Craft
2022.02.14

とろける肌触りのショールはなぜ生まれた?伝統の播州織の手法でモノづくりをするtamaki niimeの今

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兵庫県西脇市を拠点とするファッションブランド『tamaki niime』。代表の玉木新雌(たまきにいめ)さんが創設したブランドは播州織の手法を取り入れたショールを皮切りに、シャツにワンピース、ニットやデニム、靴下や日傘など、さまざまなアイテムを手掛けています。驚くべきはそのすべてがほぼ一点モノということ。ブランドの原点であるショールは、とろけるような肌触りのよさと鮮やかな色彩で多くのひとを虜にしてきました。肌触りにこだわるショールから見えてきた、tamaki niimeのモノづくりと今に迫ります。

肌触りのよいものって、気付くとそればかり選んで着ていたりします!

tamaki niimeのモノづくりを知りたくて

10年ほど前、神戸・六甲にある『暮らしの道具 フクギドウ』の目利き店主から「すごく気持ちがいいので、ちょっと巻いてみて」と薦められたのがtamaki niimeのショールでした。首に巻いてみると、ふわっとしたボリューム感とともに、くたっととろけるような柔らかさ。まっさらにも関わらず、その肌なじみのよさに驚きました。ぐるぐると首に巻きつけたり、さらっと羽織ったりと、使える大判のショールは、私の春夏のワードローブには欠かせない一枚になっています。

兵庫県西脇市が“日本のヘソ”を宣言した年に生まれたtamaki niimeの代表・玉木新雌さん。最初に譲り受けた1960年代製の力織機(りきしょっき)とともに。

兵庫県西脇市の伝統産業・播州織(ばんしゅうおり)の手法を取り入れ、女性デザイナーがはじめたブランドと聞いてはいたものの、どんなモノづくりをしているのかが長く気になっていました。また10年のうちにさまざまなアイテムを展開するようになり、最近は農業もはじめたなんてことを知人を介して知るように。アパレルで農業!?ますます興味がわいてきます。そんななか昨年7月にオープンした「tamaki niime TOKYO MACHIDA」にて、ブランド創設者であり代表の玉木新雌(たまきにいめ)さんにお会いする機会がありました。「西脇にどうぞ」のお誘いをうけたこともあり、tamaki niime本拠地の西脇へと向かうことにしました。

小田急線沿いにある「tamaki niime TOKYO MACHIDA」は、東京・町田市鶴川にある 牛田英作+キャサリン・フィンドレイが 1993 年に完成させた 「TRUSS WALL HOUSE」を店舗へとリノベーション。photo by © tamaki niime

洞窟を思わせる唯一無二の空間に一点モノが並ぶ「tamaki niime TOKYO MACHIDA」。photo by © tamaki niime
建物の外観や内装もおしゃれ! 窓に書いてある文字も気になる……。

伝統を感じて一点モノに触れるShop&Lab

兵庫県の西脇市に拠点をおくtamaki niime。染色工場跡を改装した西脇の本店「tamaki niime Shop&Lab」には、すべてのアイテムが揃うショップとともに、tamaki niimeではラボと呼ぶ、織機(しょっき)や編機(あみき)、糸の染色や縫製などを行うモノづくりの場があります。ショップとラボはガラス張りになっていて、ガシャガシャと生地を織り上げていく様子は見ていて胸が躍ります。織機による織りや糸の染色の様子、Tシャツやスウェット生地を編み上げる丸編機など、ラボをぐるりとスタッフに案内していただきました。常時ではないものの、地元のひとやお客様に向けたイベントなども行っているとか。見学後、玉木新雌さんがその理由を話しはじめます。「モノづくりの場って見ているだけでワクワクするでしょう。それに選び抜いて買い求めたモノはどんな風につくられているのか気になるはず。私ならば絶対に見てみたいって思うから」。

誰もが生産プロセスを体験できるラボ。ノウハウが流出するリスクについて、「私たちのやっているものづくりの仕組みは、ものづくりを楽しみながらいつも成長したいって想いがある。tamaki niime は常に進化しているから誰が見ても大丈夫。同業者の方も楽しんでほしいかな」、と玉木さん。
。photo by © tamaki niime
モノづくりの現場って私もわくわくします! 実際に作っているところを見られるリスクについての考え方もかっこいい!

そして誰もがラボを見学できる理由はもうひとつ。「ここ西脇の町は江戸から220年続いてきた播州織(ばんしゅうおり)の産地です。でも製造現場を公開しているところは少ない。受け継がれてきた伝統産業に少しでも触れてもらいたい」。西脇や伝統産業への想いを話す玉木さんは、実は西脇出身者ではありません。福井県に生まれ育ったおしゃれな好き少女 玉木新雌は、大きくなってアパレルの道へと進み、播州織との出会いから国内外200店舗以上で扱われるブランドtamaki niimeを生みだしました。

着心地だけは100%自分のためにあるもの

さて、とろけるようなショールはいかにして生まれたのか? アパレルで経験を積んで独立したころに、生地の展示会で播州織と出会ったことがきっかけでした。播州織の工房とともに生地づくりをはじめ、西脇へ移り住むことになった玉木さん。「とりあえずのつもりで産地に来たものの、織機をあやつる職人さんのそばにいることで細かい要望が伝えやすくなったんです。シャツ生地などに使われている播州織は、目が詰まったハリのある生地が特徴です。それを、もっと柔らかく、もっとゆっくり織ってみて、と通常の織りとは逆のことを伝え続けて。ようやく柔らかな生地ができた。それは柔らかすぎて洋服に使えなかった、だけどショールだったらいけるかもって」。瓢箪から駒のようにして生まれたブランドの原点ともいえるショール。その後、自らがその生地の織り手になろうと決意します。古い力織機を譲り受けて基本操作をなんと三カ月程度でマスター!1年ほどかけて独自の織り方が完成しました。

播州織のセオリーとは違った方法での試行錯誤、お互いの深い信頼関係があったんだろうなあ。

ふわふわ、とろりの肌触りのショール。コットン100%だけではなく、今ではウール100%のショールも。

しかしそこまで肌触りや着心地にこだわったのは一体なぜなのか? 幼いころから着心地にはうるさくて、服を選ぶときは肌触りのいいものを手に取っていたと玉木さんは言います。「目的のために装うことが一般化しているなかで、着心地だけは100%自分のためにあるものです。自分らしく一日を過ごすためには、着心地ってものすごく大事なことだと思いませんか。カッコよくてもチクチクする服は脱ぎたくなる。また着心地のよさは年齢や性別を超えて伝わるでしょう」。

これ、すごく分かります。かっこいいのも着たいけれど、それ以上に着心地がいいものを着たいです。

多彩な色使いでモノの魅力を伝えていく

肌触りとともに、こだわったのが色使い。播州織の特徴である先染め織は、染めた糸で生地を織るために色を自由に組み合わせることができ、多彩な柄を織り込むことができます。ただし受注生産型の工場が多いために、シャツ生地に使われる淡い色が播州織のイメージだったそう。玉木さんは鮮やかな色糸を組み合わせることで播州織のイメージを一新。「コットン100%や素材にこだわるなんて言うとベージュやオフホワイトなどナチュラルカラーが浮かぶでしょう。でもそれでは全然おもしろくないから」。

洗い加工後は、天日で乾燥をさせる。のどかな景色のなかで鮮やかなショールが風に揺れる。玉木さんの履いているデニムもtamaki niimeの人気アイテム。photo by © tamaki niime
たしかに、素材がいい=ナチュラルカラー、みたいなイメージありました。鮮やかな色と、玉木さんの笑顔がすてき!

緯糸(よこいと*)を途中で変えるなど手の込んだ独自の織り方で、すべてが一点モノのカラフルなショールを織り上げます。「はじめての作品(*1)でしたから、まずは多彩な色使いが話題になるように」。その目論見通り、ショールを扱いはじめたショップには、あの鮮やかなショールはどこのブランドのもの?という問い合わせが多かったそう。ここ数年は自社で糸の染色まで手掛けることで、糸束を染め分けたり、新たな色を生み出したり、より豊かな色遊びができるようになりました。

*織物の横糸のこと *1 tamaki niimeのモノづくりは創造であり生産ではないという考えのもと、モノづくりの場をラボ、創られたモノを作品と呼ぶ。

220年の歴史をもつ播磨地域の伝統産業

さてtamaki niimeが手法を取り入れる播州織。歴史をさっとおさらいすると、江戸は寛政4(1792)年に地元(「tamaki niime Shop&Lab」がある西脇市比延町)の宮大工が京都西陣から織りの技術を持ち帰ったのが起源。当時の播磨地域は綿花栽培が盛んで、農家の副業として綿織物「播州縞(ばんしゅうしま)」が織られるように。明治以降は工場で大量生産がはじまり、「播州織」として国内外へと販路を拡大。好景気に沸いた時代もありましたが、昭和62(1987)年をピークに生産量は減少傾向へ。とはいえ地場産業として、今も西脇市を中心に中小規模の工場は数多く存在しています。

播州織は江戸後期から続いているんですね!

播州織は先染め糸(先に染めた糸)で織るのが特徴。ラボには鮮やかな色がずらりと並ぶ。

玉木さんが播州織に惹かれたのは、出会った職人さんの工房が“一点モノの生地”という看板を掲げていたこと。ファストファッションにみられる大量生産や大量消費に疑問を感じていたこともあって、その考えがとても心に響いたそう。「独立したての人間とモノづくりをしてくれる熱い職人さんがいる。新たなモノづくりの可能性を播州織に感じました」。今も受注生産型工場は多いものの、独自のモノづくりをする播州織の工房が増えています。「ショールを開発した工房とのお付き合いはずっと続いていますし、産地をともに盛り上げていこうという新たな播州織仲間も増えてきました」。

綿花栽培に羊飼育?循環型で自給自足的なモノづくり

西脇市に移転してから12年、織りに編み、染めに加工、さらには縫製までと一貫したモノづくりができるように。アイテムだけではなく取引先も大きく拡がりました。でも決して変わらないのは一点モノにこだわる姿勢です。「人と同じものを着るのはつまらない。それは幼少時代から私を貫く信念みたいなものです。世界に一つしかない、特別な一着として、長く大切に身に着けてもらえるモノづくりを続けていきたい」

海外のブランドのなかには、Farm to Closet(農場からクローゼットへ)などの環境再生型農業を取り入れてオーガニックコットンを育てるところも増えてきている。tamaki niimeの綿花栽培は毎年少しずつ収穫量が増えているそう。将来的にはオリジナルの糸を紡ぎ特別なモノづくりをする計画も。photo by © tamaki niime

2014年からは農業に着手。無農薬の綿花栽培をはじめ米や野菜づくりにも精を出します。「なれない農作業に苦労したけれど服づくりとは違う充実感があった。最初の年は綿花の収穫量がたったの300kg。でも世界の情勢を鑑みると、今までのように綿花が手に入らなくなることだってありえます。少量であっても自分たちで育てていかなきゃ」。2020年からはウール研究のために羊の飼育をはじめたそう。自分たちが必要なものを、必要な分だけ、自分たちの手でつくっていく、そんな循環型・自給自足的なものづくりを進めています。

綿花や米・野菜、それに羊まで! 

国内のアパレル会社が事業として農に関わる事例はあるものの、経営者みずからが農を実践しているところは多くはない。敷地内の庭へと遊びにいく愛らしい羊たち。

播州織にとどまらず西脇の魅力を伝えていく

ものづくりと営業のふたりではじめたブランドは社員50名を含めた100名規模へと成長。最近ではモノづくりをスタッフに任せていると言います。「スタッフひとりひとりが、tamaki niimeの価値を高める動き方ができるようになってきています」。昨年秋には広報スタッフが中心となってプロジェクトを組み、コミュニティづくりの取り組みや活動をまとめた『産地から興す新しいものづくりのかたち』でグッドデザイン賞を受賞します。「私はなにもしていないんですよ。社員が成長する姿はうれしいものですし、私はさらにその先を考えていこうって。いい刺激になりますね」。

西脇の本店「tamaki niime Shop&Lab」は、播州織に使われていた染色工場跡をリノベーション。新たな一点モノを追求しているtamaki niimeの本拠地。photo by © tamaki niime

今、玉木さんが取り組んでいるのは、播州織にとどまらず、地域の魅力を発信していくこと。そのために2022年2月には播州織の生地をはじめ、暮らしの道具やおいしいものなどを扱う「tamaki niime shima(しま)」(西脇市嶋地区)をオープンします。自分たちが使って、味わって、つくり手と話して、ずっと使い続けたい、そしてつくり続けて欲しいと思うものを集めました。「Shop&Labを訪れたひとに町や地域の魅力をもっと伝えたい。西脇を中心とする播磨地区は、食文化が豊かでおいしいものが多い。でも残念ながらあまり知られていない。地域のおいしいものをたくさん集めましたので、ぜひ遊びにきてください」。

自分の会社だけでなく、地域のことも考えていく姿勢、それが「tamaki niime」の強みの1つなのかもしれませんね!

既存のモノづくりのあり方を問い、地域の魅力を見つめなおし、新たな価値を生み出してきたtamaki niime。これからもファッションの枠を超えて新たなことを追求し続けていくに違いありません。

tamaki niime Shop &Lab
住所 兵庫県西脇市比延町550-1
電話 0795-38-8113
営業時間 11:00-17:00
休日 月曜日・火曜日
https://www.niime.jp/

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和樂江戸部部長(部員数ゼロ?)。江戸な老舗と道具で現代とつなぐ「江戸な日用品」(平凡社)を出版したことがきっかけとなり、老舗や職人、東京の手仕事や道具や菓子などを追求中。相撲、寄席、和菓子、酒場がご贔屓。茶道初心者。著書の台湾版が出たため台湾に留学をしたものの、中国語で江戸愛を語るにはまだ遠い。

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人生の総ては必然と信じる不動明王ファン。経歴に節操がなさすぎて不思議がられることがよくあるが、一期は夢よ、ただ狂へ。熱しやすく冷めにくく、息切れするよ、と周囲が呆れるような劫火の情熱を平気で10年単位で保てる高性能魔法瓶。日本刀剣は永遠の恋人。愛ハムスターに日々齧られるのが本業。