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Gourmet
2019.10.24

ビールの旬はいつ?日本産ホップなら収穫したてを醸造できて香りが抜群!

この記事を書いた人

突然ですが、ビールの旬はいつだと思いますか?

大辞林第三版で「旬」という言葉を調べてみると次のように書いてあります。

しゅん【旬】
① 魚介類・野菜などの、味のよい食べ頃の時期。出盛りの時期。 「 -の野菜」
② 物事を行うのに最適の時期。

これを見ると、やっぱりビールの旬は夏! と思われるかもしれません。しかし、あえてこう主張したいと思っています。

ビールの旬は秋!

では、なぜビールの旬は秋なのか、説明していきましょう。

収穫したてのホップをすぐビール醸造に

ビール醸造に使われる麦芽。モルトとも言われます

ビールは麦、ホップ、水、酵母を基本の原料としたお酒で、その意味では非常に農業と密接な関係にあります。しかし、技術の進歩が進んだ今、ビール醸造は工業化され、いつでも同じような味わいのビールが造れるようにもなりました。

とはいえ、麦もホップも農業生産物なので、それぞれ旬の時期というものがあります。「麦秋」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。「秋」という言葉が入っていても、季節としては秋ではなく初夏。「秋」は収穫時期という意味もあるのです。なので、初夏は麦の収穫時期ということで「麦秋」なんですね。

ビールに使う麦は発芽させて麦芽という状態にします。麦芽は乾燥させて保存できるようにしているので、旬の時期の麦芽を使うと特においしい、というようなメリットはありません。

では、ホップはというと、収穫時期は8月前後。日本では主に東北地方や北海道などの寒冷地で栽培されています。

ホップは、ビールに香りと苦味を付ける役割がある植物。8月に収穫されたホップは、乾燥させて圧縮し、ペレットと呼ばれる扱いやすく保存しやすい状態に加工されます。

ペレット状に加工されたホップ

ペレットは便利である一方、麦芽と同様に旬も何もなくなってしまいます。しかし、ホップをペレット状に加工せずに生のままビール醸造に使用することで、乾燥させる際に熱で飛んでしまうフレッシュな香りが残ったビールになるのです。

ホップは収穫して時間が経つと水分が失われ、同時に香りも弱くなっていきます。なので、フレッシュな香りのあるビールを醸造するのであれば、収穫してすぐ醸造に使わないといけません。

それが可能になるのが、ホップの収穫時期である8月前後。そして、ビールの醸造は1カ月から1カ月半くらいかかるので、フレッシュなホップを使ったビールが飲めるのは9月から11月くらいということになります(この時期に出るすべてのビールということではなく、収穫されたばかりのホップを使ったビールだけです)。

ご理解いただけたでしょうか。そんな理由で、ビールの旬は秋だと主張したいのです。

日本産ホップの価値はどこに?

それでは、ホップとはどんな植物なのか、紹介していきましょう。

岩手県遠野市のホップ畑

ホップは和名をセイヨウカラハナソウといい、アサ科の多年草です。つる状で何かにつるを巻きつけて伸びていき、8メートル以上にまでなる場合もあります。雌雄異株で、ビールに使われるホップ栽培では雌株しか栽培されません。雌株にできる毬花(まりはな)と呼ばれる花のような部分がビールに使われるのですが、受粉してしまうとこの毬花の香りが落ちてしまうため、雄株は排除されます。

ホップの毬花を割ってみると、中に黄色い粉末状のものがあります。これはルプリンというもので、ここに香りや苦味のもととなる成分が入っているのです。

ホップの毬花を割ると、黄色い粉末状のルプリンが。鼻を近づけるとさわやかな香りが感じられます

そして、米にコシヒカリやあきたこまちなどの品種・銘柄があるように、ホップにも品種があります。ザーツ、カスケードといった品種が有名。「チェコ産ザーツホップ使用」なんて聞いたことありませんか?

ホップは品種によって香りと苦味の成分が異なります。大まかに言うと、アメリカの品種は柑橘系の香り、オセアニアは白ブドウ、イギリスは紅茶を思わせるフレーバー、といったところ。これらのホップを組み合わせたり、単一品種で使用したりすることで、ビールの香り・フレーバーを造り出します。

ただ、ビールに使われるホップは、大部分を輸入に頼っています。ですが、国内でもホップは栽培されていて、日本で最大の栽培面積を誇るのが岩手県遠野市。遠野市では昭和38(1963)年から栽培されています。

他にも、北海道上富良野町や秋田県横手市などが産地として知られていますが、年々日本産ホップの収穫量が減っていっているのが現状。その地域の農産物として栽培されてきたホップが、なくなりつつあるのです。

では、ホップが日本産であることにどんな意味が見出だせるでしょうか?

海外のホップであれば、使いやすく保存性に優れたペレット状のものを購入することができます。品種も海外のホップのほうが今のところは豊富です。

そこで日本産ホップの価値を考えてみると、ひとつにはホップ栽培地とビール醸造所の物理的距離にあるといえます。前述の通り、ホップは収穫して時間が経つとフレッシュな香りが失われます。収穫してすぐビール醸造に使えるというのは、フレッシュな香りを持つビールが造れるという価値になるのです。

フレッシュホップフェストでビールの旬を楽しむ

そして、こちらの記事でも紹介されているように、収穫したばかりのホップを使ったビールのイベント「フレッシュホップフェスト」が開催中です(2019年11月30日まで)。

年々収穫量が減ってきている日本のホップ栽培を盛り上げようという目的があるイベントなのですが、ひとまずそれは置いておいて、フレッシュホップビールを飲んでみてください。

全国80以上のブルワリーが参加して醸造したフレッシュホップビールを、全国の参加飲食店で飲むことができます(店によって販売期間や銘柄は異なります)。

例えば、こんなビール。

Fresh Hop 2019~Cascade&信州早生~

コエドビール(埼玉県)のフレッシュホップビールです。山梨県北杜市にある小林農園が育てたカスケードと信州早生という2種類のホップを使ったビール。カスケードの特徴である柑橘アロマがしっかり感じられ、フレッシュで青々としたフレーバーがよく出ています。

写真はビールイベントで飲んだものですが、数量限定で飲食店でも提供されています。

Fresh Hop Wild Saison

こちらは、Far Yeast Brewing(山梨県)のフレッシュホップビール。Far Yeast Brewingは、昨年も同時期にフレッシュホップを使ったビールを醸造しており、それを白ワイン樽で1年熟成させ、今年収穫したばかりのフレッシュホップを漬け込んだもの。こんな造り方をするビールなんて聞いたことがありません。

1年熟成させたとはいえ、ホップのさわやかな香りが出ていて、後味がすっきりしています。軽い酸味があるので、サーモンマリネと合わせたら絶品でした。が、少量生産なので、もうすべて完売しているかもしれません……。

 

上記2銘柄は、飲もうと思ってもなかなか飲めないと思いますが、2019年10月29日から販売開始される「一番搾り とれたてホップ生ビール」(キリンビール)はスーパーやコンビニでも購入できます。

普通のビールと飲み比べてみると、収穫したてのホップの香りがどんなものかよくわかるはず。

収穫したてのホップを使ったビールを飲むと、やっぱりビールの旬は秋だと実感します。ぜひ旬の味覚を楽しんでみてください。

書いた人

主にビールについて執筆しているライター。編集プロダクション・出版社勤務、中国四川省留学、英字新聞社ジャパンタイムズ勤務など、一貫性のないキャリアを経て、現在は「地域とビール」をテーマに活動中。日本ビアジャーナリスト協会主催のビアジャーナリストアカデミー講師も務める。著書に『教養としてのビール』など。