2018年4月13日から5月27日まで、東京国立博物館 平成館で開催中の特別展「名作誕生−つながる日本美術」。日本美術史に残る名作がずらりと並ぶことで注目を集めています。その見どころは〝つながり〟。名作が誕生するまでには、作品同士が及ぼし合った影響や、共通する社会情勢などのドラマがありました。本展はその点に注目し、12のテーマで展開。展示される名作は、等伯の「松林図屏風」や雪舟の「破墨山水図」、「風俗図屏風(彦根屏風)」などの国宝から、若冲、光琳の作品、仏画や仏像…約120件!
そこから「祈り」「巨匠」「古典」「人物」「花鳥」の〝つながり〟をここでご紹介します。日本美術の成立がわかりやすく展示された特別展を、どうぞお見逃しなく。
「祈り」
信仰を背景とした仏像や仏画は、経典に基づいて造形化されています。革新的技法、名作を手本として継承し、数多くの名作が生み出されました。そんな「祈り」のつながりとして注目される名作とは…。合掌する普賢菩薩像(ふげんぼさつぞう)の潮流や、中国・唐の高僧鑑真(がんじん)とともに渡来した仏師たちが日本の木材の特性を見抜いて制作した一木造の仏像、そして、日本に仏教を広めた人々の伝記などを描いた絵伝のうち「聖徳太子絵伝」が登場します。
「普賢菩薩像」国宝 平安時代(12世紀)東京国立博物館 展示期間:4月13日~5月6日/「法華経」に、肌は白く輝き、六牙(ろくげ)の白象に乗ると記された普賢菩薩の姿を見事に表した、平安仏画の代表作。彩色や截金がよく残っており、細部まで心と技が尽くされている。
「普賢菩薩騎象像」国宝 平安時代(12世紀)東京・大倉集古館/法華堂本尊や追善供養の本尊として平安時代に盛んに制作された記録がある普賢菩薩像でも、本像は彩色や截金(きりかね)が鮮やかに残っている。優美な姿をたたえた木彫像の名作。
「巨匠」
日本美術史に輝くカリスマ絵師たちも、海外の作品や日本の古典から学び、継承と工夫を重ねることで独創的な名作を生み出しました。そんな「巨匠」を代表するのが、水墨画の本場・中国を旅して独自の水墨画を確立した雪舟、古典文学を主題とした絵画を描いた宗達、宋元画の模倣と同じモチーフをくり返し描く自己模倣を行った若冲の3人。それぞれの名画に隠されたつながりを明らかにします。
「仙人掌群鶏図襖」伊藤若冲 重文 江戸時代(18世紀)大阪・西福寺/金地に鶏を大きく描いた襖絵は、若冲後期の作品。若冲が幼いころから写生をくり返し、何度も画題にしてきた鶏の作品の到達点が本作。異国情緒あふれるサボテンも目を引く。
「雪梅雄鶏図」伊藤若冲 江戸時代(18世紀)京都・両足院/本格的に絵画の道を歩み始めたころの作品にはすでに、鶏の端正な描写や岩や雪の形に独特の造形が表れている。これが、「仙人掌群鶏図襖」の1番右の襖の鶏の原型。
「古典」
日本の古典文学を代表する『伊勢物語』や『源氏物語』の名場面は、様々な絵画に描かれ、また、その情景を象徴するモチーフを組み合わせた工芸作品がつくられてきました。「古典」つながりの名作では、『伊勢物語』の「八橋」「蔦細道」「竜田川」、『源氏物語』の「夕顔」「初音」にまつわる絵画や工芸品を紹介。雅で美しい意匠が継承されてきたことを中心に、古典文学が日本美術に及ぼしてきた影響の大きさがよくわかります。
「伊勢物語図屏風」江戸時代(17世紀)三重・斎宮歴史博物館/古典の傑作『伊勢物語』の世界が一望できる、金雲に彩られた屛風。右隻に初段から45段のうち25場面、左隻に49段から121段のうち23場面を選び、ほぼ物語の順に描かれている。
「八橋蒔絵螺鈿硯箱」尾形光琳 国宝 江戸時代(18世紀)東京国立博物館 展示期間:4月13日~5月6日/国宝「燕子花図屏風」と同様に、燕子花と八橋を大胆にデザイン化した光琳。「伊勢物語」第9段の三河国八橋の情景を表す硯箱。花は螺鈿、葉は蒔絵、橋には鉛板が使われている。
「人物」
日本美術の画題が大きく変化したのが、桃山時代から江戸時代にかけての17世紀初頭。平和な世が訪れ、現世を楽しもうという風潮が高まるとともに、その時代の風俗や意識を主題とした人物画(風俗画)が現れました。「人物」つながりの名作では、重文「湯女図」における人々の視線や、国宝「風俗図屛風(彦根屛風)」に描かれた古典文学から転用された図柄が意味するところに注目して、風俗画や浮世絵の誕生にいたるまでを見ていくことができます。
「風俗図屏風(彦根屏風)」国宝 江戸時代(17世紀)滋賀・彦根城博物館 展示期間:5月15日~27日/金地に15人の男女といくつかの器物だけを配した屛風は、美しさもさることながら、中国で重んじられた「琴棋書画」という教養を当時の遊里の風俗で表している点も見どころ。
「見返り美人図」菱川師宣 江戸時代(17世紀)東京国立博物/浮世絵の祖とされる菱川師宣の代表作で、切手になったことでも知られる本作。当時の最新ファッションに身を包み、振り返った姿勢が印象的な女性の誕生秘話とは…。
「花鳥」
日本美術の発展は、中国絵画の影響を抜きにして語ることはできません。特に花鳥画については、中国からもたらされた描法が継承され、季節感を表すことを重視してきた日本美術の重要なモチーフとして、今日まで連綿と描き続けられています。そんな中から、蓮と雀を取り上げて、「花鳥」のつながりを示す名作が展示されます。また、山水画では、等伯の「松林図屛風」に見られる、中国の水墨画の影響や日本伝統の松林のモチーフの継承が紹介されます。
「蓮池水禽図」於子明 重文 中国・南宋時代(13世紀)京都・知恩院/中国・江南の毘陵で盛んに描かれ、宋時代に蓮のつぼみから開花、満開、枯れるまでを描く定形ができた「蓮池水禽図」の代表作。これを手本にして、数多くの日本美術が生まれた。
「蓮図」能阿弥 室町時代・文明3(1471)年 大阪・正木美術館 展示期間:4月13日~5月6日/室町将軍の同朋衆(どうぼうしゅう)として文化をになった能阿弥が、没年に描いて和歌をしたためた遺作。極楽浄土に咲く蓮を、能阿弥は南宋時代の画家・牧谿(もっけい)にならったやわらかい画風で描写。