第3回は【亀廣永「古都大内」】です。
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初代考案のロングセラー、つぶあん入り落雁の祝い菓子
亀廣永の「古都大内」
紅白饅頭や紅白に染め分けられた干菓子は、京都の昔ながらの菓子屋に常にあるもの。その祝い菓子の銘に、「大内山(おおうちやま)」にちなむものが多いって知っていました?
「大内山」とは仁和寺(にんなじ)の裏にある山で、山中には宇多天皇の御陵(ごりょう)があり、大内裏(だいだいり)を指すことからこの山名がついたそう。こんもりとした稜線を描く大内山は、歌に詠まれてきた名所であり、菓子が求める抽象化した意匠にもぴったり。慶事にふさわしいということで、ぽっこりと丸い形をした菓子が店それぞれに表現されてきたのです。
さてこの店の「古都大内(ことおおうち)」は、昭和のはじめに「亀末廣(かめすえひろ)」から独立した初代の作。落雁(らくがん)の生地の中につぶあんが入る味が評判です。
「落雁と聞くと、かたいもんだと想像しますでしょう。やわらかい生地のまま木型に押し入れて出す。翌日にいい具合に生地が締まるんです」と教えてくれた2代目主人・西井新太郎さん。口に入れると、ふっと生地がほどけるのが新鮮。固めに炊いたあんとの対比もあり、口の中が楽しい。
「干菓子は日もちがするもんやけど、これは早いうちに食べてもらうのがおすすめです」と店頭に立つ妻の祥子(よしこ)さん。80代夫婦と次期3代目・孝明さんの3人4脚で店を支えます。「家族だけの商いですから」と価格控えめなのがうれしくも、ありがたい。