるまでつぶし、こねます。
餅のようになった花びらを、直径3cmほどの団子状にまるめます。それから、筵に並べ手のひらでそっと押して煎餅状に成形し天日干し。何度か裏返しつつ乾燥させると、紅餅の完成となります。
この紅餅で染める「紅色」は、今も皇室行事や伊勢神宮の式年遷宮などにおいて必要不可欠な色彩となるそう。
そして創業190有余年の伊勢半本店もまた、昔と変わらぬ技法で化粧用の紅、『小町紅』を製造するのに山形県産の紅餅を用いています。紅餅から赤い色素を含む紅液を取り出し、紅を作り上げていくには熟練の技術と勘が必要。お猪口などに刷いて自然乾燥させて仕上げた「紅」は、不思議なことに上質なほど玉虫色の輝きを放ちます。水を含ませた筆で溶けば再び鮮やかな紅色が蘇り、唇だけでなく目元や頬にも使えます。
日本文化の継承において重要な役割を果たす紅花。白鷹町は『日本の紅(あか)をつくる町』として、こうした紅花に関するさまざまな情報を発信しています。毎年7月の紅花摘みのシーズンには「白鷹紅花まつり」も開催。事前に申し込めば紅花摘みや紅花染め、紅花を食す体験などもできるので、ぜひ訪ねてみてはいかがでしょうか。
店舗概要他
『伊勢半本店』、『伊勢半本店 紅ミュージアム』
※『伊勢半本店 紅ミュージアム』は、常設展示リニューアルのため2019年11月1日まで休館中。
休館期間中(2019年10月末日まで)も、通販(WEBまたは電話)のほか、紅ミュージアム2Fにて現行商品の『小町紅』は購入可能。
住所:東京都港区南青山6-6-20 K’s南青山ビル 1F、2F
Tel:03-5774-0296(伊勢半本店 平日 9:30〜17:00)、
03-5467-3735 (伊勢半本店 紅ミュージアム 月曜定休 10:00~18:00)
URL:http://www.isehanhonten.co.jp/
■日本の紅をつくる町/白鷹町
http://www.town.shirataka.lg.jp/2146.html