福島県・会津東山温泉「向瀧」で知る
〝伝統建築〟の粋
明治6(1873)年、旅館として創業してちょうど150年。福島県会津東山(あいづひがしやま)温泉一の風格をたたえる木造建築に、「向瀧(むかいたき)」の歴史の重みを垣間見ることができます。3000坪という傾斜地に造営され、高低差のある客室棟が織りなす姿はまさに唯一無二。会津の職人と東京の職人が得意技で競演した〝伝統建築〟の粋を味わいに、出かけてみました。
唯一無二! 建築の文化財に泊まれる湯宿
登録有形文化財第1号の宿に息づく〝会津の剛〟〝東京の粋〟
天平年間(729~749年)、高僧・行基(ぎょうき)によって発見されたと伝わる福島県の会津東山温泉。奥羽三楽郷(おううさんらくきょう)のひとつに数えられる、約1300年の歴史を誇る名湯地です。江戸時代には会津藩の保養地として栄え、上級武士を癒やしていたのが「きつね湯」と呼ばれた温泉施設。明治になり、その施設を引き継いだのが、ここ「向瀧」です。
旅館として創業した当初は、玄関と2階建ての客室棟というシンプルな造りでしたが、時をかけて姿を変えていきました。最初期の部分も生かしつつ大正時代初期に完成したのが、現在の玄関棟である母屋。寺院建築にもよく見られる入母屋造(いりもやづくり)の屋根が印象的です。
そして昭和9(1934)年に行われた大普請で、現在の「この棟は3階建て? 4階? ここはなん階?」と不思議な感覚に陥る多層階建てに。その際には地元の大工に加え、東京からも職人が集まり、腕を振るいあったとか。
傾斜地だからこその複雑な建築構造。会津美里町東尾岐(ひがしおまた)という地域の15mもの長さの一本杉を廊下の梁(はり)に使用し、柱の豪快な鉈(なた)彫りなど 〝剛〟を感じさせる仕事ぶりは会津の職人によるもの。東京の職人は、客室の欄間(らんま)や襖の引手をはじめとする〝粋〟な細工などにも洗練された技術を披露しています。
旅館建築の遺構としても貴重な「向瀧」。平成8(1996)年の文化財保護法改正により、玄関棟や客室棟など4棟が登録有形文化財として指定されました。
向瀧では、あちこち見学せずにいられない!
【湯宿DATA】
向瀧(むかいたき)
住所:福島県会津若松市東山町湯本字川向200
電話:0242-27-7501
宿泊料金:2名1室利用時1名23,250円(税込)~。※1泊2食付、1室1名利用時はプラス5,500円。
アクセス:JR磐越西線「会津若松駅」よりタクシーで約10分(送迎なし)
公式サイト:https://mukaitaki.com/
撮影/篠原宏明 構成/小竹智子
※本記事は雑誌『和樂(2023年2・3月号)』の転載です。
※表示の宿泊料金は税金・サービス料込みの金額です。別途入湯税や、入浴料などがかかる場合があります。また、連休や年末年始など、特別料金が設定されている場合もあります。
※お出かけの際には宿のホームページなどで最新情報をご確認ください。