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2020.06.21

東京-石川2週間550㎞の徒歩旅で2つの大聖寺を発見!日本移動史の裏側を知る

この記事を書いた人

僕は2019年の夏に、東京都文京区から石川県加賀市まで550kmの道のりを2週間で歩きました。理由は単純で、どういう景色が広がっているのだろうと好奇心が湧いたからです。また、歩いてその地に赴くことで、石川県に住む知り合いが喜んでくれたり驚いてくれたりしたらいいなと思ったからというのもあります。

僕が最終的に目指したゴールは、石川県加賀市の「大聖寺」。これは地名で、かつてその場にあった大聖寺というお寺に由来します。道中、長野県飯山市で目的地と同じ名前の「大聖寺」というお寺に出会いました。双方について調べてみたところ、意外な事実が明らかになったのです。まずは、浄土真宗の開祖・親鸞を始め、その後脈々と続く弟子たちがこの2つの地域間を行き来していたということ。そして、両地域を治めていた戦国武将が兄弟だったということです。自分が歩いた道は、偶然にも歴史上で有名な人物が歩いた道と重なるという事実を知った時、驚きを隠せず「へえ〜!」と思わず声が出てしまいました。

※ここで言う大聖寺とは、長野県飯山市の大聖寺と石川県加賀市の大聖寺です。石川県加賀市の方は、16世紀に焼失したため現在は残っていません。江戸時代以降に、その後身のお寺が大聖寺山ノ下寺院群の1つとして整備された他、格式高い大聖寺という名前が地域名として残っています。

▼東京から石川までの徒歩コースの概要

(実際には寄り道などで少し遠回りしました)

長野県飯山市で、偶然にも大聖寺を発見

長野県飯山市の大聖寺

東京から歩くこと8日。長野県飯山市で「大聖寺」というお寺の前を通りかかりました。その瞬間「おや?僕がゴールする場所と同じ地名だ。これは何かあるぞ」と頭をよぎったのです。

突然の出来事に思考が追いつかず、落ち着くために、このお寺の隣にあるおやき屋に入りました。レジの方に目をやると、お婆さんが店主に何か話しかけているところでした。「うちは法事で忙しい時期だから、お客さんに配るおやきがたくさん必要なのよ」とのこと。それを聞いた僕は何か運命的なものを感じ、お婆さんに話しかけてみることにしたのです。

「僕は今、東京から石川県加賀市の大聖寺という場所を目指して歩いています。先程、この近くにも大聖寺があると知ってびっくりしました。1週間も早くゴールしてしまったような気分です。お二人の会話が耳に入ったのですが、大聖寺の方ですか?」と尋ねました。するとお婆さんも驚いたようで、これもご縁ということで、お寺の門の前で歴史の話を聞かせてくれたのです。

浄土真宗の門徒が歩いた知られざる道

親鸞が歩いた道

そのお婆さんは「この地域には浄土真宗のお坊さんがいて、昔から石川県の方に修行に行って戻ってくるということはよくあった」と話してくれました。それからの道中、浄土真宗の宗祖である親鸞が歩いた古道があることを知り、浄土真宗のお坊さんが実際にこの付近を歩いていた事実も確認できました。

他にも、飯山市内で藤ノ木御旧跡という史跡を発見。親鸞が越後から関東に向かう道中に滞在したゆかりの地だそうです。また、浄土真宗の中興の祖である蓮如も同様に、越後から関東に向かう道中、ここに滞在して榎の木を植えたのだとか。その木が良く育ち大木となったことから榎御坊(えのきごぼう)とも呼ばれ、門徒が参詣する宗教上の拠点となったといいます。自分が歩いている道は、偶然にも浄土真宗の有名な僧侶や門徒が歩いていた知られざる道だったのです。

戦国武将・佐久間氏の領地を歩いていた

富山城付近の田んぼ

驚くべき事実は、まだまだ続きます。そのお婆さんが言うには、「この地域と石川県は、戦国時代に兄弟同士が治めていて、お互いに縁の深い土地だったらしいのよ」とのこと。詳しく調べてみると、その戦国武将とは織田信長の家臣として活躍し、後に賤ヶ岳の戦いの際に奮闘したとされる佐久間盛政とその弟・安政の兄弟のことだと分かりました。盛政は金沢城(石川県金沢市)の初代城主、弟の安政は飯山城(長野県飯山市)の城主で初代飯山藩主だったのです。

それに加え、徒歩の旅のゴール後に新たな事実が判明しました。佐久間氏にはもう一人の兄弟がいて、勝之という名前だったのだとか。この人物は、富山城(富山県富山市)の城主で織田信長の家臣・佐々成政の養子になった後に、増山城主(富山県砺波市)になり、最終的には長沼城主(長野県長野市)になったそうです。この事実を知った時は激しく驚きました。僕はここで挙げた金沢城、飯山城、富山城、増山城、長沼城、これら全ての城の近くを歩いていたのです。

あなたは歴史上の人物が通った道を歩いている

ゴール先の石川県加賀市大聖寺周辺の風景

今回の徒歩の旅は、浄土真宗の僧侶や戦国武将の佐久間氏との深い縁を感じる旅となりました。これは、歩き始める前には全くわからなかったことです。歩きやすそうだからと深い理由もなく決定したコースが、実は歴史上で有名な人物が歩いていた道だったとは想像もしませんでした。

僕らが踏みしめるこの大地には、人類が誕生して以来紡がれてきた膨大な歴史が存在します。それは未だかつて誰も掘り起こすことなく見捨てられた物語の蓄積でもあるのです。その物語を旅によって紐解くことは、恍惚としたロマンを感じます。

書いた人

千葉県在住。国内外問わず旅に出て、その土地の伝統文化にまつわる記事などを書いている。得意分野は「獅子舞」と「古民家」。獅子舞の鼻を撮影しまくって記事を書いたり、写真集を作ったりしている。古民家鑑定士の資格を取得し全国の古民家を100軒取材、論文を書いた経験がある。長距離徒歩を好み、エネルギーを注入するために1食3合の玄米を食べていた事もあった。