Culture
2020.09.05

解釈は無限大!枕草子「中納言参りたまひて」の扇の骨は、結局なんの骨だった?

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「中納言参りたまひて」といえば、枕草子の中の有名なお話です。高校の古典の時間に勉強したことがあるという読者もいることでしょう。

元高校教師である筆者も、高校生相手に何度となくこのお話を授業で取り上げたことがあります。

そんな中で、記憶に残った生徒たちの珍回答を交え、実はお話の中の扇の骨は実在していなかったという説をご紹介したいと思います。

読者の皆様も「中納言参りたまひて」のお話を紐解きながら、新しい説に思いを馳せてみてはいかがでしょう?

「中納言参りたまひて」ってどんな話?まずはざっくり解説

まずは枕草子の「中納言参りたまひて」についてざっくりと見ていきましょう。

枕草子といえば、清少納言の随筆です。弟の中納言隆家(藤原隆家)が姉の中宮定子のところに遊びに来た時のシーンが描かれています。

弟の隆家は姉に素晴らしい扇の骨が手に入ったので定子にプレゼントしようと思ったのですが、その扇の骨にふさわしい紙を今探しているところだといいます。

それを聞いた定子は興味を抱いたようで「いかやうにかある(〈扇の骨〉はどのようなのですか)。」と聞いたところ、弟の隆家は興奮して「すべていみじうはべり(すべてにおいてすばらしいのです)。」といいます。そして、みんなも「さらにまだ見ぬ骨のさまなり(未だ全く見たことのない骨のようだ)。」といってるんだよといい、また、隆家自身も「まことにかばかりのは見えざりつ(本当にこれほどのものは見たことがなかった)。」と夢中になって大声でいいました。

それを聞いて、清少納言は「さては、扇のにはあらで、くらげのななり(それでは、扇の骨ではなく、クラゲの骨のようですね)。」と機転を利かせたユーモラスな言葉を投げかけます。

そこで、隆家はこれは一本取られたなと思って、「(このオシャレな返しは)隆家の言ったことにしてしまおう」とお笑いになったという話です。

このお話の面白いところは、まだ見たことがない骨から骨のないクラゲを連想して、清少納言が「クラゲの骨のようですね」といったところにあります。

清少納言は当時から頭の回転が速い女性だったといわれています。また、日常のさりげない一コマから、素敵な事象を抽出できる感性に富んだ女性だったともいわれています。

そんなところから、こんな機転が利いた言葉が出たのでしょうね。

清少納言は男だと思った? 納言つながりから男と見る説

高校生の生徒たちはそんなお話をどう捉えたのでしょう?

実は、色々と話をするうちに見えてきたのが、清少納言を男だと思ったという生徒が多かったということです。まさか清少納言が男と思っている子がいるとは思わなかったのでこれには驚きました。

「中納言も男なんだから、清少納言も同じ納言だから、男でいいんじゃない? 」という捉え方をするのです。

なるほど、確かにそういう見方もあるのかもしれませんね。ですが、やっぱり清少納言は女性です。

「中宮定子は一条天皇の奥さんだから、お付きの清少納言が男性なら、変に恋愛感情が芽生えるかもしれないし、ややこしいことにならない?」と話したらすんなり納得してもらえました。

色恋の多い平安時代とはいえ、さすがに天皇の奥様に手を出すなんてことになったら、これは考えただけで恐ろしいことになりそうですよね。

扇の骨がとうとう人骨に!? 骨というとやっぱり生き物を連想する?

さて、このお話の中でポイントになるのが扇の骨です。

古典特有な書き方で、原文には具体的に何の骨なのかは書かれていないのですが、最初に「御扇奉らせたまふに」と書かれているところから、これは扇の骨です。

ですが、生徒には直感的にわかりづらいらしく、毎時間「何の骨? 」と聞いても、「獣の骨」「犬の骨」と色んな珍回答が出ました。そしてとうとう最後には「人骨」まで……。

この時は、教室は勝手に生徒たちの空想で盛り上がり、「中納言参りたまひて」はすっかり怪談話になってしまいましたが……。

ある生徒は「中納言が実は殺人を犯したけれど、それを隠してもらおうと中宮の地位にある姉を頼ってやってきた」というお話を勝手に作っていました。想像力がたくましいですよね。

ですが、確かに生徒にとって、扇なんて普段はそう使うものではないですし、ましてや扇の骨のようないい方もしないのでしょう。きっと、扇の骨に紙を張るということも知らないと思います。やっぱり骨といえば、生き物だと思ってしまうのは仕方がないかもしれませんね。

見たことがない骨=クラゲの骨なら結局はないもの?

清少納言は隆家の「見たことがない骨」といったのを聞いて「(じゃあ、)クラゲの骨のようですね」といったのですが、生徒たちはここでも、「クラゲって骨がないんだ」と初めて知った感じでした。

そして、「クラゲって骨がないんなら、つまり扇の骨もないってこと? 」と疑問を持ち始めました。新説の誕生です。

つまり、隆家はもともとそんな素晴らしい扇の骨なんて持っていなくて、嘘をついてふさわしい紙を探しているところといったものの、清少納言はそのことを見透かしていて「くらげのななり」といったという説です。

この説、意外としっくりいくんですよね。清少納言は中宮定子がとても頼りにしていた女性です。とはいえ、身分の関係からは当然隆家の方が上です。ましてや自分がお仕えしている中宮の弟君です。そう考えると、「本当はそんな扇があるなんて嘘でしょう」とは口が裂けてもいえなかったはず。

そこで、鋭い感性の持ち主の清少納言のことだから、「くらげのななり」という返しをしたと考えたら十分あり得ることではありますよね。

高校で学んだ古典の世界はもちろん指導書があり、その指導にのっとって解答も決まっています。ですが、誰も当時の清少納言に会ったこともなければ、当時の様子も体感したことがありません。本当のところは誰もわからないことで、だからこそ、古典の解釈は無限大にあっていいのかもしれません。

生徒たちの珍回答はまた新しい古典の解釈であり、新しい発想でもあるのかもしれません。そう考えると堅苦しいなと思った古典の世界にも面白さが感じられそうですよね。

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書いた人

関西生まれ。関西にはたくさんの歴史の断片が転がっているので、そんな昔の偉人たちに想いを馳せながら旅をするのが大好きです。外国人の知り合いが多く、外国人から見た日本を紹介できればいいなと思っています。最近はまっているのは占いで、自宅の猫を相手に毎日占っています。