尚、聞き手はオフィスの給湯室で抹茶をたてる「給湯流茶道(きゅうとうりゅうさどう)」。「給湯流」と表記させていただく。取材日は2023年7月下旬。川上さんには真夏のしつらえで茶室や茶道具を取り合わせていただいた。
茶道には、絶対守らなくてはならないルールなど無い
1回目の記事では川上さんの点前(てまえ)を見て抹茶をご馳走になり、2回目の記事で江戸時代の茶室を見学。そして今回は、阿部さん自身が点前をする様子をお届けする。
給湯流茶道(以下、給湯流):茶道にはいろいろな流派があります。目の前の阿部さん、若い人に江戸千家の魅力をプレゼンするとしたらどうおっしゃいます?
川上新柳(以下、川上):普段「うちの流儀はこんな良いところがあります」と自分でいうことはあまりないのですが(笑)…。敢えて言うなら「本質性と実践性」ですね。茶道の本質は心地よい時間、空間を作ること。その根本を忘れずに実践する。
阿部顕嵐(以下、阿部):あ、なるほど。
川上:例えば、うちの流儀は必ずお茶の泡を立てる、とか絶対守らなくてはならないルールなど無いと考えています。形を決めるのではなく、その状況ならこうしたほうがうまくいくことが多いよ、と提案させてもらう。そのようなスタンスですね。
阿部:心打たれました。形が大事なのではなく、お客さんを心地よくさせるのが本質だと。
川上:ありがとうございます。
無駄を省いた時短の工夫が実はすごい、茶道の作法
川上:では点前の一部を体験していただきましょう。茶杓(ちゃしゃく)、竹のスプーンみたいなものを右手でとり(一部省略)……茶杓をもったまま茶入れの蓋をはずして、茶碗の脇においてください。
給湯流:竹のスプーンをもった手で、そのままほかの道具の蓋を開ける※と自分が稽古で教わったときは、驚きました。極端なたとえになりますが、スプーンを持ったままジャムの瓶の蓋を開けるようなもの。時短ですね!
「茶道のお点前」ときくと、1つ1つ細かい動作をするイメージがあるかもしれない。しかし、意外と効率的な動きが多いのだ。ある1つの動作が次に必要になる動作に繋がるように考えて構築されている。現代では、いろいろな流派の点前の違いを見て楽しむ人も多くいる。様々な効率的工夫を見たいからかもしれない。
阿部:お点前は、無駄を省いた引き算、という感じがします。
川上:そうですね。
川上:次はお湯を汲みましょう。お湯が熱そうだなって感じたら、水を足して温度をコントロールします。多分、これぐらいの湯気なら温度はちょうどよさそう。お湯を汲んで、茶碗にあけましょう。
千利休が活躍する100年以上前。足利将軍が抹茶を飲むときは、バックヤードで家来が抹茶をたててから部屋にもってきたようだ。もしかしたら家来は裏でこっそりお湯を飲み、温度を確かめることができたかもしれない。しかし利休は、客の前で点前をするので自分で飲むのは無理。湯気の姿をしっかり見て温度を判断する、というわけだ。
※茶杓を持ったまま茶器の蓋を開けるのは、現代では一般的な点前動作。しかし古式の点前や格式高い点前では、茶杓をきちんと置く別の場所が用意されている。茶器の蓋を開ける時には茶杓を持たずに開ける。
茶道の点前は、ダンスに似ている? いかに美しく見せるか
川上:では茶筅(ちゃせん)で抹茶をかき混ぜます。茶筅を速く振るよりも、 ストローク幅をできるだけ広くするのがおすすめ。茶碗めいっぱいを使うつもりで振った方が、攪拌(かくはん)しやすいですよ。
阿部:わかりました。
給湯流:阿部さんのファースト・ティーができあがりました!
阿部:ぜひ飲んでください。
川上:ありがとうございます。では、いただきますね。
川上:とてもおいしいです。僕の点前を一度ご覧になっただけなのに、すぐ手順を覚えてすごい。そして根本的に美しい動き方される人だなと思いました。もっと姿勢を修正する時間がかかるかなと予定していたのですが、まったく不要でした。
阿部:ありがとうございます。ダンスを習っていたからかもしれません。先生の動きを見て、自分の身体ならどの角度にすると美しく見えるか、といったことを考えていますので。
給湯流:茶道の点前と、ダンスの振り付けに似ている部分はありましたか?
阿部:似ていますよ。先に川上さんのお点前を拝見して、どう美しくかっこよく見せるかが本質なのだろうと思いました。作法というより、突き詰めたら点前の動きが決まっていったという。
川上:そうですね。
阿部:効率がよく、いかにどうかっこよく見えるかが大切。ステージ上でフォーメーションを変えるときも、ただ走るとかっこ悪いから、正面向きながら移動することがあります。ダンスのそういう要素と、茶道のお点前が似てるなと思いました。
湯気がこんなに美しいと思ったのは初めて。戦国武将の憩いになった理由がわかった気がする。
阿部:お茶をたてている間、無心になれるのもよかったです。お茶のことしか考えないから、何事も忘れられる。
給湯流:本当ですか? 茶道の稽古のとき自分は、先生やお茶仲間にずっと自分が見られていると緊張したり、よく見せようと邪念がでてきたりします。
川上:たしかに。初めて点前のお稽古をした人が無心になれるとは、すごいです。
阿部:きっと筋トレをしているからだと思います(笑)。
給湯流:なんと! 筋トレをする人は、すぐにゾーンに入れるということでしょうか。戦国武将も体を鍛えていたはず。武将が抹茶をたてるときは、戦や死を忘れて無心になれたのかもしれないですね。
阿部:そして、湯気ってこんなに美しく見えるのか、と思いました。お湯が茶碗に入るとき、抹茶をかきまぜるときなどの、音も素敵。戦国武将が憩いの場にしていた理由が分かった気がします。
川上:そう言っていただけて、嬉しいです。今回は江戸時代の茶室や古い茶碗などをみていただきました。しかし最高の道具や建物の中でしかお茶ができないわけではありません。自分なりの茶の楽しみ方もあると我々は提案しています。いろいろなハードルをなぎ倒してお待ちしていますので、ぜひ若いかたもお茶を体験していただきたいです。
阿部:今日は貴重な機会を、ありがとうございました。
インタビュー・本文/給湯流茶道 写真/篠原宏明 スタイリング/川上新柳・阿部顕嵐(私物)撮影協力/江戸千家
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