2017年下半期の話題をさらっているのが、海外に渡った優れた日本美術のかずかずが久しぶりに里帰りして大公開される展覧会が続くこと。作品の中には「日本にあれば国宝級」と称されるものもあります。しかし、なぜ、国宝級の名画がいくつも海外に渡ってしまったのでしょうか……。
日本美術の名作はなぜ海外にたくさんあるの?
そのキーパーソンとなったのが、鎖国という政策の中で唯一、海外交易の窓口となっていた長崎の出島のオランダ商館へ、江戸時代後半に訪れたドイツ人医師・シーボルトです。彼は浮世絵に心を奪われ、美術品や文物を収集し、帰国後はそのコレクションがオランダ・ライデン市の国立民族学博物館に収蔵され、日本美術をヨーロッパに紹介する役割を果たしました。
その後、フランス・パリでは日本から輸出された磁器を包む緩衝材に使われていた『北斎漫画(ほくさいまんが)』の一部が芸術家たちの間で評判となり、パリ万博を契機にジャポニスム(日本趣味)という美術運動がヨーロッパを席巻。日本美術に対する注目はいやが上にも高まっていきました。
時代が明治に変わり、長く閉ざされていた海外への門戸が広く開かれると、日本美術を取り巻く環境も一変。禄(ろく)を得ることができなくなった武家や廃仏毀釈(はいぶつきしゃく)で困窮した寺社などが所蔵する美術品を手放すようになるのです。そんなときに東京大学の教授として来日していたアーネスト・フェノロサは日本美術の保存の必要性を訴え、みずから日本美術を救うために熱心に収集。そのコレクションが後のボストン美術館の東洋美術部門の中心となったのです。
それ以後も、多くの美術愛好家が海外から訪れ、浮世絵をはじめ狩野派や琳派の絵を競い合うようにして買い求め、国宝級を含む優れた日本美術コレクションを自国に持ち帰ります。それらが現在、アメリカのフリーア美術館やメトロポリタン美術館、イギリスの大英博物館、フランスのギメ美術館など20以上の美術館に収蔵されているのです。
また、伊藤若冲のコレクションで知られるジョー・プライス氏や、世界屈指の河鍋暁斎(かわなべきょうさい)コレクションを有するイスラエル・ゴールドマン氏など、現在も熱狂的なコレクターによって、日本美術は世界に紹介され続けているのです。
大阪にThe British Museumのコレクションがやって来る!
大英博物館 国際共同プロジェクト「北斎―富士を超えて―」
10月6日(金)~11月19日(日) あべのハルカス美術館
斬新な構図やデザイン性、一瞬を捉えた描写など、『冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏(かながわおきなみうら)』は世界で最も知られる日本美術のひとつ。この名作を残した葛飾北斎の人物像や精神性を解明するため、晩年の30年に焦点を当て、肉筆画を中心に世界中から約200点の作品を網羅。「富士」の高みを超え、「神の領域」に到達するために描き続けた軌跡に迫る、大英博物館との共同企画。
東京と千葉にはMuseum of Fine Arts Bostonのコレクションが!
ボストン美術館の至宝展―東西の名品、珠玉のコレクション
開催中~10月9日(月・祝) 東京都美術館
国や政府機関の経済的援助を受けず、ボストン市民、個人コレクターや企業によって支えられてきたボストン美術館。数々のコレクターの物語にも光を当てながら、発掘調査隊の成果を含む古代エジプト美術から、歌麿や蕭白ら日本美術の名品が里帰りするほか、中国美術、モネやゴッホを含むフランス絵画、現代美術まで、選りすぐられた80点が特別公開される。
ボストン美術館 浮世絵名品展 鈴木春信
9月6日(水)~10月23日(月) 千葉市美術館
質・量ともに世界一の浮世絵コレクションを誇るボストン美術館の所蔵品の中から、錦絵が完成された当時、第一人者であった鈴木春信の作品を中心に、春信が影響を受けた初期の浮世絵や、影響を与えた礒田湖龍斎(いそだこりゅうさい)、勝川春章(かつかわしゅんしょう)、喜多川歌麿などの作品も展示し、浮世絵の寵児(ちょうじ)・春信が生まれた時代を通観。この画期的展覧会が千葉市美術館を皮切りに全国を巡回。
金沢では The Israel Goldman Collectionと出会えます!
これぞ暁斎!ゴールドマンコレクション
開催中~8月27日(日) 石川県立美術館
幕末から明治維新の激動の時代に、浮世絵から狩野派、西洋画などあらゆる画法を探求した絵師・河鍋暁斎。その絵に魅せられたのが、ハーバード大学で美術史を学び、浮世絵に惹かれて画商となった英国人イスラエル・ゴールドマン氏。世界屈指の規模の所蔵品が一堂に会する展覧会が、石川県立美術館で開催される。