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2021.08.28

まるで墨絵!?Minimalが目指す「新しいチョコレート文化」秘密は日本の発酵技術にあった?

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最近「チョコレートのビーントゥバー/Bean to Bar(※)」って言葉をよく耳にしませんか? もちろん、既に「ビーントゥバーのファンです」という方も少なくないですよね!

Instagramでもよく目にします!

※ビーントゥバー:カカオ豆の選定から買い付け、選別からチョコレートバーを作る工程のすべてを、自分たちのファクトリーで行う製法のこと

このビーントゥバーチョコレート、人気の始まりは、2000年代のアメリカと言われていますが、2010年には、日本でもチラホラと見られるようになりました。国内でのブームの火付け役の一翼を担ったのが、2014年創業のクラフトチョコレート専門店「Minimal- Bean to Bar Chocolate -/ミニマル」。「ビーントゥバー」という言葉を全面に押し出して、チョコレートをPRしたのです。

Minimal富ヶ谷店の外観

今回私が注目したのは、このMinimalが掲げる「1枚のチョコレートから変えていく、100年後の未来」というメッセージ。日本ならではの「きめ細やかな製造方法」でおいしいチョコレートを作るための挑戦を100年続ければ、やがてそれは文化になるという考え方です。

そもそもチョコレートが、大航海時代に南米からヨーロッパに伝わり、様々な発明・改良を経て現在のようなかたちで日本へやってきたのは18世紀末ころ。「西洋菓子」であるチョコレートを、日本独自の製法で文化にまで発展させるとは、一体どういうことなのでしょう?
Minimal代表の山下貴嗣さんに伺いました。

Minimal代表の山下貴嗣さん

Minimalのチョコレートは、墨絵に似ている?

「Minimalのチョコレートは、カカオ豆と砂糖のみで作っているんですよ」と山下さん。
そうなんだ! チョコレートの原材料には、よく「カカオバター」や「ミルク」と書かれているけれども……?

「さらに複数のカカオ豆をブレンドするのが一般的ですが、Minimalでは1種類の板チョコにつき1種類のカカオ豆から製造していて、それぞれのカカオ豆の個性を最大限に生かすことを一番大切にしています。こういった考え方は、最小限の素材で食材のおいしさを引き出す日本食の技法から学びました」と山下さん。

山下さんの作るチョコレートは、墨の濃淡と余白によって元のイメージを最大限魅力的に表現する墨絵を彷彿とさせる。作品: Kingfisher and Bamboo 19th century Formerly attributed to Sesshū Tōyō 画像元:メトロポリタン美術館

そもそも西洋をはじめとする一般的なチョコレートは、油の良し悪しやなめらかさが主な評価基準。カカオバターなどの油分を追油したり、ミルクを足したり、複数のカカオ豆をブレンドすることで、カカオ豆の個性にかかわらず一定の味を出し、なめらかな食感を追求しています。

西洋のチョコレートからは、足して足して下絵がわからなくなるほど盛ることで魅力を出していく油絵を思い浮かべる。 作品:Cypresses 1889 Vincent van Gogh 画像元:メトロポリタン美術館

ところが山下さんが作るチョコレートは、唯一加えている砂糖も最小限に抑えて、カカオ豆自体の味と香りを最重視。豆もあらびきにすることで、ザクザク感を残し、香りが消えないようにしているのです。本家・西洋の哲学からすると、なめらかであることが重要なので、ザクザク食感が残っているのは邪道なんだとか! 言われてみれば、一般的なチョコレートのCMは「なめらかな口どけ」をうたっているものが多いかも?

1分1℃の時間や温度の変化にこだわって自社で焙煎したカカオ豆(左)とカカオニブ(カカオ豆の実をローストし、粗く砕いたもの)(右)。あらびきのカカオニブを活かしたMinimalのチョコレートからは、ザクザクした食感と豊かな香りを楽しめる

ここで、山下さんが4種類のビーントゥバーチョコレートを出してくれました。何はともあれ試食してみます! 解説カードを見ると、どれも「カカオ率72%」「63%」などカカオ豆の含有率が高め。カカオ豆と砂糖だけだと、ストイックな味を想像してしまうけれども……?

4種類のビーントゥバーチョコレート

まずはコロンビアカカオの「’Arhuaco」を試食。カカオ豆と砂糖だけのはずなのに、爽やかなマスカットの味がします! 続いていただいた「SAVORY」は、清涼感の中に、なんとミントの香り! インドカカオを使った「FRUTY」は、甘さの中に柑橘系の酸味と干しブドウのような豊潤な香りも感じられます。 最後にいただいたのは「NUTTY」。ナッツのような深くて心地よい甘さが口いっぱいに広がります!

思わず「本当にフルーツやミントを加えてないのですか?」と聞いてしまうほど、それぞれの違いがハッキリと感じられました。山下さん曰く「カカオ豆そのものに、個性豊かな味と香りが備わっているのです」。これには私も感動~! ワインやコーヒーのテイスティングよりも「白ブドウのような」とか「アーモンドのような」という表現がダイレクトに当てはまる印象でした。

七十二候で味を変えるチョコレート?

「カカオ豆の味は、土や日照、雨量はもちろん、日本の季節、さらにいうと七十二候によっても変わるんです! うちでは季節によって変化するカカオを、もっとも旬な時に一番おいしく食べていただけるよう、製法もこまめに変えています。」

はえ~。72の季節に合わせて作り方も変えるとは! カカオ豆の味って、めまぐるしく変化するのですね。

「そうなんです。このパッケージの左上に書いてある日付を見てください。これはカカオ豆のフレーバーの変化に合わせてレシピを変えた日なのです。」

例えば、この3種類の板チョコのパッケージには、2021年2月、2020年10月、2018年8月と書いてあります。……ということは、3年くらい一定の味を保っているカカオもあれば、今年2月にレシピを変えるほど味が変わったカカオ豆もあるということですね?

「そうです。カカオの味は、まさに一期一会! 年間3000を超えるレシピを作り、膨大なカカオ豆一つ一つに丁寧に向き合って製造を繰り返すことで、多くの風味を表現できるようになりました。旬の季節の一番のおいしさは、カカオ豆のたった1%の濃度、1分の焙煎時間、そして1℃の温度の変化から生まれるのです」と山下さん。

「表現」という言葉が出ました! ここまでくると、1点もののアート作品のようです。ところでチョコレートにおける「日本ならではの製造技法」はあるのでしょうか? 詳しく伺ってみます。

日本独自の「発酵」がポイント!

山下さん曰く「チョコレートの香りにとって重要な製造工程が『発酵』です。あまり知られていませんが、カカオ豆の多くは収穫された原産地で発酵させています。西洋の大量生産方式では、一定の環境で品質を均質にする目的のために発酵を行う事が多いんです。」

チョコレート作りに「発酵」が関わっていたとは知らなかった!

「ご存じの通り、日本は、酒や味噌や醤油など世界でも突出して発酵食品のバリエーションが豊富な国。発酵技術も高いレベルで発達しています。そこで、私がチョコレート作りに応用したいのは、菌や品種や甘さの純度を変えることで、きめこまやかにカカオの個性に対応する、日本ならではの発酵技術です。現在、専門家に師事し、発酵や醸造について学び、研鑽を積んでいます。」

素晴らしい! 30ヶ国のカカオ産地や数百を超える農園を訪れている山下さんですが、さらに日本ならではの発酵技術を応用。季節によって細やかにうつろうチョコレートが、発酵技術にまでこだわって作られていたとは驚きです!

写真のような、ムシレージ(粘液質)と呼ばれる白いパルプに包まれたカカオ豆の房を、ポッドから取り出して発酵させる

写真の手前にあるのは、白いパルプ部分のジュース。今回の取材で初めて飲みましたが、トロピカルフルーツのような酸味が効いた爽やかな味です! これが周りについたままカカオ豆を発酵させるので、その過程で生じる酸が豆に直接浸透する事など、複雑な過程を経て、カカオ豆の品質が決まるとのこと。

そのために細やかな管理をする……。これが西洋をはじめとする一般的なカカオ豆の発酵との大きな違い、ですね!

「日本発の新しいチョコレート文化」を作るために

「新しい文化を作るためにチョコレートを作っている」と語る山下さん。今後、どのようにしてMinimalのチョコレートを文化へと発展させていくのか、最後に伺ってみました。

1.「三方よし」のエコシステムを作る

「西洋から始まった伝統的生産体制は、市場で決まった価格(1kg2ドル~3ドル程度)で、量を取引しています。一方、Minimalでは、農家と一緒になって小ロットでも良質なカカオ豆を作ることで、2倍~3倍、時にそれ以上の値段で購入する、質に対価を払うという新しい形態で取引をしています。農家に選択肢を増やすことで結果として、カカオ農家の貧困問題や、児童労働の問題の解決にも繋がっていきます。」

カカオ産地の地図。30ヶ国のカカオ産地や、数百を超える農園を訪れるうちに、山下さんは、気づくと、年間4か月程度もカカオ産地に入る生活になっていたとか!

「さらにそのカカオ豆から、職人技を活かしたクラフトショコラ/ビーントゥバーチョコレートを作り、市場よりも高い価格でも、高いクオリティーを楽しんでくれるファンを増やそうと努力しています。さらに、100年くらいかけてそのサイクルが拡大すると、ワインで言う『シャトー』のようなスター農家も出てきて、金銭的にも文化的にも潤う『三方よし』のエコシステムができるんじゃないでしょうか」と山下さん。

西洋から始まった伝統的な生産体制ではなく、農家と一緒に作る新しいシステム!

Minimalのビジネスモデル

2.日本文化的マインドと技で豆の個性を引き出す

最初に山下さんが教えてくださったように、新しいチョコレート文化を作る上で大切なのが、カカオ豆の個性を引き出す製造工程。山下さん曰く「(カカオ豆を焙煎するときに)網の目をきめ細かくして『解像度を高める』と豆の個性が引き立ってくる」とのこと。

カカオバターや砂糖、ミルクなどをどんどん足して均一化するのではなく、カカオ豆の香りや味が最高に輝く瞬間を引き出すギリギリの温度や砂糖の量を極めるまで引き算していくことで、西洋とは一線を画す味を追求できるのではないでしょうか。

3.お客さんと一緒に新しい楽しみ方を創る

最後に山下さんが教えてくれたのは、チョコレートの楽しみ方。「個性的で変化し続けるチョコレート。これらを楽しむためのバリエーションを伝えていきたいです。例えば、同じく個性的なコーヒー豆から作ったコーヒーとのペアリングを楽しむとか、お子さんが生まれた年にできたカカオ豆のチョコレートをプレゼントするとか、ベリー系の酸味が効いたチョコレートにバルサミコ酢の役割を持たせてドレッシングを作るとか。」

Minimalのチョコレートには、風味のガイドとしてのカードが付いてくるのですが、それは楽しみ方の「正解」ではなく、墨絵のように余白を残したヒントのようなものなんだそう。ここから、お客さんがそれぞれの解釈を加えることで、新しい表現が無数に生まれることに期待されているそうです。

「ユニークな楽しみ方をMinimalとお客さんが一緒に創っていくことで、未来に日本発の新しいチョコレートを伝えたい」と山下さん。「アート作品は、作品が出来上がった時点ではなく、鑑賞者が観て感じた時点で完成する」という考え方と通じるところがあるかもしれません……! 私もこれからMinimalのチョコレートをたくさん食べることで、その一翼を担いたいと思います(ちょっと違うか?)!

筆者(左)と山下さん(右)

次回訪ねる際は、大人気のパフェを是非いただきたいな~。

Minimal 富ヶ谷本店

営業時間:11:30〜19:00 / 定休日なし
住所:〒151-0063 東京都渋谷区富ヶ谷2-1-9
アクセス:東京メトロ千代田線 代々木公園駅:1番出口(八幡口) 徒歩6分
小田急線 代々木八幡駅:南口徒歩6分
公式webサイト:https://mini-mal.tokyo/

書いた人

アート&グルメライター。日本で社会学、イギリスの大学院で映画論とアートを学ぶ。「人生は総合芸術だ!」と確信し、「おいしく、楽しく、美しく」をテーマにアートとして生きる(笑)。そんなアートライフに、無くてはならないのが美食と美酒。独特な美学と文化を発信するアートなグルメ体験をシェアします!

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我の名は、ミステリアス鳩仮面である。1988年4月生まれ、埼玉出身。叔父は鳩界で一世を風靡したピジョン・ザ・グレート。憧れの存在はイトーヨーカドーの鳩。